隣の○○さんは俺に○○してくる

黒薔薇サユリ

第1話 隣の席の刈谷さんは俺に夜這いしてくる(1)

梶谷かじたにくん、これ落ちましたよ」

「お、ほんとだありがとう刈谷かりやさん」


数学の授業の中、俺が落としたペンを隣の席の刈谷さんから、受け取る。


「ちなみに、この問題に関しては、前に使った等式を応用すると、簡単に解けるから。やってみようか」


そこそこ昭和的考えの、数学担当の教員が、問題の裏技的なやり方を教えてくれている。


もちろん、成績がど普通の俺は、やっていることは、わかるけれど何がどうなっているのかわかるはずもなく、頭の中で渦がまく。


「刈谷さん、この問題のことなんだけど、なんで急に初出不明の4が出てくるか教えて貰っていいかな」

「これですか?いいですよ。じゃあ、まず最初のところは、わかってますか?」


先程俺に落としたペンを届けてくれた刈谷さんに、助言を求めると、俺が分からない問題の解説を細かく1から始めてくれた。


隣の席の刈谷さん。勉強はできるし、性格よしなそこそこ完璧超人。しかも、それに加えて顔もいいときた。ほんとに、非の打ち所がない女の子だ。


これで、彼氏がいないのは驚きでしかない。まあ、本人が隠してる可能性はあるけど。


俺と刈谷さんの関係は、1個共通の趣味を持っていて、それについてたまに話すというのと、今みたいにわからない所を教えてもらうと言った、普通に友達的な関係だ。


そもそも、俺こと梶谷優かじたにゆうに、ここまでの人と付き合えることは一生ないと思う(現在年齢イコール)。


「それで、さっき梶谷くんが初出不明と言った、4を使って、答えが3と9になる訳ですね」

「あー、なるほど」


さすが、刈谷さんだ。とてつもなくわかりやすい説明で、何となく8割はわかった。とりあえず、残り2割はテスト勉強なり、復習なりで穴埋めをしよう。


「とりあえず、わかったよ。ありがとね刈谷さん」

「いえいえ、また何かあれば聞いてください」


軽い感謝を送ると、おしとやかなニコッと笑顔で、優しいことを言ってくれた。


やっぱ、刈谷さんは人がいいな。


「それじゃあ、しっかり復習しろよな。なんか、ここの範囲ほぼ全員出来が悪そうだし」


授業が終わる1分前に、先生は軽い苦言を呈し授業を締めくくった。


俺もさすがに今の範囲は、危機感を覚えるくらいには、ヤバいと思う。この調子だと、地獄の赤点補習を喰らいかねない。


「いやー、ほんと刈谷さんありがとね」


そんなことを考えていたら、刈谷さんへの感謝が溢れてきて、授業挨拶をしてからまた刈谷さんに感謝の言葉を送る。


「そんなに、感謝しなくたって。別に、私にできることをやっただけですから」


席替えをして、刈谷さんと隣になったけど、まじで幸運だと思う反面、刈谷さんに申し訳ない気持ちがある。


なんせ、授業の質問を先生ではなく、刈谷さんに聞いて手間を省く方法を使っているから、刈谷さんに頼りきりだし。


「ていうか、刈谷さんいつ勉強してんの?」


俺も一応ではあるけれど、寝る前に少し勉強を積んでいる。さすがに赤点は取りたくないし。それでも、刈谷さんは俺の数段上の位置に立っている。


安直に考えれば、地頭が違うとも言えるけど、多分そこには計り知れない努力があるんだろう。


「勉強ですか……て言っても、そこまではしてないですね。1日1時間程度ですし」


多分時間設定はしてないからか、唇に人差し指を当てて思い出すような感じで時間を言われた。


「1時間でも、十分すごいけどね」


現代の子達は、インターネットの発達による娯楽の多さが足を引っ張って、あまり勉強する人が多くは無い。


かく言う俺も、そんなところだ。趣味として、軽いオタク趣味と呼ばれるものを嗜んでいるのもあって、勉強時間が確保できない。


「そうですかね。私は、それが普通ですから。でも、少し嬉しいですね」


あまり、元からのキレイな笑顔から変化がないから、表情てきに嬉しそうには見えないけど、刈谷さんの声は少しばかり弾んでいる。


「今日は掃除も特にないし、号令」


担任の先生が、帰りのHRで簡単な帰りの注意を促したり、明日のLHRについて話してから号令の指示が出た。


号令が終わると同時に、クラスの空気は一気にガヤガヤとし始め、部活のある人は急いで教室を出ていったり、ない人はゆっくりと荷物整理を初めだした。


「優、帰ろうぜー」


俺が明日の教科を確認しながら、帰りの準備をしていると、高校からの友人、夜梨よりが俺のところまでやってきた。


