第2話 プラトンとアリストテレス、コンビニに現る

 サンティはレジの前で、今日も忙しく商品をスキャンしていた。冷凍ピザと缶ジュースの在庫がちょうど足りなくなりそうで、なんとなくソワソワしていると、店の扉がガラガラと開いた。

「こんにちは! どこかで見かけた顔だと思ったが、やはり君か!」と、声が響く。

 サンティは顔を上げ、店内に入ってきたのは、なんと二人の男だった。一人は優雅なトーガを着た中年の男性、もう一人は若干焦げ茶色のひげを生やした、少し厳つい顔立ちの男性だった。

「おや、あなたは…」サンティは困惑した表情を浮かべながら答える。「えっと、プラトンさんとアリストテレスさん…?」

「そうだ!いや、我々がアテナイの学堂で最も重要な議論を交わしている者たちだ。」と、プラトンが誇らしげに言った。

 一方のアリストテレスは冷静に、「でも、正直言って、プラトンさんの理想主義はちょっと……まあ、見ての通り、現実的な部分が足りないんですよね。」と、つぶやいた。

「またその話か!」

 プラトンは目を丸くしてアリストテレスを睨む。

 サンティは二人のやり取りに少し戸惑いながらも、普通に接客を続けた。

「えっと、何をお買い求めですか?」

 プラトンは大きな声で、「理想的な食料だ!」と叫んだ。「我々は、ただの物質的な食事では満足できん! 我々が求めるのは、心を満たす食べ物だ!」

 一方のアリストテレスは小さな声で反論する。「いや、実際のところ、空腹を満たすためには、まず物理的な食事が必要だと思うんですよ。」

 プラトンは無視して、さらに力強く言った。

「いや、アリストテレスよ、君はいつも現実的すぎる! 我々は真理の食物を探しているんだ。例えば、オリーブオイルを使った、完璧なサラダとか……」

「オリーブオイル?」アリストテレスは眉をひそめた。「君、ただの食材のことを話しているのか? 君の理想論にはうんざりだ!」

「いや、君が現実的すぎるだけだ!」プラトンが叫ぶ。

 サンティは二人の言い合いに困惑しつつ、さりげなく、「あの……どうします?オリーブオイル、ありますよ。」

 と、棚からオリーブオイルを取り出した。

 アリストテレスは冷静に、それを受け取って言った。

「現実的に言うと、オリーブオイルは無駄ではない、食材として実用的だ。」

 だが、一方のプラトンは顔を赤くして、「しかし、それは『理想』には遠い! 私は心の満足を追求している!」

 と、言いながら、サンティに向かってポテトチップスを指さす。

「これこそ、理想的な食品だ!食べることで真の満足を得られる。」

 アリストテレスは深いため息をつきながら、カートにポテトチップスを放り込む。そして、「プラトンさん、理想を追い求めすぎて現実から目を背けていると、こうなるんですよ。」と、皮肉を込めて言った。

 サンティは二人の激しい言い合いに顔をしかめながら、レジを通す作業を続けていた。

「あの、結局、何を買うんですか?」

 プラトンは神妙な面持ちで、

「心の満足を追求するために、君が提供する最も純粋な食べ物を。」と大きく言った。

 アリストテレスは、

「現実的な食べ物だ。あくまでも現実的に。」と呟いた。

 サンティはもう何も言わず、二人の注文をまとめてレジを打つ。最終的には、オリーブオイルとポテトチップスを含む買い物がカートに並んでいた。

「ありがとうございました。」

 サンティは無表情で言った。

 プラトンとアリストテレスは互いに視線を交わし、「君も我々の議論に加わるべきだ。」とサンティに向かって口々に言った。

 サンティは苦笑いをしながら、「今日はもうお腹がいっぱいです……」と呟き、二人を見送った。

 店の扉が閉まると、サンティは深くため息をついた。

「あの二人、ほんとに……」

 彼はぼやきながら、冷凍ピザの棚をチェックしに行った。

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