第15話【アトラクションと待ち時間と、キーホルダー】
ゴールデンウィーク。
それは誰もが知る4月の末から開始される、大型連休であるわけだが。
これまでの俺は修行修行の日々であり「体は一日でも休んだらなまってしまう」という両親からの教えもあって、GWだからとどこかへ遊びに行くことは皆無に近かった。
だからこそ、こうしてテーマパークに出かけるのは新鮮であり楽しみでもあった。
「わぁー。ここがPPPなんだねー」
しかも隣に、恋人であるサツキがいるのなら尚更だ。
目の前の景色に笑みをこぼすサツキの顔は、まさに太陽のように輝いて見える。
サツキは今日は若干ラフな感じな装いで、上はシャツに下はデニムというシンプルで動きやすい服装をしている。しかしそこに、胸元に俺がプレゼントしたブローチが光っているのがなんとも嬉しく感じてしまう。
むしろ俺のブローチを際立たせるために、服をシンプルなものにしてくれたのでは、という考えはさすがに自惚れすぎだろうか。
「なかなか面白そうなところですね」
そのまた隣には、どこのお嬢様ですかと言いたくなるほど清楚な印象の五月女さんが佇んでいる。
彼女は水色のワンピースを身に纏い、白の日傘を差して穏やかに微笑んでいる。
普段は落ち着いた印象の彼女だが、意外に期待に胸を弾ませているのか、わずかに顔つきに喜びが濃く宿っている気がした。
「そ、そう言って貰えると、誘った甲斐があるよ。あ、あはは」
そんな彼女を鼻息荒く見つめながら、ぎごちなく返答する北田。
大丈夫だろうかコイツは。駅で待ち合わせてからここに到着するまで、ガチガチに緊張しており、右手と右脚がずーっと一緒に出続けているんだが。
まあ、さすがにアトラクションとか乗ってるうちに慣れてくるだろ。
それにしても、と俺も改めて目の前の光景を見つめなおす。
俺は遊園地というものの定番を、もこもこしたぬいぐるみがあふれるファンシーなものを予想していたが。
このテーマパークはかなり近未来的な様相で、外観はぐるりと機械じみた鉄製の壁で覆われており、入場ゲートは空港にあるような金属に反応して音を鳴らすちゃんとしたもののようだった。
PPPのキャストにチケットを見せてそのゲートをくぐると、アトラクションらしきジェットコースターやスペースシャトルを模した乗り物が遠目に確認出来て、期待感を高めさせてくれる。
どうやらコンセプトがプラネット、つまり『宇宙』ということもあって、全体的にロケットやらコンピューターめいた建物やらけっこうメカメカしい造りになっているように見える。
「ようこそだプゥ! オイラは
他のモニターとして参加している子供たちの前で挨拶しているマスコットも、怪獣のような頭とロボっぽい胴体に足はキャタピラという、恐竜とロボットを合体させたようなキャラクターだった。
……だが若干そのアンバランスさが少し怖いのか、子供たちからのウケはいまいちで、特に写真なども撮られずにスルーされているようだった。
そんな不遇マスコットのププラはやがて俺たちのほうにも近づいてきて、
「お近づきのしるしに、プレゼントをあげるプゥ!」
と、全員に半ば強引に自分の人形つきのキーホルダーを握らせてきた。
しかしこれがまあ、絶妙に可愛くない。
一昔前に流行った、キモ可愛いというやつだろうか。
だが俺以外の三人にもウケは悪かったようで、全員微妙な顔をしており。
「…………まあ、楽しんでいってプゥ……」
そのリアクションに、ププラは哀愁漂う後ろ姿で去って行ってしまった。
嘘でも喜んであげればよかったかな。
「さ、さて、じゃあどのアトラクションからまわろうか」
気を取り直して、俺はみんなに声をかける。
一応事前にネットで下調べして、どういうアトラクションがあるか把握済みだが。
本日の客はモニター参加者のみなので、さほど順番待ちすることもないので特に順路などは気にせず気楽に巡るつもりだった。
「まずは絶叫系でしょ! あのマーキュリーコースターってのが凄そうだよ!」
「わたくしとしては、こっちのサターンメイズという迷路に行きたいですね」
「俺様は断然この、恐怖のウラヌスタワーだな。かなり怖いって巷で噂らしくてさ」
三者三葉の、見事にバラバラ答えが返って来た。
やはりここはサツキの要望に応えたいところだけど、五月女さんも意外に譲る気がなさげにこちらをじっと見据えてきている。
てか北田お前、お化け屋敷で五月女さんとイイ感じになりたいだけだろ。まだモニターの段階で、そうそう噂が立つわけないだろうに。
こういうときは、ジャンケンで決めるのが定番だろうけど。
それだと百パー、動体視力と瞬発力に物を言わせるサツキが勝っちゃうからなあ。
