ギャルを守って死んだオタクくん、守護霊になる
金澤流都
1 霊魂
いま自分はクラスでいちばんかわいいギャル、八乙女あんずさんの頭上1メートル地点に、霊魂となりぷかぷか浮かんでいるでござる。
「えー、そういうわけで、田嶋の葬式があるそうなので、みんなで参列することになった」
教師がそう言うとクラスの全員がドン引きの顔になった。そりゃそうだろうなと思う。自分は端的に言って嫌われ者だった。根暗なオタクくんと仲良くしてくれるやつはこのクラスにはいなかったし、自分はスクールカーストの圏外におり、スクールカーストの頂点にいる八乙女さんから発されるキラキラ電波に怯えて暮らしていた。
でも人生でたった一つ、この命を有効に使える手を選んで死んだのだから、もうちょっと評価されてもいい気がするのだが。
自分は、八乙女さんを守って死んだのだ。
それは自分の人生で、ほぼ唯一誇れることだった。
しかし自分が八乙女さんを守ったこと、それどころか自分のことを、八乙女さんは忘れている。それは神様が出してきた、八乙女さんの守護霊になるための条件だった。
だから八乙女さんからしたら「田嶋なんてやつクラスにいた?」 となっているに違いないのだ。そしてその反応をマジでしても、クラスメイトたちはそれを八乙女さんの冗談として受け取るくらいには、自分は嫌われていた。
「香典……田嶋の家はクリスチャンだからお花料か。それはクラスメイトは出さなくていいそうだぞー」
クラスは再度ざわついた。きっと自分の家族がキリスト教徒というマイノリティであることに驚いたのだろう。自分は洗礼を受けたわけでないので、別に無宗教のお葬式でいいのだし、親元を離れたらいっぺん行ってみたかった初詣やお祭りを見に行こうと思っていたくらいなので、キリスト教式の葬式でなくていい。だいいち、天の御国なんて行きたくなくていまこうして八乙女さんの守護霊をやっているわけで。
とにかく朝のホームルームが終わった。
八乙女さんはクラスのとびきりキラキラした女子たちと楽しそうにバレないメイクの話を始めた。
八乙女さんの可愛さを見ると、守って死んだかいがあると思う。こんな国宝級の美少女と自分のようなキモオタであれば圧倒的に命の価値は八乙女さんのほうが大きい。
人から見て十円玉が全て十円であるように、神には人間の価値は等価であると、小さいころ教会学校で聞いた。しかし自分はそれに納得できなかったし、今も納得できない。それくらい小さいころから、自分は石の裏に棲んでいる虫だった。
そのあとの授業をさらりと受け(八乙女さんはさらりと受けた感じではないが)、放課後になった。八乙女さんは仲のいいクラスメイトとイオンに遊びにいくらしい。
まあイオンと言ってもクソ田舎だ、クソデカいスーパーみたいなところに洋服屋や雑貨屋や化粧品店のテナントが入っている感じ。たぶんイオンモールなるものとは別物だ。
八乙女さんが歩くと自分はふわふわと八乙女さんについていく。守護霊だから仕方がない。このクソ田舎のわりには人のいるイオンスーパーセンターにフワフワと入ると、流行りのキャラクター(残酷なストーリーのある漫画がXで展開されているが、世の大半のひとがただのかわいいキャラクターだと思っているやつ)のくじ引きをやっており、八乙女さんたちはグッズ欲しさに何回かくじを引き、それから店内のゲーセンで遊び、それから店内をウロウロし始めた。
「あれ? 君たち鳳鳴? 一緒に遊ばない?」
国際情報学院の制服の男子が何人か、八乙女さんたちに話しかけてきた。こ、これはナンパというやつでござるか。
八乙女さんの危機!
すなわち守護霊の本領発揮!!!!
「あたし彼氏いるから」
「えーっ。まあそれだけ可愛ければ当然だよなあ。でもきょう1日遊ぶくらいなら大丈夫だよ、バレないバレない」
八乙女さん、彼氏いるのか……まあそれはそうだ、仕方がない。
ここで自分がやるべきは一つ。神様の持たせてくれた守護霊スマホをぱっと構える。そのなかには「破壊」「逃走経路確保」「アクシデント」などのアプリが、見る専のXなんぞと一緒に入っている。
えい。
守護霊スマホの「アクシデント」、をぽちっと押す。
ぎゅるり。
ナンパ野郎1号がお腹を押さえた。
「どうした?」
ナンパ野郎の仲間がそう声をかける。もういっぺん「アクシデント」を押すと、そいつもお腹を押さえてしゃがみ込んだ。
えいえいえい。「アクシデント」を連打する。ナンパ野郎どもは全員見事にお腹を壊したようだ。
自分、リア充に勝ってるでござる〜!! わーははははー!!!!
そそくさと逃げてトイレに直行したナンパ軍団をアホを見る目で眺めて、八乙女さんたちはイオンを後にした。
八乙女さんは家に帰ってくるなり、かわいいキャラクターのぬいぐるみをいっぱいぶら下げたカバンを部屋に放り込んだ。手洗いとうがいをして、それから「……さむっ。お風呂入んなきゃ」とつぶやいた。
お風呂。
お風呂、とな。
もしかして自分は八乙女さんがお風呂に入っているところを見れるんでござるか? えっ、それ守護霊としてどうなの? 見たくない、いや本当に見たくないんでござるが。まんじゅう怖いじゃないでござるよ、ただただ、想像するだに恥ずかしいというか、いやでもちょっと見たい気もするでござる……。
他人の裸を見てはいけないと教育され、子供のころ風呂に入れてくれたのがすべて父だったので、女性の裸というのは見るのが初めてだ。
どどどどーすればいいでござるか!? とりあえずいまの部屋に2人っきりという状況すら恐ろしいのに!!!!(つづく)
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