成就した



「わたしはぁ! あんたのこと、だいすっ……きっき嫌いよっ!!! もう!!!」


 …………えーっと。


 なんかもう、ここまで来たら、今日この場で俺の願いを成就させるのは無理な気がしてきた。願いというのは、もちろん琴嶺と恋人になることだけど。


 彼女の方を見やると、さっきよりも少しだけ翳った表情をしているように見えた。素直になれなくて、後悔しているかのような。


 こういうとき、どんなことをしてやれば良いんだろう。


 とりあえず、声をかけてみる。もちろん、茶化したりバカにしたりはせずに。


「ねえ」

「……なに」

「今お前が言ったこと、全部が事実なら俺は一旦身を引くよ。……別に諦めるわけじゃないけど」

「……っ」


 彼女は、ほんの少しだけ肩をビクッと震わせた。それこそ、よっぽどちゃんと見ていないと分からない程度に。


 この反応が何を示しているのかは、まだ対話を続けてみなければ分からない。


「けどね、琴嶺。……少しでも嘘が含まれてるんなら、ちゃんと訂正してほしい。お前の本心が知りたいんだよ。……ウザかったら申し訳ない」

「…………。……ふんぬっ」

「!?」


 急に、俺の足を踵で踏んできた。ぐりぐりぐりぐり。彼女の真っ白なスニーカーが、俺の黒いスニーカーと争っている。……なんて変な言い方をしたが、要はめちゃくちゃ痛いのだ。


 ご褒美……だと思えばまだ耐えられるかもしれないが、さすがにエンドレスだったので、足を避難させて無理やりやめさせた。


 そうしたら、琴嶺が怒ったような表情でこちらを見つめてきた。


「……わたし、さっき家の前であんたに声かけられたとき、何か悪いことを言われるんだと思って必死で逃げてたの。……それこそ、絶交宣言とかね。……綾人に嫌われたら、立ち直れる気しなかったし」

「絶交なんてするわけないだろ! 気付いたら疎遠になってたし、何より俺もお前の動向を探るだけで満足してた節があるし。みっともなくて、そんなことできない」

「まあ、それもそうよね」


 そう言って、彼女は顔を地面に向けた。まるで、溜まった怒りをまさに爆発させようとしているかのように、深呼吸をする。綺麗な瞳が、キッとこちらを向いた。


「だから! わたし、告白されるなんて全く思ってなくて! ちょっと舞い上がっちゃって、でも全然素直になれなくて! なんだか、自分が嫌になってたの!」

「……うん」

「でもねぇ! あんた、告白してきてからわたしの様子を伺うばっかで! 今度は、あんたのその態度が嫌になってきたの!」

「……うん?」

「『好き』って、ビシッと言ってくれたのはかっこよかったのに! 男なら、そのあと強引に抱きしめたり、く、くく唇奪っちゃったりしてみなさいよ! もっと強気に出なさいよ! わたし、そ、そういうのが好きなのにぃっ! 綾人、あんたってほんとにバカよっ!」


 全部言い終えたらしく、ぜぇはぁと疲れたように呼吸している。


 顔は真っ赤に染まっていたが、背景の夕日に照らされて、なんだかとても綺麗に見えた。


 そんな彼女を、俺は強引に抱きしめた。遠慮はいらないらしいので、とにかく強く。潰れそうなほどに。


「……まあ、及第点はあげる」

「……それはどうも」

「キスは、してくれないのね」

「いや、ここ公園だし。さすがにそこまでは恥ずかしい」


 今も十分すぎるくらいに恥ずかしいけど。


「……ふんっ。まあ良いわ」


 琴嶺は、俺の腕から抜けると、今日初めての笑顔を向けてきた。とても穏やかで、優しくて、思わず昇天しそうになるくらいに綺麗な。


「まだ言ってなかったけど。わたし、あんたが好きよ。今日からは恋人同士ね」

「……うん」

「わたしのこと、好きになってくれてありがとう。……ちなみに、きっかけは小1のときにやったドッジボールね。あんた、ボールに当たりそうになったわたしの目の前に立って守ってくれたから」


 どうしよう、見事に覚えてなかった。……だけど、彼女は彼女で泥団子の件を覚えてないと言ってたし、意外となんでもないような行動によって人は恋に落ちるのかもしれない。


 ……あ。それと、聞きたいことがあるんだった。


「ねえ琴嶺。いつからそんなツンデレになっ─── ぐはっ?!?!」

「ツンデレ言うなぁ! 次に言ったら股間蹴るわよっ!」

「あ、いや、それはマジで勘弁してください」

「……ほんとに、もうっ」


 とりあえず、一件落着ということで。俺たちは、家に帰ることにした。……ってちょっと待て、本来の目的を忘れてた。コンビニ行かなきゃ!


「俺、コンビニ行きたいんだけど、お前は何のために外出たの?」

「あっ。忘れてた……わたしもコンビニよ。グミ買いたかったの」

「グミって……なんか可愛いな」

「バッババカなこと言ってないで! 一緒に行くわよ! こっち!」


 琴嶺に手を引かれて、コンビニへ向かう。しれっと手を繋いでいることに、気付いてるのか気づいてないのか……。


 


 初めはどうなるのかかなり不安だったが、今はとても幸せだった。




 ちなみに、その後の話を少しすると。

 俺たちの様子を何故か見ていたらしい音嶺によって、いろいろな情報がそれぞれの両親に伝わってしまったらしく、家の近くに来た瞬間に「おめでとーう!!!」と5人同時に言われた。

 俺たちは逃げようにも逃げられず、久しぶりに両家合同で夜ご飯を食べた。……赤飯だった。




終わり







ここまで読んでくださりありがとうございます!

やっぱりツンデレは良いですね。作中で描写できなかったのですが、彼女はもちろん貧乳です。ぺったんこツンデレこそ正義。

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疎遠になってた幼馴染が暴力系ツンデレなんだけど!? 音多まご @nacknn10

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