そうして俺は少しだけ悩んだのち、恋人の提案に乗るというありふれた選択をするのだった。
※
マーキュリーコースターの乗り場は、早くも順番待ちしていた。
とはいえそう時間はかからないらしいので、俺たちは列に並ぶことにした。
俺は待つのは得意だし、北田いわくこういうのは多少の待ち時間も誰かと一緒なら楽しめるというものらしい。
その北田は隣に並ぶ五月女さんに、ここぞとばかりに色々話しかけているが、当の五月女さんとは話題のセンスが合わないらしくあまり話が弾んではなさそうだ。
そんな前のふたりの様子を苦笑しながら眺めていると。
ぴとり、とサツキが肩をすり寄せてきた。
「……っ、お、おいサツキ」
「えへへ、こういうカップルみたいなのやってみたかったんだ」
サツキはそう言うと、上目遣いにこちらを見つめてくる。
そのつぶらな瞳に俺だけが映っていて、俺もそれを見つめ返す。
「それとも、リュウくんはこういうことされるの、いや?」
その問いかけに俺は物凄い勢いで首を振ると、サツキは満足そうに笑みをこぼす。
寄り添うサツキの髪の毛からは、シャンプーかなにかのいい香りがして、思わず頭がクラリとしてしまう。
俺はそんな積極的なサツキに、なにか気の利いた返しとか、場を盛り上げるための話題を考えたが、言葉が詰まってうまく口が動かない。思いつくのは効率的な修行の仕方だけという、絶望的な話題センスに自分が自分で嫌になる。
多少雑誌などでいまどきの流行などの知識は入れてきたつもりだったが、いざ実戦となれば頭が真っ白になって全部忘れてしまった。
それでも沈黙を続けるのに耐えられず、ひとまずなにか話をしようとしたところで。
「おいコラァ」
唐突に後ろからかけられた声に、遮られてしまった。
何事かと俺とサツキが後ろを振り返ると、そこにいたのは見覚えのある相手。
体格のいい坊主頭。
数日前に遭遇したファンクラブの……確か南雲とか言った男子がそこにいた。
それともうひとり、そのファンクラブの一員が南雲の後ろに隠れるように立っている。
「久方ぶりだな、コラ」
「あ、ああ。偶然だな。お前らもモニターに応募してたのか」
口をついて出た俺の言葉に、南雲はフンと鼻を鳴らし。
「そういうことだ。ここにいるんだから当たり前だろうがコラ」
「は、はは。どうもこんにちは鈴木さん、吉良桜さんも」
南雲の後ろにいる、もうひとりの男子は以前のオラついた様子はすっかり鳴りを潜めておどおどとした様子でこっちに会釈をしてきた。コイツはおそらくこっちが本性なんだろうなと察する。
南雲の方も、最初の頃に比べれば若干声のトーンは下がっているが。
それでも俺への敵対心は相変わらずのようで、ガンガンと言葉を放ってくる。
「いいか。お前の吉良桜ちゃんへの想いの強さは認めたがな。高校生である以上は、節度ある付き合いを心掛けろよコラ。今みたいに、公共の場でイチャイチャくっつくような真似は断じて許さねえぜコラァ」
「な、なんだよ急に。どこの風紀委員キャラだよ、似合いもしないぞそんなの」
「あ、ぼくたちこう見えてホントに学校では風紀委員なんですよ」
後ろの男子の思わぬ言葉に、俺はずっこけそうになった。
そっちの真面目っぽい男子はともかく、南雲は時代遅れの番長みたいな見た目で風紀委員って、どういうギャグだよ。
「そういうことだコラ。オレの目の黒いうちは、不純異性交遊は絶対に許さねぇからなコラ」
ふふんと偉そうに胸を張る南雲に、俺たちはすっかり水を差されてしまった。
サツキも場が白けたのを察したようで、ふくれ面で南雲たちを睨んでおり。手の中にあったププラのキーホルダーが、バキリと壊れたような音がした。
そしてそのあとも南雲は、ごちゃごちゃとどうでもいい話をし続けてきて。
是が非でも俺とサツキの邪魔をしたいらしい。
くそ、こんなことなら最初に行くのは別のアトラクションにしておけば良かった。
というかコイツら、まさかこのあともついて来る気じゃないだろうな。
まあその気になれば、コイツらを撒くぐらい簡単だから、どうとでもなるけど。
それに実は北田にも「頃合いを見て、ふたりきりにしてくれ」とか頼まれてるんだよな。
でも肝心の五月女さん、北田との会話を切り上げてサツキと女子トークをしはじめちゃってるんだよな。おかげで北田が若干涙目だし。
やれやれだ。
そんな具合にいきなり前途多難な感じで開幕した今日という日が、一筋縄では終わらない嫌な予感を、俺はこのとき感じてしまうのだった。
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