第18話 生産者の道へ

「ちょっと!完成したなら、さっさとこっちにも見せてよ!」

「うおっ?!・・・おい、脅かすなよ!」

「うっさい!ほら、早く、早く!」

 いつの間にか近寄ってきたアヤが、イライラした様子で俺の耳元で声を荒げた。

 おいおい、ようやく成功したんだから、もう少し余韻に浸らせてくれたって良いじゃねえか。

 しかし、そんなことを言った所で、倍以上の文句が飛んでくるだけだ。俺はため息を吐きながら言われた通りにカメラに刀を向けてステータスをウィンドウで開示する。


【鋼鉄の太刀】

種別;マテリアル/武器

攻撃;24

重量;12

耐久;150

効果;パリィ成功時、耐久値の減少を無効にする直刃の太刀。

状態;未完成



「おー!思ったより強い!」

〈攻撃力24?!〉

〈ふ、ふつくしい」

〈ちょっと待って、初成功でこの性能?!〉

〈鍛造だから普通の剣より強いのは分かるけど・・・〉

〈ただの鉄で効果付きかよ〉

〈マジか〉

〈これは業物ですわ〉

 俺が掲げた刀のデータを見て、アヤが声を上げた。

 それと同時に、コメントも一気に湧き立つ。

 なんというか、思った以上に反応が良いな?

 何を驚いているのかと思って聞いてみたら、「鉄製の装備」としては、最高クラスの数値と性能らしい。特に、特殊効果が付いているのが予想外だったようだ。

 しかも、このサイズで大剣などの大型武器クラスの攻撃力があるというなら、まあ、確かに驚くわな。

「やっぱ鍛造は、上位の生産法って扱いなんだな」

「うーん・・・どうなんだろ?何でもかんでも鍛造で作れば性能アップ、とはいかないだろうし。刀自体に何か特性があるとかかも?」

「・・・まあ、単純に二重構造ではあるしな」

 単純に鋳造で作る剣よりかは、日本刀が複雑な構造なのは間違いない。

「それに、添加剤とか鍛接剤、あとは泥なんかも使うし、その辺変えたりすると性能も変わったりするんじゃねえか?」

〈兄貴さん、その辺kwsk〉

「いや、詳しくって言われてもな?」

 ただ、刃金と芯金は、厳密には違う合金と言える訳で、その性質を左右する添加剤は、結構重要なんではなかろうか?

