第14話【GWとモニターと、????】

 メイド喫茶の一件から少し日が経ち、GWが間近となったある日。


「それじゃ、今日のHRはここまで。気を付けて帰れよ~」


 担任の西森がそう言って教壇を後にするや、クラスメイト達は鞄を手に一人、また一人とそれぞれ帰宅や部活へと向かい始める。

 そんななか、俺は今日はどうするのかサツキに声をかけようとして、サツキもまたそれに応じようとしたが。それよりも先に声をかけてきた生徒がいた。


「なあ鈴木、吉良桜さんも、ちょっといいか?」


 その声の主は、北田だった。

 普段であれば、適当に挨拶をして帰宅したり、女子の尻を追いかけたりしている、この残念イケメンだが。そんなこの男が俺たちふたりに向かって声をかけてくるのは、かなり珍しい部類に入る。


「今度のGWはじめさあ、一緒にPPPに行かないか?」


「PPP?」

「それって、近々オープンする予定の”プラネット・パワーズ・パーク”のこと?」


 英単語の三連続にただ首を傾げる俺だったが、サツキのほうはなにやら心当たりがあったようで、聞く姿勢が少し前のめりになる。

 北田はそれに対してなにやら意味深な笑みを浮かべて、チケットらしきものを懐から取り出した。


「正解。じつはそこのモニター募集に応募したら当選してさあ。招待券を手に入れたから友達も誘って行こうってワケなんだよ」


 モニターというと、遊園地とかの開演前にアトラクションの楽しさを体験してアンケートに回答するとかそういうやつか。

 実際詳しく話を聞くと、そのPPPというところは最先端の技術を注ぎ込んだ時代の先を行くテーマパークという触れ込みで、開演前からかなり話題になりつつある遊園地ということらしい。


「やるからにはそこそこ発信力というか影響力というか、とにかくイイ感じな相手と一緒に行きたいじゃん? そこで、いままさに話題沸騰の吉良桜さんに来て欲しいってワケさ」


