優しき英雄アンノウン~前世努力家の嫌われ者は、別世界の魔王に世界を支配されないようスキルと転生特典を駆使し魔王一行を討伐し世界を救う英雄になろうと思います~

蒼本栗谷

第一章 破滅の未来に抗う異能組織

第1話 前世は罪人。今世は生徒会長

 月ノ宮高等学校。この学校にはとある有名な話があった。

 人気アニメのヒーロー面をつけた人物が困っている生徒や助けを求めている生徒の前に颯爽と現れては救いの手を差し伸べる。助けられた生徒が彼に名を問えば、彼は本名を口にせず「Unknownアンノウン」と名乗り去っていく。その名を聞いた生徒達は真摯な姿勢を見せる彼をアンノウンではなく、英雄又はヒーローと呼んでいた。一部の生徒——女子生徒からは「推し」と言われていた。

 生徒に「アンノウンを知っているか?」と聞けば全校生徒の90%は知っていると口を揃えて言葉にする程の有名な人物。同時に「素顔を晒せばいいのに。あの仮面はちょっと子供すぎる……」と苦言を溢される。

 更に生徒達に「アンノウンの正体を知っているか?」と聞けば、これまた皆口を揃え「知ってる」と、アンノウンを名乗る人物の正体を全校生徒90%は知っている。


 場面は変わり生徒会室。書記はとある男子生徒に向かって問いかける。


「もう名前バレてますよ。いつまで黙っているつもりですか」

「なんの話?」


 男子生徒――生徒会長岩月いわつきユウトは書記の言葉に言っている意味が分からないといった様子で首を傾げた。


「しらばっくれても無駄ですよ!! 成績優秀。運動神経抜群。顔良しコミュ力良しの貴方がアンノウンだということを!!!」

「突然の褒め」


 ビシィ! と効果音がつくほど勢い良く書記はユウトを指差し彼が困っている生徒や助けを求めている生徒の前に現れるアンノウンだと言い切った。――褒めながら。事実と褒め言葉を突きつけられたユウトはかすかに頬を赤らめ言葉を発する。


「でもさぁ。俺がアンノウンだって口にしたら皆幻滅するだろ?」

「さっきの言葉聞きました!!!?」

「聞いたけど、それはお前が俺に抱いている感情だろ?」


 まるで自分は他の生徒に好かれていないといった様子で淡々とユウトは書記の言葉に困った様子を見せた。

 ユウトの発言に書記は頭を抱え叫び声を上げ、ユウトに接近し彼の両肩を掴んで揺さぶる。


「も゛ぉ゛ぉ゛!!! 生徒会長はいい加減自分が慕われていることに気づいてください!!」

「ゆれるるるるるるやめめめろろろろ」

「自己肯定感を上げてください!!! いいですね!!!?」

 

 書記に揺らされユウトの頭が激しく前後に揺れた。がくがくと頭が前後に揺れる度にユウトは吐き気を覚え始める。

 はぁ、はぁと疲れと怒りで書記は息を深く吸って吐いてを繰り返し、ユウトの両肩から手を離す。ユウトの顔色は真っ青になっており、口から吐き出さリバースしないように口を押さえる。


「うぉっぷ……気持ち悪……あのな……自己肯定感上げろって言われても困る……」

「何か言いました?」

「な、なんでもないです……」

「岩月さん。貴方が慕われてなかったら生徒会長になってないんですよ。そこの所分かってます??? 分かってないですよねその表情」


 否定の声を上げたユウトを書記は睨み黙らせた。そしていかにユウトが優れているのか、慕われているのか書記は説明した。


「わ、分かってる。ただ俺がしてることって誰にでも出来ることだがら、たったそれだけでここまで褒められるのが分かんないんだよ。それに生徒会長だって他に努められそうなやつがいなかったから俺に入れただけで……」

「うるさーーーーい!!!!!!!」

「ぐ゛っ!!!!!!?????」

「ああ言えばこう言う!!! ダサい、ダサすぎます!!!!!!」

「お゛、ま゛…………ほんきで、なぐっ、たな゛……」


 書記の言うことにユウトは理解は出来るがそれはそれとして納得できないと口にしていると、突如書記がユウトの腹を名一杯殴った。書記の顔は怒りに満ちており、腹パンされ床に沈んだユウトを指さし怒った。殴られた腹の痛みに呻くユウトは書記の言葉が上手く頭に入ってこない。


「岩月さん、どうして貴方は自分を卑下するんですか?」

「どう゛してって……」


 ユウトの自己肯定感のなさに書記は疑問を抱き問いかえた。何を褒めてもユウトは「この程度普通のことだ」「誰にだって出来る」「こんなことで俺を褒めるのは違うだろ?」と口にする。書記は何故そこまでユウトに自己肯定感がないのか不思議でしかたなかった。

