第6話 物語

「本?結衣が作った?」


「うん!流風と流衣は本が好きでしょ?

だから作ってみたの!」


「へぇ〜、結衣って本とか作れたんだ」


「仮にも姉に対して失礼すぎないかな!?」


「事実じゃん」


「事実だけども!」


まぁ、実際作ったのは雨と美冬の2人だ

結衣が担っているのは表紙作りと2人に渡すことだ

結衣は少し涙目になりトホホと肩を落とした


「まぁいいや、ありがとう!

また部屋で読む!」


「うん!絶対に読んでね」


「?うん」


流風と流衣は妙に強調された「最後まで」

という言葉に首を傾げながらも頷いた


「へぇ結衣が書いた本ですか」


「あ、博士」


結衣は思わず顔に出そうになった。

昨日の今日だ、無理もない

だが、今バレてしまっては今後の作戦も頓挫する。

結衣は施設で暮らす家族のことを考え、必死に笑顔を作った


絶対に幸せになるんだ


「そう!頑張ったんだよ博士!」


「そうか、私も少し読んでみていいかな?」


「うん!」


博士は流風の手から本を受け取り、パラパラとめくっていった

結衣はバクバクとなる心臓の音を聞きながら

どうかバレないでと祈っていた。

後ろで握りしめた手は手汗でびっしょりだ


「⋯面白いね」


博士はパタンと本を閉じた


(バレてませんように⋯!)


結衣は手をギュッと握りしめた


「よく書けてるよ、SFかな?面白いね」


「本当!?良かったぁ」


「うん、結衣にこんな才能があったとはね」


「えっへへ」


博士は流風の手に本を返すと、結衣の頭を

撫でた。

結衣は思わず、手を跳ねのけそうになったが

グッと我慢して嬉しそうに笑顔を浮かべた


「読んだら感想を教えてね、流風、流衣」


「うん!」


「分かった」


博士は流風と流衣の頭も1撫でして去っていった。

結衣は、フゥっと息を吐いた。一気に冷や汗をかいた気分だ


どうやらバレずにすんだらしい。


(2人のおかげだなぁ)


結衣は後ろにいる2人に目を向ける

雨は笑顔を浮かべ、結衣にグッと手を向けてきた。

結衣もそれに答えるように、同じように笑って手を向けた


(ミッションコンプリート!)


ただ、渡すことには成功したが問題はこれからだ。

流風と流衣が信じてくれるかどうか

最後に記したアレに気づいてくれるかどうかが鍵だ


(どうか、成功しますように)


結衣は流風と流衣の背中を見ながら心の中で祈った。

昨晩、殆ど寝ずに3人で必死につくりあげたあの本。家族に死んで欲しくない一心で作り上げたのだ。

成功して欲しい、そう願わずにはいられなかった。


これが本当にフィクションの世界ならば、

どれほど良かったことだろう。

だが、現実はそうではないのだ

今まで結衣たちが生きてこられたのは、

共に生きてきた兄姉たちの犠牲があったからこそだ。

彼らの死を無駄にしない為にも


(今いる子たちだけでも⋯!)


結衣は拳を握りしめ、決意した。

必ずここを幸せな施設にしてみせる

誰も死なない、実験台にされることもない

そんな、幸せな

本当に神聖な場所に

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