第42話 ローガンの夢

 魔魚の契約はリーガル商会のサイン待ちに成り、ローガンさんとのスライム手袋の契約は増産体制が整うまで取り敢えず保留という事で落ち着いた。だがその後、ローガンさんが食い付いた土魔法による防壁作りから、話は思わぬ方向に向かっていく。


「マリア様、あのトーフハウスを私にも作ってくれませんか?」


「ローガンさん、いきなりどうしたんです? それにトーフハウスを作るって何処にですか?」


「勿論、この村にですよ」


「トーフハウスをこの村に作ってどうするのですか? ローガンさんはヒルデの町に拠点があるんでしょ?」


 唐突に行商人であるローガンさんがこの村にトーフハウスを作ってくれと言い出した。まして拠点のある町に近々店を持つような話をしてた人がだ。う~~ん、今日は話しが噛み合わない事ばかりですね……。


「それはそうですが、私には商売とは別にやりたい事があるんです」


「商売とは別……? それとトーフハウスに何の関係があるんですか?」


 ローガンさんからトーフハウスをこの村に作ってくれという話が出た時、私はてっきりこの村に出張所みたいなものでも作るのか思っていたんですが、「商売とは別」という言葉が出て来たのでよく分からなくなりました。


 ですが、次にローガンさんが発した言葉に驚愕する事に成りました……。


「実は、そのトーフハウスで孤児院をやりたいんです」


 どひゃ~~! 何を言い出すかと思えば孤児院をやりたいですと! それも辺境も辺境のこの貧乏な村で……。普通こういう世界だとそういうものは教会なんかがやるもんでしょ。それなのにどうしてそんな事を商売人が考えるの? 


「どうしてローガンさんが孤児院を作りたいなんて考えたんです?」


「実は私が弟と言っていた奴隷商は本当の兄弟ではないんです。あいつは私が育った村で一緒だった弟分なんです」


「それと孤児院がどう結びつくのです? 同じ村の出身というだけでしょ」


「あいつは今でこそ奴隷商をしていますが、元は口減らしで親に売られた子供の奴隷だったんです」


 口減らしで奴隷に成った子供が今では奴隷商……? 前世のドラマでも滅多にあるかどうかの話ですよ。そんな奇跡? いや違う、そんなドラマチックな人生そうそうあるもんじゃない。ん? でもこの話には疑問がありますね……。それは、


「子供の奴隷がどうやってそんなに早く解放されたんですか?」


 私がこんな質問をしてるのは当然なんです。何故なら以前ローガンさんから子供の奴隷がいる事を聞いた時に、子供の奴隷について詳しく聞いたからです。そしてその内容の中に子供の奴隷は大人の奴隷より解放されるまでの期間が長いという事がありました。理由は子供が大人と同じように働けるように成るまで賃金が安いからだそうです。


「それは私が買ったからです」


「いやいや、幾ら何でもそれは無理でしょう。ローガンさんの弟分ならローガンさんとも年齢的にそんなに離れていないでしょ。それなのにローガンさんにそんなお金があるとは思えません」


「まぁ普通はそう思いますよね。ですがその時私は二十歳であいつは十歳だったんです。まして私はその頃にはもう行商でそれなりに稼いでいたんです」


 十歳差の弟分……? 良く考えればない事もないのか。ローガンさんが十歳の時に生まれた赤ちゃんを弟のように可愛がっても不思議じゃないもんね。それに前世でも年の離れた兄弟は仲が良いというのは良くある事だったからね。なんでも保護欲が強くなるから兄や姉が下の子を守るように成るそうです。


