第6話 山口の勇者

 広島と岡山は山口の家に到着した。長閑なこの地では、恐ろしい事件などなかったかのように静かな時が流れている。

 二人を迎えたのは、ふっくらとした頬も笑顔も見る影なくやつれた山口の妻であった。

「ああ、広島さん、ちょうどよかった。今からうちら家族は市民となる。夫はもうおらんし、剣ものうなってしもうて息子たちも力を使えんけぇ。どうか、うちらの土地も守っていただけんか?」

 部屋に案内された広島と岡山は、お茶を啜りつつ静寂に支配された広い家を落ち着きなく見回す。

「大丈夫じゃけぇ、何があったのか聞かしてつかぁさい」

 料理までも用意しようとしていた山口の妻を呼び止めて、広島は低い声で頼んだ。座るように促しても彼女はそれに応じず、言葉を慎重に選びながら立ったままで語り出した。

「うちが聞いたさあ、夫が死んだちゅう報告じゃ。モンスターに食い荒らされて、遺体はボロボロじゃったちゅう」

 彼女の声は震えを増していく。その声は涙を堪えているようでもあり、悔しさや怒りを滲ませているようにも聞こえる。

「こねーなときじゃけぇ息子も強うあろうとしてくれちょったんじゃけど、どうやら剣も見つからんみたいだし、後の調べで夫はモンスターになんかやられちょらんってこともわかったけぇ、もう諦めて市民となることに決めたんじゃ。息子たちは先にうちの家に行っちょる」

 話しているうちに感情が沸き上がってきたのか、今にも崩れ落ちそうに膝が揺れ、床を抉らんばかりに彼女の足に力が入る。岡山は手のひらに己の爪が食い込み小さな切り傷までを作っていたが、それにも気付かず歯を食いしばっていた。

「そうか。わかった。もう話さんでええ。こがいな事件じゃけぇまだ時間はかかる思うが、良けりゃあ葬儀にゃあ呼んでつかぁさい。お辛い中ありがとの。山口君が守っとった土地、絶対に守るけぇ」

 隣に座る若者の肩を叩き意識を戻させると、広島は歩き出す。早足で行く二人が言葉を交わすことはなかった。頷き合うことすらしない。しかし互いの胸に微かにあった疑いの心は、完全に消え去った。

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