4話 殺人犯
1人は、私と同じ営業部の社員だった。
彼女が、1年かけて1億円の案件の受注に成功したと言い張っている。
でも、私が自分の成果だと上司に言って、手柄を取られたと言っているらしい。
周りに毎日のように文句を言い、殺してやるって話していたとのことだった。
「ひどいじゃない。私が1年もかけて受注した案件を横取りするなんて。」
「何言っているの。あなた知らないから言ってあげるけど、この案件は、私がお客様の社長さんと飲みに行って、そこで約束した案件なのよ。私がクロージングしたんだから、私が受注したって言って何が悪のよ。」
「枕営業したってこと。汚い女ね。私が、担当者から部長にまで話しを通して、会社に貢献するって毎日のように提案して、どれだけ苦労したと思っているの。」
「私は、寝たりはしていないわ。社長さんが悩んでいたから、他社の成功例とか説明して説得したのよ。私がいなければ、他社に流れていたんだから。あなたの努力と実力なんて、そんなもんよ。だいたい、下から積み上げなんて、今は、そんな時代じゃないのよ。」
「あなたは、いつも、そんなやり方なのね。私が提案していること知っているんだから、私にアドバイスすればいいでしょ。そんなんだから、みんなから嫌われるのよ。」
「別に、嫌われていないし。実力がないからって、逆恨みしないでよ。まあ、実力がない人ほど、吠えるのよね。黙っていればいいのに。」
「本当に、腹立つ人ね。もう話すのも嫌だわ。」
「そう、くだらない人は黙っていればいいのよ。」
本当に、できない人は困るんだから。
正論を言っているだけなのに、どうして恨まれるのかしら。
あなただけじゃ、受注できなかったのよ。
それを私が横取りしたなんて、いいがかりじゃないの。
警察は、このような関係は傷害の十分な動機になりえると考えているらしい。
一番の容疑者と考えていたようね。
もう1人は、総務部の備品係の女性で、私が、事あるごと叱っていた人だった。
「あなたね。私、ホワイトボードのマーカー頼んでるのに、いつになったら来るのよ。もう2日も経っているのよ。どんだけ仕事できないんだか。給料泥棒さん、聞いてる?」
「あの、頼んだ会社に在庫がなくて、今、発注しているということだったんですけど。」
「理由なんてどうでもいいのよ。あなたが買いに行けばいいでしょう。そんなことも考えられないの。」
「社員が、直接、買いにはいけないルールなので。」
「そんなこと言っているんじゃないわよ。他にも手段があるでしょうっていうこと。別のマーカーとかはないのか検討したの。あなた、幼稚園児じゃないんだから、少しは頭を使いなさいよ。幼稚園児よりひどいわね。私たちは、お客様から日々、嫌味も言われて頑張っているのよ。そんな中で、あなたたちは、快適なオフィスでダラダラと席に座っているだけなんでしょ。少しぐらい、頑張ってみたらどうなの。」
「そんなことはないですが・・・。」
「本当に使えない人ね。そもそも、人間だってことがおこがましいの。死んじゃえば。その方が会社のためね。」
そんなことが何回も続いた。本当に使えない子は困る。
やり方は1つしかないと思い込んでるから仕事ができないのよ。
目的を達成するためには、手段はいくつもあるでしょう。
それがわからないと、一生、使えないわ。
私はあなたのために教育してあげているのよ。
授業料をもらいたいぐらいだわ。
それなのに、その子はメンタルになって休んでいると聞いた。
当社では、メンタルになっても給料が出るから、本当に会社のお荷物。
できないんだったら辞めてしまいなさい。
もしかしたら、仮病なのかもしれない。
この世の中は、ずるい人が得するのね。
刑事に聞いたところだと、この子が廊下で私をひどい形相で睨んでいたと証言があったらしい。
会社に医者の診断書を持ってくるために出社した日に。
しかも、その日は、私の事件の日だった。
その子のカバンの中には、ナイフが入っていたんだって。
なんで持ち歩いているんだと聞いても、下をむき黙秘を続けたと聞いた。
警察としては、動機はやや薄いけど2番目の容疑者として考えていたようだった。
精神的に病んでいて、傷害に及ぶ可能性があると。
本当に迷惑。
なんで、親切に教えてあげた子に危害を与えられなければいけないの。
まあ、あの子はそんな度胸ないと思うけど。
ただ、ビルの防犯カメラを見ても、確実な証拠が出てこなかったの。
だから、この件の捜査は終わることになったと、あの刑事が説明をしてきた。
「やっぱり、あなたを恨んでいる人が何人もいたぞ。でも、犯行に及んだという証拠が出なかったので、今回はこれで終わりだ。恨まれるようなことをするんじゃないぞ。」
「え、もう終わりなんですか? 犯人を捕まえてください。」
「あなたの不注意で落ちたかもしれないし。」
「ひどい。私が死んだら、どうするんですか。」
「その時は、自分を悔いるんだね。では、これで失礼するよ。」
退院した後、警察に聞いたの。
落ちたエスカレータの脇にある監視カメラには、私が後ろから押されたように見える。
でも、誰も人は映っていなかったという。
また、だれかの幽霊の仕業かもしれない。
私は、家に帰り、鏡を見ると、案の定、私の後ろに女性の幽霊がいた。
やっと姿を見せたわね。
私を突き落とすなんてひどいじゃないの。
淳一のことが好きで離れろと怒っていた。
だから、先日、エスカレーターで突き飛ばしたと言っている。
もう、あなたはこの世にいないのよ。
だから淳一から相手にされることもない。
そう言ったら、火に油を注いだように激怒している。
また、私の部屋は暴風雨のようになって、物が飛び散っている。
私の体にも、置物とか、軽いものがあたる。
窓には手を出していないのは、外にはこのことを知らせないつもりね。
その女性の顔は、炎のような形で目がつり上がっていた。
もう女性とはわからないぐらいの怒りが爆発しているわ。
口からは、ごーという地響きのような音が鳴り響く。
このままだと、包丁とか、フォークとかが飛んでくるわね。
そろそろ手を打たないと。
その女性を消すことは簡単だった。
私の光を浴びて、嵐のような風は収まり、その女性も消えていった。
「もう、私は消えるのね。淳一は、ステキな人で、私には淳一しかいなかった。でも、周りの女性たちが淳一に群がって、淳一を騙すの。淳一は悪くない。私と一生、一緒にいるって約束したもの。淳一は迷惑だったのよ。だから、そんな女性たちを殺して、山中に埋めていたの。私と淳一の将来のため。」
「あなたは、もう死んでるのよ。言っていることが矛盾しているじゃない。あなたも、捨てられたんでしょう。」
「それは淳一のせいじゃない。事故だったのよ。」
「なに言っているの? 山中に埋めた?」
よく言っていることがわからなかった。
そして、よくわからないままに消えてしまった。
もう少し、生かしておいた方が良かったかもしれない。
でも、まあ、邪魔者が消えたんだから良かったかな。
淳一は、そんな人じゃない。消える間際の嫌がらせね。
でも、こんなこと2回目だけど、部屋を片付けるのは大変なのよ。
ガラスのかけらも散乱しているし。やめてほしいわ。
翌日、淳一から紅葉の日光に行こうと誘われ、楽しみだと即答したわ。
ただ、この前の女性の霊のこともあり、念の為、探偵に尾行してもらうことにしたの。
「今日は、淳一とこのコテージに来れて、すごくよかった。本当に、紅葉の真ん中にいるって感じで、誰にも邪魔されない、淳一と二人だけの世界ね。とっても幸せ。」
「僕も、結心と一緒にいれて幸せだよ。」
「嬉しいな。そろそろ、お昼に買ってきたお肉をお庭で焼いて、お酒を飲もうよ。」
「そうだね。」
お酒を飲んでベッドで寝ている時だった。苦しい。そして、重い。
真っ黒な大きな影が私に覆いかぶさって、首を絞めている。
助けてと声を出そうとしたけど、声を出せない。
首絞めてる人の顔をみると、そこにいたのは淳一だった。
この前の彼女が言っていたことは本当だったんだわ。
手で淳一を押したけど、びくともせず、気が遠くなってきた。
そこで、手首に紐でつけていた笛を口に持っていった。
残っている力の全てを使って笛を吹いた。
それを合図に、探偵がガラスを割って入ってきて、淳一を押さえつける。
淳一も抵抗したけど、淳一を床に押さえつけ、手首を後ろで縛って警察を呼んだ。
警棒のような武器を持った探偵がプロの動きで。
コテージ近辺には警察が何人もきて、淳一を連れて行った。
女性のクビを締め殺すときの女性の顔をみるのが好きで犯行を続けていたらしい。
女性はいくらでも言い寄ってくるので、探す必要はなかったという。
私のことは、美人で楽しみだったと言っていたんだって。
どうせ殺すから、仕事とか嘘ばかりだったらしい。
警察から聞いたら、ビルの警備員をしていたんだって。
職場では、使えない新人と、老人の警備員たちから、ばかにされていたらしい。
真実なのは、学生時代にアメフトをやっていたことだけだった。
私も騙されていたんだ。
その後、私は、朝のニュースで、淳一は5人の女性を殺害しことを知った。
あのコテージの裏に埋めていたということも。
でも、それから3ヶ月後ぐらいかしら。
私はトイレで凍りついた。
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