エナジーブーストX

「最近、やたらと売れてるな……」


コンビニで深夜バイトをしている翔太は、冷蔵庫の棚を整理しながら、ふと栄養ドリンク「エナジーブーストX」を見つめた。

発売されたばかりのそのドリンクは、"飲めば覚醒する" というキャッチコピーと共に、SNSでも話題になっていた。

「飲んだら徹夜でも余裕」「脳が冴えわたる」などと評判が広がり、店に入荷するとすぐ売り切れてしまうほどの人気商品だった。


しかし、翔太は気になっていた。


「リピーターがみんな、妙にやつれてるんだよな……」


ここ最近、「エナジーブーストX」を買い続けている客の共通点に気づいていた。

彼らは顔色が悪く、目の下に深いクマを作っていた。そして、どこかうつろな目をしている。


「元気になるはずなのに、なんであんな顔してるんだ?」


とはいえ、深夜帯のコンビニには奇妙な客も多い。あまり気にしても仕方ない、と翔太は思うことにした。


その夜も、翔太は長時間のバイトで疲れ果てていた。


「……試しに飲んでみるか」


彼は売れ筋の「エナジーブーストX」を1本手に取り、グイッと一気に飲み干した。


瞬間、全身に電流が走るような感覚が広がった。


「すげぇ……」


まぶたの重さが消え、頭がクリアになる。心臓の鼓動が高まり、体中の血が勢いよく巡るのを感じる。

体が異常に軽くなり、視界が驚くほど鮮明になった。


「これはハマる人が多いわけだ……」


興奮しながらも、翔太はその感覚を楽しんでいた。バイトを終えて家に帰っても、疲れは一切感じなかった。

むしろ、エネルギーが有り余っているような気さえする。


しかし——その夜、異変が起こった。


ベッドに横になっても、まったく眠気がこない。


普段ならバイトの疲れですぐに眠れるはずなのに、頭が冴えすぎて眠るどころではない。


「まあ、たまには徹夜もいいか……」


そう思ってスマホをいじりながら時間を潰していたが、異変に気づいたのは深夜3時を過ぎたころだった。


カサ……カサ……


部屋の隅で、何かが動いた気がした。


「……風か?」


そう思いながら視線を向けるが、部屋には何もない。


——しかし、妙に落ち着かない。


誰かに見られているような、妙な視線を感じる。


そして——


鏡の中の自分が、こちらをじっと見つめていた。


「……え?」


驚いて目をこする。しかし、鏡の自分は微動だにせず、じっとこちらを見ている。


いや、違う——


鏡の中の自分が、ゆっくりと笑った。


「お前は、もう眠れないよ」


翔太の心臓が凍りついた。


翔太は叫びながら、部屋の電気をつけた。しかし、鏡の自分はいつも通りだった。


「……気のせい、か?」


恐怖と混乱のまま、朝を迎えた。


翌日も、翔太は眠れなかった。


それどころか、街を歩いていると異変に気づいた。


同じような目をした人間が、そこかしこにいる。


エナジーブーストXを手にしたまま、虚ろな瞳で歩く人々。

顔色は青白く、目の奥には深い闇が宿っている。


彼らは、翔太と目が合うと、ニヤリと笑った。


「ようこそ」


——その時、翔太は悟った。


「エナジーブーストX」を飲んだ人間は、何かに取り憑かれる。


それは、"覚醒" ではなく "支配" だったのだ。


翔太は、コンビニに駆け込んだ。


「エナジーブーストX」の販売を止めなければ——


しかし、店長も他のバイトも、全員が無表情で「エナジーブーストX」を棚に並べていた。


「おかえり、翔太くん」


店長が振り返り、にっこりと微笑む。


その瞳の奥は、果てしなく黒かった。


——その瞬間、翔太の意識は暗闇に沈んだ。


翌日、コンビニには翔太が立っていた。


いや、「翔太の姿をした何か」が。


彼は今日も「エナジーブーストX」を並べながら、ニヤリと笑った。


「次は、君の番だよ」

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