「ちょいまち、あとこれ入れるだけだから」


明日小テストのある、古文単語集をバッグに入れ、しっかりとチャックを締める。


「よし、OK帰ろうか」


バッグをしっかり背負って、夜梨の方を真っ直ぐみる。


「早く行こうぜ」

「じゃあね、刈谷さん」

「はい、それではまた」


俺と同様に学生鞄の中を整理している刈谷さんに、挨拶をしてから、俺と夜梨は教室を出て昇降口方向へ歩き始めた。


「最近授業中に花がない」

「なんだよ、唐突に」


教室を出てすぐのタイミングで、ため息をついた夜梨が唐突に花がないなどと言い始めた。


ため息をつく夜梨の顔は、言葉の割に無駄に深刻そうだ。


「いやさ、今の俺の席位置思い出してみろよ」

「真ん中だから、別に普通じゃね」


現在の夜梨の席は、真ん中も真ん中ど真ん中の位置にあって、不満っていう不満はなさそうなものだけど。


ちなみに俺は、窓際の左端という最強の席を持っている。


「そこじゃないって、言ったろ花がないって」


またも、ため息をついた夜梨だけど、今回は呆れたような感じのため息に加えて、やれやれみたいな仕草が加わったからか、妙にムカつく。


「俺の席って周りが、全員男の逆ハーレムだろ」

「なるほど、そういう事ね」


たしかに、そう言われると花がないけど。


「つってもしょうがなくね、くじ引きなんだし」

「それはそうだけどさー」


うちのクラスの席替えは、くじ引きを引いて書かれた番号の位置に行くという、完全ランダムになっていて、真面目に夜梨のくじ運が悪かったとしか言いようがない。


「そういうお前は、いいよな隣が刈谷さんで」

「まあ、わからないとこ教えてくれるし、いろいろ助かってるから、当たりだけど」


しかも、隣というおかげで、共通の趣味について気軽に話しかけられるし。


「さすが、校内彼女にしたい人ランキング、優しさ部門2位」

「え、なにそれ」


苦い顔をしている夜梨から出た言葉は、まじで聞き覚えのないランキングの名前だった。


「あれ、知らないのか。ほら、これ」


そう言って夜梨が見せてくれたのは、そこそこしっかりしている校内彼女にしたい人ランキングと書かれた、ホームページ。


「いや、まじ知らないんだけど」

「そうか、じゃあやるよ」


夜梨から、そのサイトのリンクを貰って開いてみると、総合やらMの人向け部門やらとさまざまなものが用意されている。


気になって総合を見て見たけど、現在進行形で協議中らしくランキングは出ていなかった。


まじ何コレ感がすごいけど、気にしないでおこう。


「あ、あいつランキング入ってんじゃん。泣かせて、負けましたと言わせたいランキング……」


最低だよこのランキング。俺も投票しとこ。



「そんじゃ、また明日」

「じゃあなー」


いつもの分かれ道で、夜梨と手を振って別れる。


今日はこの後それといった用事がなかったはずだから、とりあえず推しのVコンビこと黒船の配信を見つつ、軽く勉強をして、寝る。といういつもの日常を送るだけだな。



「母さんおやすみ」


黒船の配信を見て、満足な俺はこの気分のままあとは寝るだけ。睡眠欲的にも、そこそこいい感じだし、今日はいい睡眠が得られるだろう。



薄目で見た感じ寝始めた時よりも、何となく部屋の暗さが増したような気がする。時間はよく分からないけど、とりあえず目が覚めた。


それも、なんでかはわからないけれど、体にのしかかる謎の重さが原因なんだろう。もしや、これが金縛りというやつか。にしても、何故かその重さが移動してるんだけど。


しっかり目を開けたら、幽霊が居るみたいな事だったら嫌だけど、確認しないとだよな。


「おも……い」


俺の上に乗るのは誰だ、と思いつつ投げるよに掛け布団をどかすとそこに居たのは……


「優くん、酷いですよ女の子に重いって言うなんて、私傷つきました」


何故か俺の呼び方が変わった刈谷さん。しかも、少しばかり頬を赤くしてる。


「ななな、なにしてんの刈谷さん!」

「なにって、夜這い……ですかね?」

「ですかねってなに!?」


俺の上に馬乗りになる刈谷さんは、顔が少し赤くなっている以外、今の状況がさも普通のことかのような、反応をしている。


「ただの夜這いですよ、驚きですって優くん」

「驚き過ぎるのもしょうがないでしょ」


ていうか刈谷さん、不法侵入してんだよね。なんで、普通に俺が呼んで、遊びに来たみたいな感じになってるんだ?


