第19話 引継ぎ


 食事の後国王の執務室にまずケランド王弟殿下が入室し、執事ベクターその後に続くようにショコラ、プリン、クレイが入室してきた。

 執事ベクターは国王の執事セイルに連れられ隣室に入ったがその時ショコラも一緒に入室した。

 王の執務室には国王、ケランド王弟殿下、シャルレ公爵、プリン、クレイが残り、何故か隠密発動中のテントの中で私が待機している。


 まず国王はプリンとクレイにケランドの引継ぎ準備中何事もなかったか尋ねた。

「ケランド王弟殿下は執務室に戻るとまず取り巻きの貴族ククル・シェランド卿・ラチェト・シェトラ卿・ロランド商会会長アルデバラン様を呼び出し執事ベクター共々ワインに毒を入れて彼等を毒殺しようとしました。この毒包みと彼等の前に出されたワインが証拠です。」

 とクレイは紙の包みとワインを国王に差し出した。

「それでその三人の命は無事なのか。」

「はい、今王宮騎士団が彼等三人を別室に軟禁しています。」

「分かった。」

「ではケランド先に政務の引継ぎをしてしまおう。その後この毒入りワインについてゆっくり話そうではないか。」

 その後政務の引継ぎを滞りなく終わらせ、国民に科した税金についての話になった途端ケランドの口が貝のように閉じたままになってしまった。このままでは引継ぎが終了しないので、財務を統括する、バルロ・カスティル侯爵が呼ばれた。


「バルロ卿忙しい所すまない。」

「国王様が御呼びと伺い飛んで参りました。ご快癒お喜び申し上げます。」

「ああ長いこと申し訳ない。」

「とんでもございません。私でお役に立てる事でしたら幸いです。」

「この国の税について聞きたいのだが、税金が高く国民の一部が他国に流れていると聞いたが本当か?」

「はい本当でございます。皆様がご存知と思いますが、二年前に一度税金を上げています。そして昨年末と、その半年後の先々月末にも増税しました。」

「何に使うための増税だ。誰が指示した。」

「使途については不明です。お伺いしましたがお答え頂けませんでした。ケランド王弟殿下です。」


「では聴こう、ケランド半年で二回も増税した理由は何だ。何に使った?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「貝のように口を閉ざすか。」

「分かった。今よりケランドには監禁部屋に入って貰う。後日もう一度尋ねる。」

「兄上」

「連れて行け。」

 ケランド王弟殿下は王宮騎士数名に監禁部屋に連行されて行った。



 一方王弟殿下の執事ベクターは危うく毒殺されそうになった所を、リズの仲間クレイに助けられていた。国王執事のセイルと引継ぎを終えると、五年前の王女殿下誘拐の件を話し始めた。

「王弟殿下が玉座を欲し始めたのは、王弟殿下の妻であるイヌエット様が王妃の座を狙ってケランド様を毎夜毎夜寝物語で唆し、その気にさせてしまいました。それが五年前の王位継承権第一位の王女殿下誘拐殺人事件に繋がったのです。」


「王女殿下の誘拐を企てたのはご自分ですか?また誘拐後何処へ連れて行ったのですか?」

「王女殿下誘拐を企てたのはイヌエット様です。ケランド様は戸惑っていましたが、指示はケランド様がされました。 そして王女殿下を誘拐し、「死の森」に連れて行き殺そうとしました。」

「王女殿下を「死の森」で殺そうとした。と言いましたが殺してはいないんですね。」

「魔物が現れ、生死の確認をせず、王女殿下をそこに置いたまま逃げて帰って来ました。」


「貴方一人で連れて行ったのですか?」

「いえ、王都で冒険者五人組を金貨百枚で雇い、その中の一人に抱きかかえさせ連れて行かせました。」

「では、その冒険者五人組とはその後どうなったのですか?」

「ケランド様の指示で約束の報酬を渡しました。その後魔物討伐を依頼、そのまま王都から森に彼等を連れ出し、野営で毒入りの酒を飲ませ、動けなくなった所で彼等を殺し、報酬として渡した金を取り戻す計画でした。」


「貴方が一人で実行したのですか? それとも誰かいましたか?」

「いえ。毒は王宮医官が準備し、彼等を殺すのはククル卿とラチェット卿が引き受けてくれ、酒はアルデバラン様が準備し、計画道り、彼等に毒酒を飲ませ、動けなくなった所で殺し報酬金を奪おうとしました。」


「彼等を殺し報酬金を奪おうしました。と言う事は殺していないから奪えなかったのですか?」

「はい、毒酒を飲ませ動けなくなった所で殺そうとしましたが、魔物が近づいて来たので、そのまま彼等を置き去りにし逃げ出したのです。只この全てを企てたのがイヌエット様だと聞いています。」

「それではその逃げた後の確認はしなかったのですか?」

「確認には行ったのですが、跡形もなく消えていたので、恐らく魔物に喰われたんだと思いました。」


           ◇ ~ ◇ ~ ◇ 


「分りました。今度は税金使途についてお尋ねします。」

「二年前王弟殿下が政務代行を始めた時に増税しましたが、それ以降はどうだったのでしょうか?」

「昨年末と先々月の末に同額の増税を行っています。」

「何に使うための増税だったのですか?」

「イヌエット様が贅を尽くした調度品や宝飾品の購入でロランド商会の支払いに使用っています。ケランド様は主にククル卿とラチェット卿に領土使用の口留め料とて、それと国王様のお薬調達のため、王宮医官買収に使っています。」

「王宮医官買収とは、何のために必要なのですか?」

「これも、ケランド様からイヌエット様が企てたと聞いていますが、国王様をそうと分からない様に時間をかけて毒殺するためです。」


「税収はかなりの額になると思いますが、そんなに使える物ですか? 国民のための使途は?」

「イヌエット様が夏の避暑地として、北に領地を持つラチェット卿の領地と、南に領地を持ククル卿の領地に別邸を建てるため、昨年末は税金を上げています。先々月末の値上げは支払いが滞り始めた為の値上げと聞いています。国民のために使った税金は無かったと思います。」


「分りました。ではご自身はケランド様の取り巻きの一人として、報酬は頂いたのですか?」

「はい、頂きました。」

「どれ位になりますか。」

「皇帝金貨三枚位です。」

「分りました。またお伺いすることがあると思います。ご協力お願いいたします。」

「はい。私で答えられる事でしたらお答えします。」

「ありがとうございます。では監禁部屋へお願いします。」

「監禁部屋ですか?」

「監禁部屋へ連れて行け。」

 ケランド王弟殿下の執事ベクターは、王宮騎士数名に監禁部屋に連行されて行った。


          ◇ ~ ◇ ~ ◇ 


 その後父からもう少し時間が掛かりそうだから、何か用があれば済ませて来るが良い。と言って貰えたので、みんなでギルドに向かい、昨日の約束通りドララド村とラード村での用事を済ませ王都のギルドに帰って来ていた。

 ギルマスから父が呼んでいると言われたので、ショコラ、プリンにクレイと一緒に王宮に向かった。

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