第3話 暗黒竜の正体

「おい、デブ。何をした。お前は炎の魔法使いじゃなかったのか?」

「教えてあげない。早くこの倉庫から逃げないと凍り付いちゃうよ」

「くそ。脚の感覚がねえ。まるで動かねえ」


 そりゃそうだ。バズズリアの膝から下は真っ白に凍り付いている。赤鬼のブルーノは奥の壁に張り付いて全身真っ白になって凍り付いているし、蛇女のアレッタもその場で座り込んで凍り付いている。カレンだけは耐性があるのか凍ってはいないが、それでも身動きが取れないのか左隅の方で立ちすくんでいた。


「姫! もっとやるから逃げて! 応援も呼んで!!」

「わかった! 助けを呼んでくるから少し待ってろ!」


 ウルファ姫は体中に巻き付いていた弦を砕いた。姫も魔法に耐性があるのか、私の魔法は全く効いていない。姫まで凍っちゃったらどうしようかと心配していたのだけど、それは杞憂だったみたいだ。


「逃がすな!」


 バズズリアが叫ぶんだけど、誰も反応しない。

 ブルーノとアレッタは既に凍り付いているし、カレンは身動きが取れないのかじっとしている。


「カレン!」

「ごめんなさい……彼女の冷却が強すぎるの。自分を防御するだけで精一杯です。動けません」


 ざまあみろってね。私達を騙しておもちゃにしてやろうって魂胆が気に入らない。腐れ外道のバズズリア。さっさとお前も凍ってしまえ!


 私は大きく息を吸ってから吐き出した。その息は白い結晶を伴いバズズリアへと向かった。


「くそ! 冷たいぞ!」

「そりゃそうです。冷凍の魔法だから。もう謝っても許してあげません。そこで凍り付いて反省してください」

「デブのくせに生意気だぞ」

「余計なお世話です。これでもちょっとは痩せたんだから」


 私は更に冷凍の息を吹きかけた。バズズリアは呻きながらも両腕を動かして抵抗していたのだけど、全身が真っ白になって凍り付いてしまった。


「もう、手間かかるんだよね。これ、どうしよう??」


 そうだ。私に抱き付いてそのまま凍ってしまったジャン。体中から伸びている弦は砕いて良いと思うのだけど、体を引きはがせないんだよね。これ、私が動くとジャンの腕とか股間のアレが砕けちゃいそうで……困った。実は、この魔法の解除魔法があるハズなんだけど、私、知らないんだよね。


 どうする??


「こ……の……デブ……女……」


 え? バズズリア……まだ凍ってない?


「思い……知らせて……やる……」


 え? 何を言ってるの?

 私も凍り付いたジャンを抱えて逃げれないんですけど??


 これはヤバイ。

 絶対ヤバイ。


 私は白く凍っているバズズリアを見た。

 彼の表面を覆っている氷がバリバリっと割れ、中から黒い影がブワっと膨らんだ。その影は一気に大きくなって、倉庫の天井を突き破って外に出てしまった。それは翼を大きく広げた漆黒の竜だった。


 あ……あれが暗黒竜バズズリアの本体なのか……な?


 竜神族は許可されたとき以外、その本体を現わしてはならないって決まりがあったと聞いたことがあるんだけど……そんな事を気にしてる場合じゃないと思う。あの漆黒の竜が思いっきり炎の息を吐いたりしたら、この辺一帯は焼き尽くされてしまうはず。


 私、死んじゃうのかな?

 短い人生だったよ。


 好きな人と添い遂げる夢も叶わず……素敵な殿方と恋する事も知らず……ダイエット中でせっかく減量できてて、もうちょっとで目標に到達しそうなんだけど……それも叶わない。


 人生の最後はやっぱり素敵な姫と抱き合っていたい。こんな半植物でアソコをおっ勃てたまま凍り付いてる変な人じゃなくて。


 えーん。

 もう嫌だよ……バズズリアの炎の息吹に焼かれて死んじゃう。


 死んじゃう……死んじゃう……???


 あれ?

 炎の息吹は?


 しばらく待っていたけど何も起きない。恐る恐る上を見上げると、漆黒の大きな竜、バズズリアは何処にもいなかった。




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