「ローガンさんは何歳から行商をされてたんですか?」


「私は十五の時からです」


 十五……。確かにこの世界では十五で成人になるけど、その年から魔物や盗賊のいるこの世界で行商をするなんて、チャレンジャーだよ。この人本当に凄い……。


「弟さんが元奴隷だった事は分かりましたが、それと孤児院がどう繋がるのですか?」


「マリア様もご存じのように、子供が奴隷に成るのは殆どが口減らしです。ですから売るぐらいなら私が作る孤児院に預けて貰いたいんです。そうすれば親兄妹も罪悪感を持たなくて良いし、口減らしされる子供も借金を背負わなくて良いでしょう」


 ん? それって孤児院じゃなく前世の私がいた養護院じゃない。孤児院と養護院は似てるようで違うんです。孤児院は親がいない子が入る場所ですが、養護院は親がいる子も入れるところで、理由は色々あります。例えば、虐待、親の病気、家庭の貧困、親が行方不明とかですね。


 ですから、ローガンの考えている孤児院は私からしたら養護院その物なんですが、今それを言っても話しがそれるだけなので、その事については別の機会にする事にしました。


「ローガンさんの考えている事は分かりましたが、どうしてそれが此処なんですか? 見ての通りのうちは辺境の貧乏領ですし、ローガンさんも知っているように何時隣国に売られるか分からない場所です。ですからどうせ作るならもっと大きな町の方が良いと思うんです。ましてその方が寄付なんかも集まり易くて良いと思います……」


「勿論、それは分っています。ですがマリア様を筆頭にこの村の人達はそれをくつがえそうとしてるじゃないですか。ましてそれが可能に成りそうな事を既に幾つも見つけて実行しています」


「確かにそれはそうですが、まだまだ油断出来る状態ではないです。最終的にそれを決めるのはこの国ですし、私はまだ子供ですからね……」


 そうなんだよね……。私が幾ら頑張っても所詮はまだ幼女ですから、国が売らなくても、理由をつけて取り上げる事も出来るし、乗っ取る事も出来るのよ。だからただ売られないようにする事だけ考えていれば良いという物でもないの……。


「マリア様の懸念も分かりますが私が此処を選んだ最大の理由は別にあります。それはマリア様が子供奴隷がいると知った時に激怒されたからです。私はあのように怒る方を始めて見ました。この世界では子供の奴隷に憐れみを持つ事はあっても怒る人はいません。仕方がない事だとみんな思ってるからです。ですがマリア様は怒り必ず連れて来るように言われました。そういう方の所なら、私が開いた孤児院の子も村人と分け隔てなく接してくれると思うから、ここが良いんです」


「マリア様、負けですね」


「何それ! これまでずっと黙っていたのに、ここだけ口を出すの酷くない!」


「それはしょうがないじゃないですか、これまでの話しの内容に私達はついて行けませんよ。正直ローガンさんが言うのが正しいと思っていましたからね。マリア様は本当に五歳なのかと……?」


 これまで一言も言葉を発してないけど、ローガンさんとの話し合いが始まった時から、この部屋にはエマ、ケイン、マーサの三人もいたんです。それなのにこれまでは私の背後霊のように私の座るソファーの後ろに立っていた。


「エマさんの許しも出たようですから、マリア様お願いしますね」


「そこまで言われたら仕方がないから作ってあげる。それでトーフハウスは幾ついるの?」


「取り敢えずは一つで良いです。ですがいずれ増えると思うので場所だけは広めに確保して頂けるとありがたいです」


「注文が多いわね……。でもそんな場所あったかしら? ねぇエマ?」


 防備の為にこの村を最近囲ってしまったから、余っている土地は殆どないのよね。勿論全くない訳ではないのですが、その土地は今後の為に取っておきたい。


「マリア様、拡張するしかないですね」


 いやいや、ケインは何を言ってるのかな? ついこの間村を囲い終わったんだよ。それを今度は拡張? 主人で尚且つ幼女の私をどれだけ働かせるつもり。


 私とケインの会話を聞いていたローガンは何の事というような顔をしている。多分これは土魔法の使い手が私だとまだ気づいてないからだ。変にこういう所だけは鈍いんだよね……。

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