第4話 楽しい時はあっという間

 中学生の男子が二人集まれば、そこに馬鹿であり得ない話題が生まれてしまうのは、仕方が無いことだ。

 それはすごく当たり前の事で、授業と授業のちょっとした休み時間。がらんとした放課後。家までの帰り道。勿論、授業中だって。何時いつだって、有り得るかもしれないの話で盛り上がってしまう。

 僕と彰人あきともそんな中学生の一人だった。

 中学入学の時から、席が前後で帰り道も一緒っだったから、いつも馬鹿な話をしていた。今日だってそうだ。二人でしていたゲームの攻略法が分かり、彰人は家に帰らず、そのまま僕の家に来ることになっていた。そしていつものように、くだらない話をしていた。

「でさ、彰人。もし三組の紗奈さなちゃんがおまえの事好きって言ったらどうする?」

「そりゃあ付き合っても良いかな?紗奈ちゃん可愛いし」

「何で上から目線なんだよ」

「いいじゃねぇか!もしもの話なんだから。それよりお前が告られたらどうするんだよ」

「そんなん決まってんじゃん。付き合っても良いよ」

「お前も上から目線じゃん」

 彰人と僕は家までの帰り道、もし付き合うなら。もし百万円拾ったら。もし明日休みなら。そんなの話をしていた。そんな時、不意に彰人から出たのは意外な話だった。

「なぁ。もし、今、宇宙人が地球を滅ぼしに来たらどうする?」

「そんなん、戦うに決まってんじゃん。まず彰人と一緒にタチブキにいって使えそうな玩具銃エアガンを手に入れるだろ?」

 タチブキは僕達、御用達のショッピングセンターだ。そこで手に入れる武器を想像し、僕は笑いながら玩具の銃を撃つ真似をして、彰人もそれに合わせるように武器を構える真似をした。

「じゃあさ、もし僕がその地球を滅ぼしに来た宇宙人だったらどうする?」

「彰人が宇宙人?」

「そっ。滅ぼしにきたね」

 僕は立ち止まり、彰人を見る。僕と視線を合わさずに頭をかいている彰人の姿が見える。

「それはちょっと困るかな?」

 率直に思ったことを彰人に話す。

「やっぱり戦うからか?」

「いや、彰人が地球を滅ぼす宇宙人に見えないからだよ。それに宇宙人だとしても僕達、友達じゃん!いや、彰人とは親友だよ!親友の事やっつけたりなんて出来ないよ。それとも彰人は僕と親友じゃなかったの?」

 彰人は「違いない」ってお腹を抱え、涙を流しながら笑っていた。僕は何だか照れくさくなって、彰人をおいて歩き始める。

「ほら、彰人!早く僕んちに来てゲームの続きしようぜ!」

 彰人が後ろからゆっくりとついてきて、僕の背中に話しかける。

「そうだよな!僕達は親友だよ。なぁ、この先僕の事を忘れたとしても、僕達はずっと親友だよな?忘れないでいて欲しいなぁ」

「当たり前だろ?」

 僕は笑いながら後ろを振り返り答える。

 振り返るその先には誰も居ない、いつもの帰り道が広がっていた。

 あれ?何で後ろを振り返ったんだっけ?そうそう、今日は早く帰ってゲームの続きをするんだった。やっと攻略法を見つけたんだった。二人でやったら簡単に出来る方法があったんだった。でも二人って誰とゲームするんだったけ?

 僕は何も思い出せない。

 だけど、何だか心がモヤモヤする感じがする。


 一人で帰るいつもの通学路。

 僕は一人何故か涙が止まらなかった。大切な何かを失ったような。そんな気がして。

 そして何故かこう言わずにはいられなかった。


例え何かを忘れていたとしても、僕はその何かは僕らにとって絶対に大切なものだ。だから心配すんなよ」





 ー楽しい時はあっという間ー



 了

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