「てかそうじゃん、刈谷さんどうやって入ってきたの」


不法侵入したということは、だ何かしらピッキングなり、窓を割るなりして入ったということだ。


「ああ、それならそこの窓が開いてたので」


平常心の刈谷さんが、指さした方向を見ると、たしかに窓がしっかり空いている。


こう見ると、俺バカだなー。すごい嫌気がさしてくる。それはそれとして、窓が開いてたからって入ってくる刈谷さんもどうかと思う。


「じゃ、じゃあなぜこんな行動を?」


こんな、失敗すれば死、レベルのことわざわざ何かしらの方法で、俺の家特定してまですることじゃないと思うんだけど。


「そんなの、決まってるじゃないですか。私が、優くんのことが好きだから」

「は、はぁ!?」


馬乗りになった刈谷さんが、俺の体と刈谷さんの体を合わせて耳元で、好き、と言った。


「お、俺のことを?」

「はい、ILoveYouですね」

「わかった、わかったから、もう言わないで」


急なことで心臓が一気に、動き始めた。そのせいなのかはわからないけど、思考能力が低下してきてる気がする。


「まあ、そういうことなので。やりましょうか」


ニヤリと笑った刈谷さんは、すぐに綺麗な手で俺のズボンを掴んで、引っ張り始めた。


「?……ストップ!ストップ!やめて」


現在思考能力:低のせいで、一瞬鈍ったけど、さすがにこれはまずいのはわかる。ズボンを引っ張る、刈谷さんの手を手首を掴んで引き止める。


「止めないでくださいよ。始めれば、一瞬なんですから!」

「何言ってんの。てか、力つよ!」


下方向に向かう刈谷さんの手を両手で止めてるけど、刈谷さんの腕は止まることはなく、少し遅くなる程度。


別に力に自信があった訳でもないけど、女子に負けるというのは、自信というか、心がすり減る。


「女の子にそれは失礼ですよ」


すごいブーメランが、刈谷さんに刺さってる。ほんと、どっちが失礼なんだ、て話だ。



「や、やっとやめてくれた」


刈谷さんをどうにか、俺から引き剥がして、床の上に座ってもらった。刈谷さんの力に、俺は負けていたのもあってめっちゃ息が上がっている。


「もう少しだったのに」


反省する気がないのか、残念そうに正座で床を見つめる刈谷さん。


「とりあえず、お茶入れるから待ってて」


刈谷さんとの格闘に、使った体力がそこそこ大きくて喉が渇いてきた。不審者にお茶を出すのは謎だけど、とりあえずお茶を入れてこよう。


「はい、麦茶でいい」

「あ、おかまいなく」


コップにお茶を入れて、部屋に戻るとさっきと変わらず正座をしている刈谷さんが居る。


こう見ると異様な光景だ。俺と刈谷さんは、ただの友達、趣味仲間というそこそこの距離感だったのに、窓から差し込む月明かりに照らされた、刈谷さんが俺の部屋にいると居るというのは。


「とりあえず、お茶飲んだら帰って。送ってあげるから」

「添い寝イベントじゃないんですか!?」

「なわけないでしょ」


そんな、あたりまえみたいな感じで言われても。てか、またまたー、みたいな顔をしないで。


「そこそこ涼しいね」


明らか高校生が外に出ると、補導される時間に外に出ると、外は風が少しではあるけれど吹いていて、夏にしては涼しい。


「そうですね、風情のある気温って感じですね」

「そう?」

「月明かり、街頭のないくらい通り風情ありませんか?」

「そう言われると」


歩かないと聞かれると、あるかもしれないけど。それを読みといた結果、夜這いしに来た不法侵入者の女の子が出てくるのは、なんなんだ。


「てか、刈谷さんもう不法侵入しないでよ。普通に来てくれれば、あげるかもだし」

「つまり、夜這いはいいと?」

「違うに決まってんじゃん」


なぜそうなるんだ、しかも人を呼ぶ時間帯って、高校生は夜なんて、そんなないから昼這いちゅうばいになるし。


「そもそも、として優くんもどうかと思いますけどね」

「なにが」

「窓を不用心に開けとくなんて」

「それはまあ、ね」

「逃げました?」


そういうのは、気をつければいいだけだし。あと、結果的に不審者が来なければ、いいだけの話だから気にする必要は……ない、ないそうない!決して現実逃避では無い。


「まあ、私にとっては好機なので、別に構いませんけど」

「好機か」


つまり、窓を閉めればその好機を潰せると、気をつけよ。



「それでは、優くんまた明日」

「じゃあね、刈谷さん」


俺の家からそこそこ歩いたところに、刈谷さんの家はあった。あの距離を、1人で帰るのは面倒この上ない。


「優くん、はい」

「なに?」


玄関扉の前に立った刈谷さんが、期待の眼差しと共に手を広げて待っている。


「お別れの、ハグしません」

「やんないよ」


もう、心臓が一気に動くのはごめんだし。


「そうですか、ならty」

「それも、やんない!じゃ、俺帰るから」


なんで、刈谷さんはああも簡単にそういうのが言えるのかわかんない。そういうのって、普通緊張持っていうやつなのに。一応、俺好きな人なんだよね?


「ん?あ!刈谷さんに、聞きそびれた俺を好きになっまた理由」


まだ、理由はいいかもだけど、1番の問題は告白だけ聞いて、答えが保留になってる事だ。


て言っても、刈谷さん自信答え求めてる感じなかったし、とりあえずはいいか。


そう心に言い聞かせて、俺は家の方向に足音を立てずに、向かっていく。

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