第5話 作戦

「それで、これからどうしようか⋯」


「このまま、今までの生活に戻るなんて

できないよね」


少し気分が落ち着いてきた結衣と雨は

これからのことについて話していた。

こんな事実を知って普段のように、博士たちと笑って暮らすのは無理な話だ


「このままいけば、ここにいる全員が実験台

 にされることは確定だよ」


「そうだよね⋯」


雨と美冬の会話にあまりついていけていない

結衣


「じゃ、じゃあ逃げればいいんじゃ!」


「外は電磁物質が蔓延してるのに?

 一歩でも外に出たら死ぬよ」


「あ」


「結衣は落ち着いて考えようね」


「はい⋯」


結衣は頭が悪い訳では無いのだが、かなりそそっかしいタイプで落ち着いて考えるということが苦手なのだ

正直、結衣は勉強よりも体を動かす方が好きだ。


その点、雨はどちらもバランスよく持っているタイプだ。雨は特にどちらも特出している訳では無いがどちらも苦手でもないのだ


美冬は身体能力は普通ぐらいだろう。

あまり運動をしているのを見た事がないが

たまに参加する時もそれなりに動けているのを結衣は覚えていた。

だが美冬は頭が良い、冷静に物事を考えているし、ものを客観的に見ることが出来る


『美冬って凄いなぁ』


結衣はキラキラとした目で美冬を見つめたが

美冬はその視線に気が付き、はぁとため息をついたあと、しゃがんでいる結衣と同じ目線になるように身をかがめ


ペシッ


「いてっ」


「話、続けるよ」


「はい⋯」


デコピンをされてしまった

ピリピリとした痛みが額に走った結衣は

額をさすりながら話に戻った


「全員に教える?」


「いずれは教えるつもりだけど、そう簡単に

信じられるものでもないでしょ

だから、2人にもああしたんだから」


「そっか⋯、じゃあ同じ方法は!?」


「その度に誰かが犠牲になるけど?」


「あぁ⋯どうしよう」


雨の提案にズバッと意見を言っていく美冬

普通に話しても信じてもらえるはずがない

今日結衣と雨が信じたのは、あの会話を盗み聞くことが出来たからだ。

''春''という犠牲の上で


「じゃあ、歳が近い子だけでも話すって

いうのは?この中だったら流風と流衣

とか」


流風と流衣は結衣によく懐いており、現在

12歳。3歳ほど歳は離れているがこの環境で

育っているため少年らしいところもあるが

大人びた面も持つ子たちだ。


「いい案だとは思うけど普通に話すのは危険

すぎる、もし博士たちに気づかれでもしたら

私たちだけじゃなくて2人まで実験台になる

ことになる」


「そっか⋯どうにか出来ないかな⋯」


また、行き詰まってしまい雨と美冬が

うーんと唸っていると、結衣は部屋をキョロキョロと見回しあるものに目をとめた


「本⋯」


「え?本?」


「うん!本だよ!物語にして渡せばいいん

だよ!流風と流衣は本が好きだし!

最後の方に本当の話だよ、とかつけて

おけば!」


流風と流衣はよく本を読んでいる。

体を動かすことも好きだが、物語を読んで夢を見ることが好きな子たちだ。

姉たちが作った物語としれば、少しでも興味は持つだろう


「なるほどね、それならいいかも」


「よし!じゃあ早速作ろう!」


「そうね、でも結衣その前に」


「え?」


「声が大きい」


「あ⋯」


もう一度言おう、結衣はそそっかしいのだ

幸い気づかれてはいなかったみたいだが

もし博士にバレていたらと思うと鳥肌が立つ


「まぁ、とりあえず早速作ろうよ」


「そうね、じゃあ起承転結から⋯」


「え、何それ」


「結衣⋯もう少し物語を読みなさい」


「本読むの嫌いなんだよね〜小さい文字とか

目がチカチカしてきちゃう」


「あぁ⋯そう」


正直、もう少し言いたいことはあったが

それよりも今の状況の方が重要だった為

一旦置いておくことにした

今、突っ込んでしまったら疲れることが目に見えていた

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