第3話 大阪部隊の勇者たち

 東京の訃報が全国を駆け巡り、最初に動いたのは京都だった。京都の勇者は二十代の若い男性であるが、全ての決定は彼の祖父が行っていた。

「東京さんが死なはったみたいやね。大阪さんがリーダーを務めはる部隊でうちらが従うなんていう斬新な人事はそろそろ抜けてええんちゃうかな」

 その言葉を受けて、勇者はすぐに大阪部隊からの脱退を宣言した。短い黒髪と薄灰色の上品な着物、にこやかに笑う青年は、腰に小さな剣を隠している。羽織った上着で京都の剣はシルエットを見せるのみであり、その剣がたくさんの宝石に飾られていることを外からは知ることができない。


 部隊のリーダーである大阪は、東京の死と同時に京都の脱退も知ることとなった。

「まあ、京都の野郎はやる思ってたわ。ええんやけど、ええんやけど、もっと先にやることないんかな」

 大阪の勇者もまた若い男性である。上下ともに派手な柄物で合わせ、セットしていない長めの黒髪を掻き上げ、雑に履いた靴の踵を踏みつける。普段は遠慮のない明朗快活な青年であるが、珍しく歯切れが悪く、ニュースを知ってから落ち着きがなく歩き回っている。

「東京は気に入らんけど、まだ若いのに死んでんねやろ。それを待ってましたと言わんばかりに」

 大阪と一緒にそれらのニュースを知ったのは奈良だ。大阪と同齢の女性で、長い茶髪と派手な上着、ズボンはジャージであった。苛々している様子の大阪に、彼女は「せやな」と小さく相槌だけを打つ。奈良は遠慮がちなところはあるが、大阪と同じく明朗快活でお喋りな性格であるから、何かを考え込んでいるということは珍しく、どうやら思うところがあるらしいことは明らかであった。

「東京さんのおかんに会うたことあるんやけどね、ほんまに子供が可愛くて堪れへんちゅう感じでね、あの人、大丈夫やろか」

 生まれたばかりの自分の息子のことを思いながら、奈良は呟いた。しかし彼女はまた、そうしている時間がないこともわかっていた。

「でも、ええの? 京都みたいな人が他にもおったら、東京に代わって首都になろうとする奴も出るんちゃうかな」

 いつだって笑顔の大阪と奈良であるが、今日の二人にそれはない。奈良の言葉に大阪は大きく息を吐き出して、苦しそうに絞り出した。

「一番になる、…………チャンスやな」


 大阪部隊には、大阪、京都、奈良、そしてもう一人、和歌山が所属していた。こちらもニュースを聞いてからの行動は早かった。和歌山は、三十代半ばの坊主頭の男性である。地味で動きやすい服に着替え、身に着けていた装飾品を全てバッグに詰め込み、妻と二人の子供を連れて姿を消したのである。

「戦争になるで。きっとなるで。巻き込まれたらあかん」

 自分の力がそれほど強くないことを、彼はよく知っていた。いざというときに、自分の身は自分で守らなければならないということも、彼はよく知っていた。

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