第2話 赤ちゃんに魔法は無理

「オギャー、オギャー」


「あらあらマリア様、ぐっすり寝ていたかと思えば、お腹がすいてお目覚めになられましたか。それではミルクを直ぐに準備させますね」


 この世界のミルクというのはヤギのミルクなんですが、これは一時凌ぎで、ちゃんと領にいる母乳が出るお姉さんが一日に何度かはうちに来てくれるんだ。この人は子だくさんで元々母乳の多く出る人だから、私がいなければ母乳を捨てているぐらいの人。


「あれ? それおかしくない?」 勘の良い人ならこの話を聞いたらちょっとおかしいと思う筈。当然、そんなに子供がいるのにお姉さんはおかしいと思うよね。まぁ中世のような時代背景なら若くして子供がいてもおかしくないから、それもあり得るんだけど、普通はおばちゃんを想像するよね。それも肝っ玉母さんのような人……。


「はい! そのとおりです!」この人に言わされているというのが真実です。この人本当は想像通りの肝っ玉母さんのような人なんです。ですがどうしても自分の事をお姉さんと呼べという人なのよ。まぁ実際肝っ玉母さんというには前世の感覚で言うとまだ若いのも確かなので、お姉さんと私やマーサはそう呼んでいます。


 私の場合は当然心の中でだけど……。だってこの姉さん普通なら言葉もまだ理解出来ない年齢の私にも今から将来言わせようとしつこく言って来るんだもん。まぁだから世間一般的にあるパパ、ママを両親が言わせようとしてるのと同じだろうと無理やり自分に言い聞かせているの。だってその人それを言う時、マーサや私を見る目が物凄く怖いんだよ。それ以外はとても良い人なんだけどね……。


「ミルクも飲まれたのでげっぷを出したらまたおやすみしましょうね。マリア様は今はそれがお仕事ですからね」


 エマの言いたい事は分かるんだけど、私としては気持ち的に呑気に寝ていられる状態ではない。何故なら私には転生特典の領地経営のステータスがあるから、この領が今どういう状態か全て見えているからです。勿論、だからと言って今の私に何か出来る訳ではないのだけどね……。


 じゃあどうするかと考えれば個人のステータスを今のうちに上げておくしかないと思い、現在必死に奮闘してるのです。でもね~~、この世界の中では普通に使われている魔法が今の私には使えないの。多分これは五歳で受ける洗礼が済んでいないからだと思うのよ。マーサ達もそんな話をしてたからね。五歳からステータスが見れるようになるって……。


 はい、ここでもまたおかしい事があります。そう私はまだ一歳にも成っていない洗礼前の赤ちゃんなのに、ステータスが二つも見えているのです。更に魔法は使えないけど、魔力を増やすことは出来ているという不思議ちゃん状態。まぁそんな事が出来ているのはこれまでの私の努力の結果なんですけどね。魔力を増やす為に魔法を使おうと何度も挑戦したけど出来ないから、それならばと前世で培った薬学などの学問と同じで、一度基本に立ち返るという事をやってみたからです。


 魔法が使えないなら、魔法の基本だと思える魔力を動かしたり、魔力その物を放出したりすれば良いのではと思い、必死でそれに取り組んだら、魔力を放出することが出来るように成ったのです。まぁそれまでには何度か魔力を放出しようとして、力み過ぎて女の子としてはやってはいけない〇ンチを漏らしてしまった事もありましたけどね……。


『いや~~! もう私お嫁に行けない!』


 その時はこう一瞬何度も思いましたが、いやいや、私はまだ赤ちゃんだから問題ないと自分に必死に言い聞かせ、何とかメンタルを維持しました。でもね他の赤ちゃんと違って私は精神年齢は大人だから、どうしてもショックが大きく、何度も続くと暫くはトラウマのように成って魔力の放出が物凄く遠慮気味に成り、中々魔力の全放出が出来なくなったのも事実です。


 それから暫くして、そのトラウマを何とか克服出来たのは、良く考えたら私は嫁に行くんじゃなく、婿を貰う立場だという事を思い込めるようになったから……。物凄い屁理屈ですけどね。


『魔法か~~~、どうして使えないんだろう?』


 洗礼に関係なく私はステータスが二つも見えているんだから、魔法も洗礼に関係なく使えても良いと思うんだけどな……? だって魔力の放出までは出来るんだよ。それなのに俗にこういう物語で良くあるイメージをしても魔法は発動しないんだよね。


 私が何でこんな事を知ってるかと言うと、当然、私が前世で養護施設育ちだからです。年齢性別の違った兄弟が沢山いれば、自然とそういう物と触れることも多いし、超優秀な私でしたが周りからは変わり者のオタクだとみられている面もあったのです。俗に言うでしょ、馬鹿と天才は紙一重と……。


『イメージじゃないなら呪文?』


 でもな~~、マーサ達も時々私の前で魔法を使う事があるけど呪文は使ってないからね。まぁ魔法名みたいなものは一応言ってるけど……。


『あれって生活魔法みたいなものなのかな? だから洗礼が済まないと使えないのかも?』


 イメージでもない、生活魔法は洗礼が済まないと使えない。それだと残るは呪文という事になって万事休すなんだよね。そりゃそうでしょ私赤ちゃんだから、魔法書があっても文字は読めないし、真面に発音出来ないもの。


『呪文ってどんな物かな?』


 私のオタク知識だと古代の言語だとか、前世のギリシャ語とかラテン語なんかが使われてたけど、多くは日本語だったんだよね。それもちょっと呪文を唱えるのが恥ずかしい中二的ものが多かった。


『我汝に銘ずるとかから始まる呪文。酷いのになったら漆黒の闇の覇者とか言うのもあったね』


 でもさ、これが本当に魔法は呪文で発動するとなると、うちのような貧乏貴族じゃ魔法書なんてないし、買えないよね。そうなったらどうしよう? 幾ら魔力を増やしても宝の持ち腐れに成ってしまうんだけど……。そんなこと考えてると何だか虚しくなってくるね。


「オギャー、オギャー」


「あらあら、マリア様どうしました。まだミルクの時間じゃないですよ。怖い夢でも見たんでしょうか?」


 いやいや、これはあまりにこの先の事が不安になったから、自然と赤ちゃんの条件反射で泣いてしまっただけだよ。流石にエマのいう怖い夢というのは赤ちゃんは見ないでしょ。


 いや! あるかも? 前世で父親のお墓の前で赤ちゃんがそこに誰かがいるかのように振舞ったり、話しかけ、微笑んだりしてた動画を見たことがあったわ……。


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