「属性とかを付与したりとか?」

「あり得そうだな。何使うのかは知らんけど」

 刀作りが他の武器と明らかに違う点は、1種類の金属素材を2種類の配合の違う合金にして組み合わせるという所だ。

 その辺におそらく秘密がある気はする。

「あとはまあ、刃紋もありそうだよな」

 地味だが、刀の印象を大きく左右するのが、刃紋だ。

 刃紋の種類で性能が変わるとか、ゲーム的にあり得そうな話である。わざわざ効果に記載があるだけに、単なる模様ではない気がするのだ。

「まあ、試してみなきゃなんとも言えんが」

「うーん、他の素材は・・・添加剤に代用出来そうなモノは、私も持ってないかな」

「刃紋だけは、まあ、一応試せるか」

「「・・・・・・」」

 検証要素を見かけると、ついつい分析してしまうのがゲーマーだ。

 という訳で、作業時間を延長してもう一振り、今度は刃紋を直刃から乱れ刃に変えて作ってみる。

 前回7回も失敗をした事もあり、今回は3回目で成功した。出来上がった刀を、先に作った刀と並べて確認する。


【鋼鉄の太刀】

種別;マテリアル/武器

攻撃;24

重量;12

耐久;150

効果;クリティカル時、耐久値の減少を無効にする乱れ刃の太刀。

状態;未完成


【鋼鉄の太刀】

種別;マテリアル/武器

攻撃;24

重量;12

耐久;150

効果;パリィ成功時、耐久値の減少を無効にする直刃の太刀。

状態;未完成


「・・・変わったな」

「これは・・・刃紋で効果の傾向が変わる感じ?」

「そうだな。大元が変わる感じじゃないな」

 効果結果はどちらも変わらないのを見るに、刃紋は効果というより用途変更要素っぽいと俺とアヤは予想した。

「直刃は防御用。乱れ刃は攻撃用・・・的な?」

「そんな気はするな。他にも、何個かパターンがあるのかもしれねえけど」

 素人の俺には、刃に沿って真っ直ぐ引くか、適当に波線を引くくらいしか出来ねえ。

 それに、まだ刀は完成してないのだ。

 これ以上は、色々時間もかかりそうなので、検証はここで一度保留とする。

「じゃあ、あとは仕上げだね。さっさとやっちゃってよ」

「あー、そうだな」

 刀本体は出来たものの、まだこの刀は、鞘も鍔も柄さえない完全な剥き身だ。

 このままでも、無理をすれば使えない事はないのだが、当然、それらがあった方が使いやすい。

 そして実を言うと、それらの部分こそが生産プレイヤーとしての「こだわり」部分だった。

 まあ、今の俺にそんな事は不可能だが。

「とりあえず、今回は『オートフィニッシュ』で終いだな」

「えー?せっかくの自作なのに?」

「良いんだよ、初めての試作品なんだから。そもそも俺は、まだ【細工】も取ってないし、鞘とか作る材料もねえよ」

 刀に限らず生産品には、『オートフィニッシュ』と『エクストラフィニッシュ』という「仕上げ工程」がシステム的に選択出来る。

 どういう事かというと、運営側が設定した外観とプレイヤーが自作した外観を選択出来るのだ。

 刀の場合だったら、柄や鍔、鞘などがそれで、『オートフィニッシュ』を選択すれば、素材消費なしで刀身が規定の柄や鞘に収まる。

 なんだそれは?と思うかもしれないが、ゲームでよくあるポーションなどを作ると勝手にガラス瓶に入った状態で完成するのと同じ理屈である。

 ゲームなので、そういうものだ。

 しかし、それでは個性もクソもないので、生産プレイヤーは、追加作業や素材消費で、外観を弄れるようにもなっている。

 それが『エクストラフィニッシュ』だ。

 これを選択すると、素材や手間はかかるが、鞘の色や鍔の形状、柄の握り易さ、果てには追加効果なんかも全て調整出来るようになる。

 この『エクストラフィニッシュ』が、生産プレイヤーの腕の見せ所の一つという訳だ。

「ここまでやっといて、オートはちょっと締まらないんだけど・・・?」

「うっせえ、無理なモンは仕方ねえだろ」

 試作品なんてそんなモンだ。

 俺の作った刀は、『オートフィニッシュ』の処理によって2本ともデフォルトのシンプルな黒鞘の刀になった。

