第13話

 フロンの調査により複数の魔物の群れが確認された。強い魔物ではなさそうだが、と言うのは俺の感想。フロンの話を聞いたリリファや村長は真っ青な顔をしていたからそれなりに危険な魔物なのだろう。俺からしたら大したことはないのだが、きっと俺の感覚がおかしいのだ。


 フロンの調査から帰って来たと同時にリアが戻って来た。ハンターギルドが冒険者を派遣してくれるようだ。これで一安心と言ったところだろう。リアたちと共に町に行った村人たちはギルドが派遣してくれるハンターと一緒に村に戻ってくるようだ。


 懸念がひとつなくなった。しかしまだ問題は解決していない。その中のひとつが魔物がどこから来たかだ。ユクシ村の周辺は魔物が少なく、その魔物も弱いものばかりなので、グリーングリズリーなどの強い魔物は生息していないはずなのだ。他の場所から来たと考えていいだろう。もしかしたらコルケア山脈を越えて来たのかもしれない。となると黒魔の森で何かがあった可能性もある。


 もしくは『魔窟ネスト』が出現したかだ。


 魔窟。自然の洞窟などが変化して魔物を生み出す魔物の巣となった物が魔窟である。それを処理しなければどんどんと魔物を吐き出し、時間が経てばたつほど凶悪な魔物を生み出す厄介な物だ。


 そして、それと同じような物が『迷宮ダンジョン』だ。魔窟と原理は同じだが、遺跡などの人工物が魔窟かした物を迷宮と呼んでいる。村長の話では村の周辺や森の中に遺跡があるというのは聞いたことがないようなので、迷宮が出現したわけではないだろう。まあ、未発見の遺跡などがあり、それが迷宮化したのなら話は別だが。


 しかし、面倒だ。魔物もそうだが、それよりも面倒なのはリアだ。


「さっさと狩ってお金にしちゃおう。ね、ジェイド様」


 リアは守銭奴だ。今も現れた魔物を金としか見ていない。そもそも自動人形が生活するのに金など必要ないのだが、リアは金が大好きだ。


 理由はわかっている。リアだけが人間の魂を使用して造られた自動人形だからだ。他の三体は人工精霊を憑依させているのだが、リアだけは降霊術により呼び出した人間の魂を憑依させている。


 金に対する強い執着心。死んで魂となっても残る強い念がリアを突き動かしている。俺を主として認識しているので裏切られることはないが、そうでなければおそらく簡単に売られるだろう。リアとはそういう自動人形だ。


「リア。ハンターたちが来るんだ。仕事を奪っちゃ悪い」

「何言ってんですかぁ? リアもハンターですよ。魔物を狩って何が悪いんですかぁ」


 確かにその通り。しかし、どんな魔物が出てくるかわからない。フロンの調査で存在が判明した魔物はリアにとっては大したことはなさそうだが、さらに強い魔物が現れないとも限らない。油断は禁物だ。


「エル、リア、フロン。お前たちは村の防衛を優先してくれ。何が起きても対処できるように」

「はいはい。ジェイド様は心配性で」


 俺の命令が気に入らないのかリアは不機嫌そうだ。エルとフロンは反論せずに素直に命令を聞いてくれている。


 とりあえず俺は村の防衛のための準備だ。投擲用の魔法薬瓶に魔法を付与した武器と防具を用意しなくてはならない。


「ジェイドさん、まだ何かやるつもりですか?」

「まだまだだ。備えを怠ると痛い目を見るからな」


 十分、と言うことはない。常に想定外を想定しておかなければならない。想定外なのだから防ぎようがないと言われればそれまでだが、想定外が起きてもある程度どうにかできるようにしておかなければならない。というか気が済まない。


「何するか言ってください。そういう約束ですよね?」

「魔法を付与したアイテムを作るだけだ。そんな大したことじゃない」

「大したことじゃない、ですか」


 疑われている。リリファの目は俺を疑っている目だ。そんなに信用がないのか。


「勝手に聖域を作る人を信用できるわけないでしょう」


 ……そうなのだろうか。聖域を作るのは良い事のはずなのだが、信用を損なうようなことではないはずなのだが。


「とりあえずハンターさんたちが来てくれるということなので、装備は私たちだけの分にしておきましょう。ジェイドさんのやることは過剰ですから」

「過剰、ではないと思うんだが」


 まあ、しかし、確かにそうかもしれない。村人たちは結界内から外に出ないようにしてもらい、万が一の時は魔法薬瓶で対応してもらおう。下手に前に出て大怪我をされたら大ごとだ。


 基本的に村人たちは結界から出ない。魔物が攻めてきた時は魔法薬で対処する。となれば使い方の説明をしなくては。


 ということで俺は村人たちに投擲の講習会を開いた。基本的にはただ投げるだけでいいのだが、一応は練習したほうがいいだろう。


 そう考えた俺は村長に相談し、村人数人を集めてもらった。本当は全員に集まってもらいたかったが、それぞれ仕事や家事があるので手の空いている人たちだけである。


 講習会。村から離れた場所に人を集め、そこで俺は見本を見せた。


「えー、まず爆炎瓶から。これは中の薬品が空気に触れると爆発するので扱いには注意を」


 爆炎瓶。その名の通り爆発炎上する瓶だ。俺はその扱い方と注意点を説明し、投げた。


 ちゃんと爆発した。威力は想定通り。森に大穴が空いた。穴の大きさは五十メートルぐらいか。


 うーん、しかしまだ足りない気がする。リリファに感想を聞いてみるか。


「どうだ? もう少し威力を上げた方がいい気がするんだが」

「いりません! やり過ぎ! 何を想定してるんですか!」


 と、リリファに感想を聞いたら怒られてしまった。講習会に参加した村人たちも唖然としている。どうやら、俺は間違ってしまったらしい。


 どうもリリファからすると威力がおかしいらしい。小さな砦ぐらいなら一撃で吹き飛ばせる威力があるのだが、どうも過剰なようだ。


 そして、俺の投擲距離もおかしいそうだ。投擲距離は大体五百メートル。その程度は普通だと思うのだが。


「無理です! 使用禁止! こんな危ないもの封印です封印!」


 別に危ないことはない。扱い方さえ気を付ければ大丈夫だ。と、説明しても聞く耳を持ってはくれなかった。


 その後、氷結瓶と雷撃瓶の説明もしたが、両方ともリリファに使用禁止を言い渡されてしまった。作るにしてももう少し威力を抑えろと説教もされた。


 解せぬ。しかし、普通を教えてほしいとリリファに頼んだ以上、リリファの言葉に従う。たぶん、おそらく俺の認識は普通ではないのだから、リリファの普通の感覚に合わせたほうがいいだろう。


 しかし困った。せっかく用意したのに使えなくなってしまった。別のものをまた新しく用意しなくては。


「ゴーレムでも用意するか……」


 万全の備えで迎え撃たなければならないのだ。まだ特に何も、今のところは大きな異変はないが、とにかく備えなければ。


 しかし、リリファの普通に合わせるのは本当に難しい。普通に生きるというのは俺が思うより大変なようである。

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野良のおっさん錬金術師 厳太郎 @nononem

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