第3章 広島の夜
1話 就職
私は得意分野であるセキュリティを売りにIT会社に就職した。
この領域なら、なにも学ばなくても仕事はできる。
人と接することも他の仕事よりは少なくて済む。
会社に入って2年ぐらい経ったころ、私の心はすり減っていた。
もう、これから、いいことはないんじゃないかしら。
なんか、薄っすらと昔に幸せがあった気もするけど、今はない。
もう疲れた。
大学は本当になにもなく、単調だった。
女子大というのが原因だったのかもしれない。
笑ったという記憶がない。
会社も大学と同じ。
みんな、だれを蹴落とそうとか、潰そうとか考えている。
本当に人間の心は醜い。
社内恋愛とかで浮かれている人もいる。
恋愛のほうがくだらないけど、明るさはあるかも。
でも、恋愛で相手に近づく同性を蹴落とそうと考えている人も多い。
なんで、みんな他人に対して敵意を持つのかしら。
もっと、お互いに幸せになれる方向を考えるべきなのに。
会社で、なんとなく気が惹かれた先輩もいたわ。
でも、なんとなく、その先輩には踏み出せなかった。
もう忘れた、心の底にある昔のパートナーとの気持ちが薄っすらと残っているのかもしれない。
それでも、男性に惹かれてしまう自分が悲しい。
ときには、男性に抱きしめてもらいたいと思うこともある。
でも、気持ちはあるのに、頭でどうせだめだと決めてしまう。
きっと、私は一生、独身なのね。
こんな暗い私を支えてくれるパートナーなんて現れるはずがない。
いても、そんな人に私はふさわしいないもの。
でも、ひたすら私に優しくしてくれて守ってくれる男性が横にいてほしい。
私のことだけを見守っていてほしい。
そして、私は、その人の子どもを産みたい。
もしかしたら、素敵な男性がいるのかもしれない。
私が接してきた男性がくだらない人ばかりだっただけかも。
でも、そんな人と出会えるのかしら。
2次元の世界の話しだけなのかもしれない。
そんな人がいるなんて妄想なのかと思ってしまう。
そんな事ばかり考えていたら、また心が暗くなってしまったわ。
私は、俯いて過ごす日が多くなった。
上司にお願いして、できる限りリモート勤務にしてもらう。
リモート勤務で、暗い部屋で窓を締め切り仕事をする日が増えたわね。
暗い私にぴったりじゃない。
カップラーメンの空容器がキッチンに並ぶ。
女性なのに、こんな食生活なの。
そうお叱りを受けそうね。
でも、女性でも、面倒なのは面倒なの。
それだからか肌も最近は荒れてきた。
せっかく得た女性の体なのにとは思う。
でも、やる気が起きない。
どんどん、床に溶けていきそう。
目の隈も深くなってく。
もう、2週間、カーテンを締め切った部屋から出ていない。
こんなんじゃだめでしょう、散歩でもしてきなさいなん言う親はもういない。
私がアプリで殺しちゃったものね。
その報いが今来ているのかも。
そんな私を見て決めたのかしら。
先週、広島のデータセンターに転勤するよう発令がでたの。
仕事は、サーバーのお守りらしいから、ゆっくり休めそう。
日々は、ハードウェアとだけ会話すれば済むので心休まる。
まずは、観光とか食べ歩きをして心を落ち着けよう。
人からは離れて、1人の生活を楽しもう。
そうすれば、少しは心穏やかな時間が過ごせる。
大阪、神戸、福岡とかには行ったことはある。
でも、その中間の岡山や広島には行ったことがなかった。
だから、広島だけじゃなく、宮島や出雲大社にも観光をしよう。
1人旅で、行き交う人は知らない人ばかり。
誰も話しかけてこないで、車窓から風景をじっと見つめる。
そんな旅がいい。
フェリーで松山にもすぐに行けるらしい。
松江、鳥取砂丘、尾道、別府とかも近いらしい。
温泉でゆっくり過ごすのもいいかもしれない。
幽霊のときと生身の人間との違いは食べる楽しみ。
広島焼き、あなごめし、讃岐うどん、関サバ。
少しは楽しい気分になってきたわ。
発令された転勤日から1週間遅れで広島入り。
前任者が、引き継ぎで2週間ぐらい本社に戻るのが遅れるからだという。
前任者が社宅をでるまでは、1週間のウィークリーマンション暮らし。
そのマンションは平和大通りの横にある。
出社前日は、夕方まで東京で仕事をして、夜8時に到着した。
今日は8月6日、そう広島原爆の日。
その時には、私にこんなことが起きるなんて想像もしていなかった・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます