第4話

「美希…」


「あの子の名前だよ。江野美希、君の大学の友人だ」



えの、みき



私を見て涙を流していた彼女。


その姿が頭にこびりついて、離れない。



涙を流してもらえるほど、私は大切に思われていたのだろうか…。




――わからない、何も。




以前のことを思い出そうとしても、本当にさっぱり何もないのだ。



口を噤む私に、彼はふっと微笑むと、安心させるように私の頭を撫でた。



「君の名前は水沢佐奈。歳は20で大学3年生」


「みずさわ、さな…」


「ああ。君は読書が好きだったよ。今度家にある本を持ってくるから、読むといい」


「あ、あの!」



彼の言葉を遮るように声を出した私に、彼は首を傾げた。



「ん?」



穏やかに、私の言葉を待つその姿に見覚えがあるような、ないような。



この人は…



「あなたは…、あなたは誰なんですか?」



聞かなきゃいけない



知らなきゃいけないような気がした。

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