第12話 召喚札
「さて、じゃあ最後のお楽しみだな。あのPK野郎が落としていったカードだ」
そう言って、バックさんが4枚のカードを出した。
「あ!『浸透毒』?!」
「こっちはコンカね?召喚系?」
「【ウィスプの召喚札】と『浸透毒』が二つ。あとは『ルビー(大)』だな」
「ハイハ~イ!『浸透毒』!『浸透毒』ちょうだい~!・・・あぎゃ!?」
なんかルルさんがテンション高いな。凄い勢いでバックさんに詰め寄ってる。
しかし、騒ぎ過ぎたのか、火乃香がハンマーでルルさんを黙らせた。
「痛いよ~ほのちゃ~ん」
「・・・ルル、煩い」
「だって~」
「そもそも黙ってたって、コイツはお前行きに決まってんだろうが」
どうやらレシピ不明の毒物らしく【錬金術師】のルルさんには、重要な研究材料らしい。
そんな訳で、満場一致で『浸透毒』2つはルルさんの物となった。
「コイツはウチのメンツだから、残り2つはそっちで分けてくれ」
「私はいらないわ。どっちも使わないもの。アラン?」
「強いて言うならルビーかな?杖の素材になりそうだし?」
「じゃあ、俺はコイツか?」
と言う事で、俺は緑色のカードを手に取ってみた。
【ウィスプの契約札】
種別;コントラクト/召喚
効果;モンスター【ウィスプLV1】を召喚する。
「召喚?・・・モンスターを?!」
「そうよ。ファースで見かけなかった?モンスターを連れてる人が結構いたと思うけど?」
「・・・覚えてねえ」
街はほぼスルーだったからなぁ。周りのプレイヤーの事なんて、ほとんど見てなかった。
「まあいいや。・・・でも、どういう事だ?モンスターを召喚って、普通、専門職にしか出来ないイメージだけど」
「あー、その辺も知らない感じか」
「初心者だもんね。まあ、簡単にいうと、召喚だけなら誰でも出来るんだよ、EOJでは」
「?」
聞いてみると、EOJにおけるモンスター召喚使役は、コントラクトカードの効果によって行われる。
そして、そのコントラクトカードは、そのモンスター自身のレアドロップに設定されているらしい。
「つまり、モンスターを倒していれば良い訳だから、召喚札のカードを手に入れる事自体は、難しくはないんだよ」
「へえ、なんか意外だな」
そういうのって、テイムみたいなスキルで仲間にするイメージだった。
まあ、EOJはその辺違うって事だろう。
そして、手に入れたカードをデッキに入れれば、モンスターを呼び出して戦わせたり出来る訳だ。
「まあ、そこまでやる人は、あんまりいないんだけどね」
「?・・・なんでだ?要するに誰でも魔物使いみたいな事が出来るって事だろ?」
「そうだよ。でも、それだとデッキの枠が足りなくなるんだよ」
アランさんは、肩をすくめながら、順を追って説明する。
「まず、モンスターを使役するには、当然、パーティ枠が必要になってくる。一応、1人1体の保証はされてるけど、それ以上は、パーティ枠が必要な訳さ」
「・・・EOJって5人パーティだっけ?」
「うん。だから、ソロプレイヤーなら、最大5匹まで出せる感じだね」
自分+保証枠+残りのパーティ枠4つで、自分と5匹になる訳だ。
そこで問題になるのが、デッキ枠である。
「要するに本格的な【テイマー】をやろうと思ったら、最低5枠はデッキ枠を使わなきゃならない訳さ」
「なるほど、そりゃ重い」
自分を強化する為の装備やスキルを外して、自分よりも弱いモンスターを入れるのは、そりゃ躊躇われる。
「それに、相手に合わせてモンスターを入れ替えられるのが、テイマー系の魅力じゃない?でも、そういうのを自由にしようと思ったら、予備のデッキ枠まで使っても全然足りなくなる」
「まあ、確かに有り得そうだな」
カードで管理するシステムなので、テイム枠みたいな制約はないが、デッキは20枚。ボックスも100枚だ。
デッキを切り替えて対応するにしても、デッキ変更には、ボックスにカードがある事が大前提だ。他のカードも入れる必要がある以上、圧迫は避けられない。
「あと、モンスターの育成は、経験値取得じゃなくて、素材強化なんだよね」
「?・・・素材?」
「アイテムを与えて強化していくタイプなのよ。連れ回して戦わせれば、強くなる訳じゃないって事」
「あー、そういう・・・」
スマホのソシャゲに多いタイプだな。アイテムさえ揃ってれば、一気に上限まで強化出来るが、それを集めるのがシンドイってなる奴。
「そういう意味でも、【テイマー】って大変なんだよ。自分のデッキを削ってモンスターを入れてるのに、素材集めが必須っていう」
「あー、確かにキツそう」
【テイマー】になれば、ある程度サポートして貰えるそうだが、それでも序盤は苦労が絶えない職業らしい。
「素材が揃えば、いきなりレベル30くらいに出来るらしいから、一概に弱い訳でもないんだけどね」
「それにしたって、レベルや進化にキャップがあるから、伸び悩みは確実なのよね」
総じて、大概のプレイヤーは、ペット扱いにするのがせいぜいで、戦力になるまで育てている人は、稀という感じらしい。
なるほど、だから街では出している人はいるけど、フィールドにはいないってなる訳か。
そこまで考えて、ふと疑問が過ぎる。
「なあ、それは分かったけど、だったらなんでコイツがドロップしてるんだ?」
デッキに入れてあるカードは、死亡時にロストしない。それは、大前提だったはずだ。
だったら、なんであのPKは、コイツは落としていったのか?