 少々味気ない出来栄えではあったが、その辺は今の俺の実力の問題なので、甘んじて受け入れるしかないのである。

「とりあえず、使うのは直刃の方でいいか。こっちは、とりあえず仕舞っとこう」

「・・・そういえば二刀流とかやんないの?」

「いや、刀って基本、両手剣だからな?両手で振った方が、基本、強いんだぞ」

 両手で持って、テコの原理で振ったり、押さえたりする方が威力も乗るし、制御もし易いのである。

 ルール上、二刀流も可能な剣道が、結局、一刀流の選手ばかりなのは、伊達ではないのだ。

 俺は、アヤやリスナーのコメントに適当に言葉を返しながら、デッキに【鋼鉄の太刀】を組みこんだ。

「よし。とりあえず、こんな感じか」


ステータス

名前;ユーフラット

性別;男性

レベル;14

HP;1000/1000 MP;1/34 SP;70/70


職業;【侍LV11】【鍛治士LV10】


称号;【ルーキー】【新米組合員】



ジューカー;【カース・オブ・ブラック】


装備;【鋼鉄の太刀】【護身ナイフ】【粗末な革の胸当て】【硬皮牛の手甲】【革のブーツ】【重鉄の鍛治槌】【アームドバンクル】


スキル;【剣術LV12】【生産の基本LV10】【クリティカルLV14】【発見LV9】【採掘LV7】【鍛治術LV8】【剛力LV5】


召喚;【ウィスプLV30】


ショートカット;【初心者ポーション】【バインダー(採掘用)】



 メイン武器を新調した刀に変えて、【初期装備(武器)】は、【護身ナイフ】に再設定。

 脇差代わりにベルトに挿し込んでおく。


【護身ナイフ】

種別;マテリアル/武器

攻撃;5

重量;2

耐久;100

効果;なし


 性能は微妙だが、刀二本差しは、流石に重いのだ。【重鉄の鍛治槌】を外す手もあるが、コイツはピッケル代わりでもあるので、出来れば持っていたい。

 タイミングを見て、脇差も作った方が良いかな?あとで考えよう。

 そんな事を考えながら、最後に俺は、道具類を一気にカード化してボックスへ戻した。これで出発準備は完了だ。

「よし、準備オーケーだ。アヤ、待たせたな」

「ホント、待たせすぎー。でもまあ、その分、少しは格好もマシになったし、ヨシとするかな」

 胸当とブーツは初期装備のままだが、それでも他の装備類は色々変わって、初心者感がだいぶ抜けたとアヤは満足そうだ。

「うんうん、少しは強そうな感じしてきた」

「へいへい、ありがとさん」

「よし・・・じゃあ、みんな、今日は兄貴の作業に付き合いありがとねー」

〈ええんやで〉

〈雑談楽しかった〉

〈いいもん見れたわ〉

〈それな〉

〈刀鍛治やってる人、あんまいないからな〉

〈雑談配信、今後も希望〉

 アヤの方も、リスナーに挨拶やスパチャのお礼などをして、配信を締める段取りに入る。

「思ったより雑談も出来たし、今日はここでお開きね」

「良いのか?結局、フィールド行けてないけど・・・?」

「・・・まあ、このまま移動してもダレるだけだしねー、いろんな意味で」

「・・・まあ、移動中は何かあるでもねえしな」

 歩きながら雑談をする手もあるだろうが、腰を落ち着けて雑談した後では、内容が薄まるだけで面白みがない。

 だったら、無理に続ける必要はないと、アヤは言った。

「元々今日は、兄貴の紹介がメインだったしね。アレだけ色々喋れば、紹介としては十分でしょ?」

〈せやな〉

〈無職の兄貴さん、EOJ楽しんでね!〉

〈期待してるで、プー兄さん〉

「・・・オイ?」

 人の作業中に、何を喋りやがった?

 思わずアヤに鋭い視線を送るが、アヤは気付かぬフリ。

〈アヤノンいい笑顔で草〉

〈・・・お前ら、少しは遠慮したれよ〉

〈でも、コイツ、アヤノンを虐めたりするって〉

〈いや、それはそれで・・・〉

〈兄貴さーん、アヤノン何でもいいから今度ゲームで泣かせてー!お願いしまー」

〈兄貴さん、クビになったんだって?涙拭けよ〉

「・・・・・・」

 アヤの奴・・・何をどこまで喋りやがった?