 ユウトは腹を抱えた状態で何故自分を卑下するのか――その理由を探り、思い出す。


 きっと自分自身を卑下してしまうのは、努力は実らず、人々に恵まれることのなかったが影響しているのだろう——と。





 ユウトは転生者だった。前世の彼がいた世界は電子機器が発達していない、魔法が扱えるわ、モンスターが当たり前に生息してるわのよく本やゲームで描写されている異世界であった。モンスターが生息しているので、その世界は常に危険と隣り合わせ。ちょっと危険な行為に足を延ばせば死んでしまっても可笑しくない程。そこでユウトはこれまた本やゲームでよく出てきている世界の支配を目論む魔王を討伐する勇者パーティーの一員だった。

 世界の支配を目論む魔王を仲間と共に協力し打ち倒す。それで世界は魔王に怯えることも、モンスターに怯えることもなく平和が続く世界になるはずだった――のだが、ユウトは旅の途中で死んでしまい、自身の死後世界がどういう結末を迎えたのか知ることが出来ない。ユウトが前世の世界で何か言えるとすれば勇者が無事魔王を打ち倒し、世界を平和に導いたと信じることだけ。もしも前世を知る誰かがユウトに、ユウトが死んだあと勇者は無事魔王を討伐し世界は平和になった! と伝えられた場合、ユウトは世界の平和に素直に喜べない。

 何故なら——


(『勇者様の足を引っ張る石屑、早く死んでしまえばいい』……皆俺の死に悲しむことなく、喜んでるんだろうな『役立たずの石屑が死んだ』って)


 今世ではユウトは生徒会長になるほど慕われているが、前世では民衆から、世界から、仲間からユウトは忌み嫌われていた。理由は簡単、ユウトの持つスキル能力が「石化」というデメリットしかない物だったからだ。。自身を石にすることしか出来ないスキル。勇者パーティーでユウトはタンクとして働いていたが、石化している間は行動も攻撃も出来ないという致命的なデメリットのせいで、タンクとして働くどころか何も出来ない役立たず。勿論そんなスキル持ちを仲間は好むわけもなくお荷物になっているユウトを嫌っていた。おかげで勇者パーティーの雰囲気は最悪になっていた。ユウト自身も自分のせいで空気が悪くなっている、自分はパーティーから抜けるべきだ。と勇者に伝えたが勇者はそれを拒否した。「君だけはここに居てほしい」と望まれ、ユウトはパーティーに居続けた。

 脱退を断られたユウトは、スキルを使わない方針で仲間の役に立とうと以前から学んでいた魔法、剣術、弓術等を更に極めようと努力したが、仲間はユウトの努力を見ていながら彼の存在を拒絶し続けた。それが悪化し、ユウトは仲間に裏切られ殺されてしまった。


 以上のことが前世であった為、ユウトの自己肯定感は低く、世界平和に素直に喜べない理由であった。それにユウトは、自分が死んだあと仲間は世界へ、民衆へ、勇者に向けてこう伝えるだろう——『勇者を暗殺しようとした魔王の仲間』と。努力家のユウトにありもしない烙印を押すのだ。それ程までに前世の世界はユウトに対し悪意に満ち溢れていた――


<>

  

 時は戻り。ユウトは腹を押さえながら廊下を歩いていた。


「いって~~~……あいつあの後五発腹パンするとか……俺の腹が凹んだらどうするんだというか腹パンをやめてくれ一発一発重いんだよ」


 書記から瞼に涙を溜め殴られまくった腹を優しくさすった。書記の腹パンは一発一発力がこもっている為、一発殴られる度に呼吸困難に至ってしまうほど重い。ユウトは「帰宅部図書委員になんであんな力があるんだ???」と書記の拳に毎回疑問を抱いてしまう。

 午後十七時。生徒の姿が数人しか見えない廊下を歩み、ユウトは自身の荷物を取る為に教室に入る。そして自身の机に向かいフックから鞄を取った。外はまだ運動部が部活をしているのか少し騒がしい。ユウトは窓の外から見れる夕暮れに視線を向け目を細める。


「平和、だなあ」


 思わず口から零れ落ちる前世とは違う平和な世界に対して抱く安心感。危険と隣り合わせではない、争いもない――そんな日常を前世からずっと望んでいたユウトにとって、今の世界はユウトの理想郷そのもの。

 もっとこの時間が続けばいいと願ってしまう程に。だが、きっとユウトの願いは叶わない。二年前。SNSで話題になっているモノを見てしまったから。話題のモノをユウト自身の目で見てしまったから――

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優しき英雄アンノウン~前世努力家の嫌われ者は、別世界の魔王に世界を支配されないようスキルと転生特典を駆使し魔王一行を討伐し世界を救う英雄になろうと思います~ 蒼本栗谷 @aomoto_kuriya

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