 北田の言葉に、俺はほんの少しだけ眉をひそめた。

 俺がオマケ扱いなのが気に入らないのではなく。子供の頃から、吉良桜の家柄にすり寄ってくる輩は何度か目にしてきたからだ。

 この学校では幸いにもそういう手合いはあまりおらず、気にしていなかったのだが。この間のメイド喫茶の一件で、さすがに少し噂になってしまったらしい。


「まあ、吉良桜さんが嫌ならこの話は別の奴に譲るけど……どうする?」


 そんな俺の心中を知ってか知らずか、北田はサツキの返答を待つ姿勢になるが。

 当のサツキは、普通に友達からの遊びの誘い以上の印象は受けなかった様子で、


「うん、べつにいいよ? リュウくんも行くよね?」

「ああ、うん。もちろん」


 あっさりと了承し、ついでに俺も首を縦に振った。

 まあ、変に吉良桜の名で宣伝するわけじゃなし、デート代がタダで済むというのなら悪い話じゃないか。


「そうか、助かるぜ! それじゃ、次の休みに駅前八時集合な!」


 北田はその答えを聞くとなぜか満面の笑みを浮かべ、そのままスキップしながら教室を出て行った。

 なぜそんなにも喜んでいるのか。しかも『助かる』という言い回しがなんだか気にかかる。


「リュウくん、アレアレ」


 その答えは、サツキが促す教室の外を見てすぐにわかった。

 そこでは、北田が部活に行こうとしていた五月女さんを呼び止め、モニターの話を彼女にもしている様子だった。

 彼女は最初こそ少し渋っていたが、俺とサツキも一緒だからということでどうにか了承させることに成功したようで、モニターに参加することを決めたようだった。


 それを聞き、北田は「嬉しいよ、ありがとう。それじゃあ当日待ってるから」などとクール気味にその場は返していたが。

 五月女さんがその場からいなくなったあと「キャッホゥ!」などと盛大に叫んで小躍りして喜んでいた。


「なるほど。俺たちは本命のためのついでってことね」

「いいじゃない。遊園地とか、ほとんど行ったことなかったし」


 まあ確かに、俺たちにとっては公園の遊具すらあまり触れてこなかったレベルなので。

 密かに楽しみな気持ちが湧き上がってきているのは事実だった。

 なにより、


「楽しみだね、リュウくん!」


 サツキが嬉しそうに笑っているのが、なにを差し置いても喜ばしい限りだ。


 それにまだ開演前の遊園地ともなれば、サツキを狙う刺客などもそうそう簡単には入れはしないだろうし。

 そうしてよくよく考えてみると、これはかなり俺にとってもビックチャンスなのではないだろうか。

 刺客などのことを全く気にせず、友達と遊んだり、サツキとデートができるというのはかなり大きく。自然と頬がゆるんでしまうというものだった。



〖????視点〗


 とある建物の一室。

 そこに、四人の人間がいた。


「とうとうビーストまでやられたらしい。下っ端連中で片が付く案件かと思っていたが、小娘とはいえやはり吉良桜の血筋ということか」


 ひとりは空手の道着を着た、体の全てが筋肉に覆われているのではと疑いたくなるほどの大柄な筋肉質の男。

 その男は目の前に座る三人へと目を向け、どうすると言いたげに言葉を待った。


「あたくしは、そろそろ我慢ができませんわね。煮え湯を飲まされた、愛弟子のケンジロウの借りを返さないと気がおさまりませんわ」


 ひとりは葉巻をくわえて、シャム猫を撫でているグラマラスな体型の女。

 彼女がかるく葉巻を揺らすと、シャム猫は膝から飛び降りて足元のブランドもののバッグを漁り、ライターをくわえて再度膝におさまった。


「ちょいちょいねーさん。まさかワイら四天王が出向くつもりやないやろうなあ。嫌やでワイは。女の子には優しくするのがワイのモットーなんや」


 ひとりは和服を着て腰に木刀をさげている、軟派そうな茶髪の青年。

 彼が軽く木刀に手をかざした直後、窓から入ってきた蚊がポトリと床へと落下していた。


「……でも。さすがにこのままには……しておけない、よね? …………ちがう? ちがわないよね?」


 ひとりはなぜかパンダの着ぐるみを着た、十歳くらいの小さな女の子。

 たどたどしい手つきで知恵の輪で遊んでいたが、一向に解けない様子で、やがて苛立ちまじりに引きちぎって壊していた。


 そうした言葉を受け、空手着の男は意を決したように自身の思惑を口にする。


「我ら〖強神会きょうしんかい〗の存在意義は、いたって単純だ。強さこそ全て。それ以外に求めるものなど、無い」


 その言葉に対し、三人はその通りだとばかりに深く頷いた。


「〖強神会〗唯一の汚点、にっくき吉良桜睦月からの敗北から幾年月。その借りを、孫娘ごときに返すのはいささか遺憾であるが、このまま我らがナメられるようなことになってはいかん。遺憾だけに」


 そのオヤジギャグに対し、三人は完全に無視して聞かなかったことにした。


「ごほん。と、とにかくだ」


 空手着の男はそんな空気を察して軽く咳払いをしたのち、拳を握りしめ決意表明を行った。


「よし! その孫娘を打ち倒し、我らの強さを改めて見せつけてやるとしよう!」


「ふふん、そうこないとですわね!」

「やれやれ、気は進まんけどしゃーないかあ」

「…………うでがなる」


 残る三人も決意を固め、迫る戦いに向けてそれぞれ準備にとりかかりはじめる。

 そんななかで、和服の青年が思い出したように気がかりな点を口にする。


「それはそうと、いつどこでやるつもりなんや? さすがに無策で突っ込む気やないやろ」


 その言葉を待っていたと言わんばかりに、空手着の男はフンと鼻息荒く己の思惑を披露する。


「心配ない。決行日は明後日。標的は、近々オープンするPPPとかいう娯楽施設に行くという情報が、標的の近くに潜り込ませたスパイから既に入ってきている」


「あらあら、さすがですわね。来る日時がわかっているなら、罠は仕掛け放題、策も練り放題。ほほほ、これでは負けろという方が難しいですわよ」


「……だれがやっつけるか……はやいものがち」


 こうして、事態は当事者たちの知らぬ間に、水面下で密かに進行していたのであった。



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