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羽鵺

一個目

 私が4歳の誕生日を迎えた日。

 父親の不倫失踪と共に前世を思い出した。




 「まぁ、ほとんど覚えていないけど」

とんでもないタイミングで前世を思い出してしまったせいか、前世の記憶は "何でも便利な世界だった" 事や何かの拍子でたまに断片を思い出すだけで、今すぐ父親に私の知識チートを返せとブン殴りたい。

取り敢えず、前世の死因は過労死だったのは覚えている。


当時4歳になったばかりの私の脳内は混沌と化していた。

自分の誕生日に浮かれていた所に両親の修羅場を目撃し、突然のショッキングな場面に遭遇した事で前世を思い出し高熱で倒れてしまい、3日後に意識が戻ればやつれた母さんに泣かれながら抱き締められそのまま疲労で倒れ、母さんが回復するまで母さんの家系が代々守ってきた山や魔法薬剤店をペットや魔法動物と共に守り、母さんが回復してからは魔法薬剤師見習いになる為母さんのスパルタ授業を受け、現在6歳となった私は無事魔法薬剤師見習いとして活動中である。


前世を含めておそらくおばさんな年齢だろうけど、見た目や身体能力は幼気な4歳児だった私は結構頑張ったと思っている。

そんな私“ルピレット”は今、屋根裏部屋を掃除中に偶然見つけた隠し部屋でとある物を発掘してしまった。

大きめの箱が2箱並んで置いてあり、箱の蓋には【魔道具作りの研究】と消えかけの文字で書かれている。

この世界には【魔具】という、魔物から獲れる魔石や鉱山で採れる魔宝石などの魔力が有る石を使って作る道具がある。

魔力には属性の有無があり、石の大きさで魔力量が変わるので、作る道具によって使う石も変わり単純な様で中々複雑な作りになっている道具も多い。

そして、ここにある研究資料によるとそんな魔具よりも複雑で、場合によっては利便性が上がる可能性があるらしい。


1つ目の箱には、魔道具の可能性や作り方が書かれた資料が沢山入っている。

2つ目の箱には、おそらく試しで作ってみた魔道具であろう物とその設計図が書かれた紙が入っていた。

設計図によると、どうやらこの魔道具は一般販売されている魔具のマジックバッグの軽量化と容量増加に成功した物らしい。

箱型の縦に長い革と布で作っているリュックで、大きさは今の私には大きく肩から膝裏まである。

容量はこれ1つで世界旅行を何年も出来るぐらい有るらしい。

どうやら魔具の作り方に魔法陣を付け足したり、素材その物に宿る魔力や機能をフル活用させて作るみたいだ。


どうも私は魂レベルで物作りが好きならしく、魔法薬のレシピを見た時同様に魔法具の設計図を見てとてもワクワクしている。

爺ちゃんは私が2歳の頃に、当時は原因不明な病“魔石化症”と言う魔力が体内で溜まり過ぎて身体の何処かで石化してしまう病に患い亡くなってしまっている。

爺ちゃんとの思い出は幼過ぎてあまり憶えていないんだけど、屋根裏部屋に宝物が有ると少年の様な顔で話していたのを思い出してきた。

確かあの時は、身体の調子がいつもより落ち着いていたからか絵本を読んでもらっていた。

絵本のキャラクターが皆んなの為におもちゃを作っている場面で興味津々に見ていた私に笑いながら宝物の話しをして、その時に爺ちゃんが女神様の元へ行ったら好きに使って良いと話していた。


もしかして爺ちゃんは、この魔道具の可能性を私に託したかったのか。

なるほど、つまり私は今日から“魔法薬剤師見習い兼魔道具研究者”になれば良いんだな?

この日に宝物を発掘するとは、何て運が悪くそして何て運が良いのだろうか。

今まで私は魔法薬剤師見習いとして座学と調合や戦い方の基礎を教えてもらっていたけど、まだ自分で素材を採取した事も魔物を討伐した事もない。

しかし明日からは、母さんに採取の課題を出されて1人で山に探索に行く日なのだ。

たぶん魔物討伐初心者にオススメな“ブルースライム”は課題対象だと思う。

ブルースライムは一般的には小ちゃい魔石しか獲れない雑魚だと思われているが、実は母さんのご先祖がブルースライムの研究をして魔法薬の素材に使える事を発見している。

まぁ、1人の無名魔法薬剤師が成果を言っても信じてくれない時代だった為、我が家の秘薬みたいになっているけどね。

何でも母さんの家系は好奇心旺盛な研究気質な人が多いかったらしく、古くから研究しては公表はせずに家系にだけ受け継がれている魔法薬や研究資料が沢山あるらしい。

見習いが取れたら見せてくれるそうなのでとても楽しみだ。

話しが少し逸れたが、そんなブルースライムの透明な膜に私は目を付けている。

ブルースライムは透明な丸い膜の中に水色のゼリーと真ん中に魔核が有る魔物だ。討伐方法は魔核を壊すと倒す事ができる。

膜には伸縮性が有り個体によって頑丈差が変わるのを、母さんが調合し終えて膜を捨てる手伝いをしている時に発見したのだ。

ずっと何かに使えないのかと考えていた膜を使い魔道具を作ってみるのも良いかもしれない。

「これは女神様の御導きかな?二足の草鞋…、(たぶん)前世社畜の底力を発揮させてやろうじゃないの」

んふふふっと笑い明日が楽しみだなと想いを馳せる。






「ルピー、掃除終わったー?」


「やっべ、終わってない」

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