ソロ専アルバイター、ダンジョン配信者になる-回収屋バイトのわたしは零細配信会社に見初められる

こしこん

第一話 わたし、配信者デビューします!

わたし、配信者デビューします! ①

「こんちゃでーっす!リンクトーカーのよう華だよっ!みんな久しぶりー!」


 八王子ダンジョンの3層に響く賑やかな声。


 見ると、ピンク色の髪の女の子が撮影用ドローンを見上げて楽しそうに話し込んでいた。


 最近流行りの「ダンジョン配信」だろう。


 このダンジョンという謎に満ちた建造物が世界中に現れて80年以上が経った今、ダンジョンはただ探索するだけのものではなくなってきた。


 撮影用のドローンで動画を撮影しながら探索し、自分の活躍を配信するという娯楽が若者を中心に流行っているんだとニュースで言っていた。


「あいさつは明るく、なるべくリスナーに話しかける感じで…」


 わたし、辻󠄀つじぶきとも子は今日…、かねてより考えていたあることを実行に移す。


「おはようございます。辻󠄀吹です…。これじゃいつも通りか」


 仕事の報告用に支給されたドローンを起動し、できる限りの笑みを浮かべてみる。


 ドローンはわたしを撮影してるだけで配信はしていない。


 一応その機能はあるみたいだけど、これは配信じゃない。


「まずは謝罪を。…すみません。配信というものに興味があったので、今回はそれっぽく業務報告をしたいと思います」


 だ。


 会社の備品でそんなことを…と思いもしたけど、パートのおばさんたちはおしゃべりしながら仕事してても何も言われてないから大丈夫だろう。


「今日は薬草とヒールダケがたくさん採れました」


 ドローンに今日の戦利品が入った袋を見せる。中には傷を癒す薬、ポーションの材料になる薬草とキノコが入っている。


 わたしの仕事は『回収屋』のアルバイト。


 ダンジョンで物を拾ったり、魔物を倒して素材を集めるお仕事だ。


 といっても、戦える人はほとんどいない。


 だから山菜摘みのアルバイトみたいな感覚で入ってくるパートのおばさんもたくさんいる。


「今回はまだ余裕があるので奥の方で魔物素材を…」


 報告の最中に、何やら揉めているような声が聞こえてきた。


「あのっ、撮影中なんですけど…」

「いいじゃんいいじゃん!サプライズコラボってことで」


 声の方にはさっきのピンク髪の女の子と、遊んでそうな見た目の大柄な男性が。


 彼の頭上にもドローンが浮いている。多分配信者だろう。


「ウェーーイ!!チャラっとTVの茶羅之助ちゃらのすけデース!突然ですが、今からこの子とコラボしちゃいまーす!ねぇねぇっ、名前なんてーの?」

「えぇっと…」


 男性はカメラ目線で楽しそうだけど、女の子は全然楽しそうじゃない。


 配信は治外法権なダンジョンにおける犯罪の証拠保全にもなるってつい最近見たテレビで言っていた。


 配信者なら大勢の目がある中で過激なことはしないと思う。


 けど、困ってる人を放っておくことはできない。


「…」


 息を整え、背を屈め…


「っっ!!」


 脚に魔力を巡らせて一歩を踏み込む!


 地面が抉れるほど踏み込んだ一歩がわたしと二人の距離を瞬時に縮め、男性が女の子の手を掴もうと伸ばした腕を阻むことができた。


「なっ!?」

「えぇっ!?」


 驚く二人の間に割って入り、女の子を背に隠すように立つ。


「やめて下さい。嫌がってるじゃないですか」



 "業務報告?なんだこれ?"

 "蒐集会社明井公式チャンネル?聞いたことないギルドだな"

 "調べたら回収屋の会社らしい"

 "この子回収屋か?"

 "配信っぽくって言ってたけど、まさか設定ミス?"

 "声かわいいけど、作業着だしマスクしてるから男か女かわかんねーな"

 "わたしはどちらでも構わん!!"

 "つじぶき?それにこの声…まさかっ!!"

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