私の好きな僕の話
山田 ぴの
第1話 私の話
「私は世界で1番自分のことが嫌いだ」
七歳の頃からそう思い続けている。
他の誰にも言ったことの無い、私の秘めた気持ち。
この気持ちは秘めてこそ、その形を保てるものだから。
人に話した途端に、自分のことが好きなやつの綺麗事になってしまうから。
「「
自分の世界に浸る私の名前を呼ぶのは、親友のモモと幼馴染の
二人とは小学生の頃から十年の付き合いになる。
「また描いてるの?」
モモは私のキャンバスをのぞき込む。
「まぁね。あと三ヶ月だからね。」
私はモモの方は見ず、真正面のキャンバスを見つめる。
キャンパスにはまだ薄い下書きがあるだけ、離れてみれば真っ白のまま。
あと三ヶ月で、私たち三人が所属しているこの美術部は廃部になる。
理由は単純に、人数が規定を満たしていないから。
この学校の規定では、最低五人以上いないと部活動が行えない。
入学した時は先輩二人しかいなくて、廃部になる寸前だったところに私たちが入部し、何とか最低人数の五人で活動してきた。
でも、三か月後の卒業式で先輩二人が卒業したら、私とモモと優介だけになる。
入学式で新入生に入部してもらえればとも思ったが、三人とも初対面の新入生を勧誘できる性格ではない。
さらに言えば、部長に立候補する人がこの三人の中にはいない。
つまりは、目立ちたくないし面倒ごとは避けたい安全志向なのだ。
考えるよりも先に諦めた私たちは、静かに廃部になってしまうまでの時間を過ごしている。
廃部が決まってから、放課後三人で美術室には来るものの、絵を描こうとするのは私だけ。
モモと優介はお菓子を食べたり、漫画を読んだり、まるで自分の部屋のように過ごしている。
「陽はさ、真面目なんだよね。部室にいるんだから絵を描かなきゃ見たいな使命感で描いてるでしょ?」
モモがポテチを口でパリパリさせながら話しかけてきた。
「使命感...なのかな。」
自分でもよくわからない私は、頷きながらも肯定はしない。
そもそも、廃部が決まるまではモモのほうが真面目に絵を描いていた。
私は描くふりをして、ただ家に帰るまでの時間を引き延ばしていただけに過ぎない。
入部してからの約二年間で完成させた作品だって2つだけ。
しかも、文化祭に出す用で、完成は必須条件だった。
自分の意志で完成させたり、作ったものなんて何もなかった。
「違うだろ。陽はさみしいんだろ。」
今度は優介が口を開いた。
彼は漫画を読みながら続けた。
「昔から自分の居場所を大切にするっつーか。なんか、思い入れみたいな感じだろ?」
「そうなのかな、、。」
私はまた頷きながらも肯定はしない。
この部活に入ることになったのは、この優介が一緒にしようと誘ってきたからだった。
何も考えずに、運動部以外ならいいかとOKした。
親友と幼馴染が一緒で、先輩はいい人で、確かに居心地はよかった。
でも、寂しさを感じるほど特別だった気もしない。
結局、私は何がしたいかわからないままで、だからこそキャンバスはずっと白いままだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます