第3話 ヘラクレイトス、コンビニに現る

 サンティはいつものように、アテナイの学堂のコンビニのレジで忙しくしていた。今日は特に暇な時間帯で、棚に並んだ商品をじっくりと整理することができていた。

 突然、店の扉が開き、音もなく現れた人物がいた。それは、髪の毛が少しボサボサで、黒いトーガをまとった年齢不詳の男性だった。サンティはその人物を一目見て、すぐに気づいた。

「……ヘラクレイトスさん?」

 サンティはあいまいな表情で尋ねた。

 ヘラクレイトスは無言でうなずき、ゆっくりと店内を歩きながら、手に持った杖で床を軽く叩いていた。その目は何かを見透かすように鋭かった。

「君は……流れゆく川を知っているか?」

 ヘラクレイトスが突然、サンティに語りかけてきた。

「流れゆく川?」サンティは少し驚きながら、カウンターに手を置き直した。「ええ、川は流れていますけど……」

「いや、君はその『流れ』を見ているだけで、それが本当の意味で流れゆく川を知っているわけではない!」

 ヘラクレイトスは熱っぽく言った。

 サンティはもう少し整理してから答える。「えっと、それは、つまり何ですか?」

 ヘラクレイトスはうなずき、意味深に言った。

「同じ川に二度と足を踏み入れることはできない、流れは常に変化し続ける。すべてが流れ、すべてが変わるのだ。」

 サンティはその話に深く考え込んだが、何も思いつかない。

「うーん、それは……哲学的ですね。でも、今日のおすすめ商品はこれです!」と冷凍ピザを手に取った。

 ヘラクレイトスは冷静にそれを見て、しばらく黙っていた。

「冷凍ピザ……流れゆく川のように変化しない、安定した形態だな。」彼はピザの箱をじっと見つめた。「だが、それは変わらぬものだろうか?それは流れを拒んでいる。」

「え?ピザが流れを拒んでいるって……」と、サンティは目を丸くして言った。

 ヘラクレイトスは深く頷く。

「ああ。ピザは冷凍され、形を変えることなく、ただ存在し続ける。しかし、食べればその存在は消え、形を変えるだろう。すべては変化するのだ!」

 サンティは彼の言葉に頭をかきながら、「でも、冷凍ピザは便利でしょ? そのままで食べられるし……流れとは無関係に、速攻で食べれるんですよ?」と、反論してみた。

「それが君の言う『安定』か……」

 ヘラクレイトスは少し考え込み、ついに言った。「だが、流れゆく時の中で安定を追い求めることこそ、真の変化を見逃すことになるのだ!」

 サンティはどう返すべきか迷ったが、もう一度冷凍ピザの棚に目を向けて言った。「それじゃあ、ヘラクレイトスさん、流れゆく川のように、今すぐこのピザを買って食べてみてください。」

 ヘラクレイトスはうーん、と呻きながらピザを手に取ると、無言でレジに向かった。

「……このピザも変化し、私の中で新たな意味を持つのだろう。」

 ヘラクレイトスはピザを袋に入れながら、何か思いつめたような表情を浮かべた。

 サンティはレジを通すとき、少し笑いを堪えていた。「そうですね、変化はすべてのものに訪れますから…」

 ヘラクレイトスは袋を受け取ると、「時に流れに逆らうことも重要だ。」と言いながら、店を出て行った。

 店の扉が閉まると、サンティはふっと息をついた。

「流れゆく川…まさか冷凍ピザがそんな深い哲学と関係あるなんて。」

 サンティはその日の出来事を振り返りながら、ピザのパッケージを改めて見つめてみた。

「まぁ、次はもっと変化を感じる食事にしようかな。」

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アテナイの学堂のコンビ二 yuki @nehan19

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