 無職な事くらいは、まあ良いんだが、昔の事を持ち出されると、色々面倒なんだが。

 まあ、いい。あとで覚えてろよ。

「それじゃ、今日はこの辺で!次回は、今度こそ兄貴とフィールドに行ける、かも?・・・まあ、兄貴次第って感じだけど!」

「・・・まあ、やれる範囲でな」

 どうやらアヤは、先のフィールドへガンガン進むつもりらしい。まだ俺は、第2エリアに入ったばっかなんだが・・・。

 ただ、新調した装備やウイリーの実力を試すには良い機会だ。

 次の配信は、とりあえず言われた通りアヤについて行けば良いだろう。

「でも、どこ行くんだ?」

「うーん・・・とりあえず、サーディアを目指す感じかなー?」

「・・・サーディア?」

「第3エリアの街ね。私も普段はそっちがメインの拠点なの」

 サーディアは、セカロンの先にある大きな街でエリア的には第3エリアとなるらしい。

 アヤのような前線プレイヤーの拠点となっている街で、最も攻略が盛んなエリアだそうだ。

〈もうサーディアに進むんか〉

〈速いなぁ〉

「ただし、サーディアに行くには、『暗闇の窟』を抜けなきゃなんだよね」

「え・・・あそこを?」

「うん。でもぶっちゃけ、配信には向かないんだよね、あそこ」

「あー・・・」

 俺もアヤも、思わず声のトーンが下がる。

 なにしろ真っ暗な上に、トラップ山盛りのダンジョンだ。

 攻略するのは、なかなか面倒くさい。しかも、視界が悪いので、地味かつ余所見も出来ないので、配信には全く向かないエリアだ。

 正直、気乗りする要素が何もない。

〈まあ、なんも見えんしね〉

〈ホラゲーみたいにはなるけどねー〉

〈ぶっちゃけ、この2人は、怖がるタイプじゃないよなー〉

 まあ、ぶっちゃけ、ダレるだけだな。視聴者からの反応もイマイチだ。

 そこでアヤは続ける。

「だから、兄貴にはニニムのルートがいいと思うんだよね」

「ニニム?」

「ニニムは、【ファーマー】とか生産系の人が集まってる職人の村って感じかな」

 ニニムは、ファースの西に位置する大規模な農業エリアが特徴の村だとアヤは語る。

 ファースには、あまりプレイヤーが自由に出来る土地がないので、畑が欲しい生産プレイヤーなんかは、そっちに進むんだそうだ。

「畑・・・野菜とか作るんか」

「そうそう。あとは近くの森から採れる材木や食材とかね」

 野菜や野草、木材に木の実、動物の肉や素材など、森や畑から様々な素材を入手できる生産プレイヤーの重要拠点らしい。

「生産プレイヤー向けのエリアって事か」

「うん」

〈せやな〉

〈長閑で良いとこだよ〉

〈クエストとかは何にもないけどね〉

「攻略ルートからは外れるけど、それ以外のコンテンツがある感じ?」

 普通の戦闘職向けのいわゆる攻略ルートが、セカロン。

 対して前線に行かない生産職は、ニニムを拠点にして地盤固めをするようになっているらしい。

「だから、むしろ兄貴は、ニニムに行くのが合ってるかも?な訳」

「まあ、俺も一応、生産プレイヤーだしな」

 生産ルートと言うなら、確かに俺もそっち側だわな。ただ、

「・・・それは良いけど、サーディアに行くって話はどうなったんだ?」

「そっち側から行くルートもあるんだって。ちょっと難易度高いけど」

「ほう?」

 詳しく聞くとサーディアは、ファースから見て南西にある街らしい。

 しかし、第1エリアのファースから第3エリアのサーディアに直接向かう事は出来ないそうで、第2エリアの「南の宿場町セカロン」か「西の村ニニム」を経由する必要があるそうだ。

「2人で『暗闇の窟』を抜けるくらいだったら、ちょっと手間だけどニニム経由で行く方が楽なんだよね」

 レベル帯は高くなるが、ニニムから森を南に抜けて行けば、サーディアに行けるらしい。

「本当は、プレイヤーがサーディアの住人をニニムまで護衛するミッション用のルートなんだけど・・・兄貴と私なら、問題ないでしょ」

「なるほど」

 どうやらこちらは、ニニム→サーディアというよりは、サーディア→ニニムのルートという事らしい。

 なので、当然、道中の敵は全て第3エリア相当になるらしい。

 ちょっと面倒ではあるが、それでも俺とアヤの2人で進むなら、モンスターを蹴散らしていく方が数段楽だし、配信映えもするはずだ。

 アヤの提案も納得である。

 そんな事を思っていると、アヤがニッコリと作り笑いを浮かべているのに気づく。

「なんだよ?」

「じゃあ兄貴、今度はニニムで待ち合わせって事でヨロシク!」

「え?・・・あー、つまり次回までにニニムに行っとけって事か」

「YES!流石、分かってる~。とりあえず、私は第4エリアに戻るから、ニニムに着いたら連絡してね!」

 俺の言葉に満面の笑顔で親指を立てるアヤ。

「・・・まあ、そうだよな」

 ファースからニニムまでのエリアは、第1エリア。普通に考えて、わざわざアヤが俺に付き合う意味は皆無だ。

 着いたら連絡しろ、は妥当な対応と言える。

「分かった。まあ、明日、いや明後日には向こうに着いて連絡するわ」

 その気になれば、今日中にでも余裕で辿り着ける気はするが、俺だって少しは寄り道やレベル上げをしておきたい。

 俺もまだまだゲームに慣れてる訳でもないし、昨日色々トバした分、少しのんびりするのも良いだろう。

「うんうん。良いんじゃない?」

「悪いな」

「うううん、私も前線がちょっと恋しいし、ちょうど良いよ」

〈せやな〉

〈アヤノン、早く戻ってきて~〉

〈湖のボス、一緒に行こうぜ!〉

〈いやいや、ウチのパーティと一緒に!〉

 前線復帰の知らせを聞いて、リスナー達も一気に沸く。

 流石に連日、俺と初期エリアをウロウロじゃ、アヤもリスナーも退屈していたらしい。

 そういう意味でも、別行動は歓迎されているようだった。

 なるほど、なら遠慮なく自由行動させて貰おう。

「じゃあ、次はニニムでな」

「うん。じゃあ、そういう事で、みんな、今日はお付き合いありがと~!!次回は、明日、私1人で止まってた第4エリア攻略の予定!夕方には、SNSに告知するから、みんな、よろしくね~」

「えーと、ありがとうございました」

 俺がぎこちなく挨拶したのを確認して、配信は終了した。

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