そんな疑問に、アランさんはあっさり答えた。
「それはもちろん、そのウィスプのカードが、ショートカットに入っていたからだよ」
「?・・・いや、なんで?」
「単純に召喚札は、ボックスやショートカットから直接出しても使えるからさ。ただし、その場合は、デッキのカードの補正は受けられないし、そうやってロストするリスクがあるけど」
「えー?」
デッキのカードとコンボ出来ないなら、そもそも使う意味なくないか?それにロストのリスクなんて負わなくても、普通にデッキに入れとけば良いじゃねえか。なんでそんな事・・・?
「その子は単純に、明かりとして入れてあっただけだと思うよ」
「明かり?」
「ウィスプって人魂だからね。宙に浮くし、移動も指示出来るから、カンテラとかよりずっと便利なんだよ」
「・・・あ~」
言われてみると確かに、カンテラより便利そうだ。デッキ枠を使わずに何度も利用出来る光源として、ウィスプは一定の人気があるらしい。
「【光球】が買えるようになったら、基本用済みになるんだけどね」
「ああ、さっきアランさん達が使ってた?」
「そうそう。そこそこ高いんだよね、アレ」
しかし、使い捨てとはいえ、そこそこレベルが上がって稼げるようになれば、全然買える値段らしい。
まあ、それは今はどうでも良い。それより今は、コイツをどうするか、だ。
「・・・とりあえず一応確認するけど、これだけでも使えるんだよな?」
「もちろん。素材が揃うなら、そこそこ戦力にもなるし」
「じゃあ、コレでいいや」
という事で、俺は【ウィスプの召喚札】をデッキに入れた。そして早速呼び出してみる。
「えーと・・・【召喚】」
「~!」
召喚札を呼び出して使うと、目の前にソフトボール程の赤白い火の玉が灯った。
どうやら、コイツがウィスプらしい。
ゆらゆらと燃えるその人魂は、特別鳴いたりする事なく俺の周囲を飛び回った。
とりあえず、割と好意的な反応っぽいな。試しに大人しくしろと言ってみると、黙って俺の隣で静止した。
そんなウィスプの反応に、俺はほっと息をつく。
「良かった。【テイマー】じゃないから、言うことを聞かない、とかはなさそうで」
「基本的にそういうのはないよ。ただ、補正がないから、あんまり強くはないけど」
「ふーん、まあ、その辺は試せば良いや」
とりあえず、どう使うかは後で考えれば良いだろう。
「よし。ありがとう、色々分からなかったから、助かったぜ」
「おいおい、それを言うなら、助かったのは俺達だぜ!お前が来なかったら、せっかくボスを倒して集めた素材が、全部オジャンだったんだからな」
そう言って、バックはバインダーを出して示した。どうやらそのバインダーの中には、ボス素材がギッシリ詰まってるらしい。
そしてさらに、バックさんはスマホを操作して俺にメッセージを送ってきた。
「・・・コレは?」
「俺のフレコだ」
パーティリンクを介して送られてきたメッセージを開くと、中身はフレンドコードだった。
思いがけないフレンドの申請に俺は思わず目を瞬かせる。そんな俺に、バックさんは唇の端を釣り上げて続けた。
「何か入り用の物があったら、気軽に言ってくれよな。俺は、本職は【木工職人】だが、『ジョーカーマーケット』は商売の為のクランだ!なんでも作るし、持ち込みも大歓迎だ!」
そしてそれを皮切りに、他の4人からも次々にメッセージが飛んでくる。
「・・・はい。【鍛治士】で分からない事があったら気軽に聞いて」
「はい、これが私ね~!お店の場所も載せとくから~ポーションは是非ウチで買ってね~」
「正直、今日は助けられたわ。この分はちゃんと返すから、タンクが必要なら呼んでちょうだい」
「もし興味があったら、ウチのクランハウスに遊びに来てね。その時は、歓迎するからさ」
「あ、えっと、・・・ありがとう」
早速、フレンドコードを読み込んでまとめて承認をすると、5人の名前がフレンドリストに登録された。
それと同時に、俺の名前も向こうに登録されたようで、全員満足そうに微笑んだ。
「よし。じゃあ、今日はありがとな!」
「またね~」
「・・・じゃ、また」
「お疲れ様」
「またその内・・・」
「ああ、また・・・」
そう言葉を交わして、5人はパーティを解散して次々に消えていった。
それを見送って、俺もメニューからログアウトを選ぶ。
最後は色々バタバタしちまったが、色々収穫も多かった。
さっさとやる事終わらせて、刀作りを始めないと、と俺はリアルへと戻るのだった。
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