第1.5話 刈谷さんの気持ち

刈谷は小さい頃から、真面目で優しいそれでいて可愛いと言う健全な男子の好みそのまま、みたいな性格をしていた。


そのため刈谷は、告白された回数は多い方だと思われる。高校に入るまでの告白を受けた回数は約12回。1年に1回告白されたまに2回告白される位の計算になる。


けれども刈谷は、生まれてこの方恋なんてことはしたこと無かった。もちろん、父と結婚するという、小さい子特有の願いはあったかもしれないが、しっかりとした恋を経験したことは無かった。


正確に言うのであれば、刈谷が好きになる人が現れなかったと言える。


そのため今までの告白は、全て断ってきていた。


時は遡って中学3年生卒業式当日。刈谷は、3年間1緒だった少し仲のいい男子に呼び出されていた。


「刈谷さん、3年間ありがとね」

「うん、私こそ3年間お疲れ様」

「それで、俺が急に呼び出した理由なんだけと」


そういうと男の子は、少し緊張を含んだ顔で深呼吸をし、気を引きしめる。


「刈谷さん俺達高校違うでしょ」

「そうですね」

「だから、俺達もうほとんど会うことが無くなるわけで…」


言いたいことをいえずに、遠回り気味に話が進んでいく。本人もそれに気づいたのか、再度気を入れ直して刈谷を真っ直ぐ見る。


「俺、刈谷さんにこの先ずっと会えないのは、嫌なんだ。だから、刈谷さんと卒業した後も会いたい。俺と付き合ってください!」


言いたいことを全て言いきったのか、男の子の体は先程まで強ばっていたのに、今は少し脱力している。


「え、えっとー。まず告白はありがとうございます。でも、私まだそう言うのはちょっと…だからごめんなさい」


真面目な刈谷は、された告白に紳士に答えるため言葉を選びながら返答をする。


「そうか、ありがとね」

「いえ、こちらこそ…」


精一杯告白してくれたのにと思い、男の子に対してとても申し訳ないような気持ちが心の中に生まれる刈谷。


「とりあえず、ありがとね聞いてくれて。じゃ、またどこかで会ったら」


そう言って去っていく男の子の目には、涙が出ているものの、顔はやりきったような満足気な笑顔だった。


そんな刈谷にとって梶谷優と言う男は最初、ただの隣の席の人だった。


ペアワークの時に話し、時々落としたものを渡したりするくらいの関係。

変わったのは、夜這いからほんの1ヶ月前。


「あの、梶谷さん。梶谷さんのバックに付いてるそのキーホルダーって…」

「あーこれ?黒船って言うVTuberコンビの汽船たかみのキーホルダー」


それは些細な疑問だった、刈谷がたまたま見つけた優のバックにぶら下がる汽船たかみのキーホルダー。


「好きなんですか?」

「まあ、それぞれ単体でも好きだし。2人一緒だとなおいいって感じかな。でもなんで急に?」

「実は私も好きなんです黒船。毎週やってる恋愛相談配信は、欠かさずリアタイしてるくらいには」


この日から2人は、時々ではあるものの黒船について語り合うようになった。


「結成初期とか凄く面白いんだよね。あのぎこちなさとか、今じゃ考えられないって言うか」

「たしかに、今は完全に親友とかそれ以上のレベルですもんね」


(なんだか最近梶谷さんと話してると楽しいけど、なんだか胸の辺りがざわつくような)


刈谷は、しばらくそんな不安のようなものを抱えて過ごしていた。


時は経ち夜這いをした日から1週間前、刈谷はとりあえず黒船にこの感情について相談を送ってみた。


「それじゃあお次の相談は相談はこちら。ユーザーネーム匿名ネギさん(最近、前は何ともなかった共通の趣味を持った男の子と話していると、胸の辺りがざわついて仕方がないんですがこれは、どう言ったものなのでしょうか)」


刈谷の初めて送った相談は早速、採用された。


「お〜なんか思春期特有!みたいなの来たな」

「確かに、なんかうぶな匂いがしますな。でも、これはわかりやすいね」

「だね、答えは簡単」

「「恋」」


2人が同時に同じ答えを出した。


「これは恋です。ぜったいに恋です。黒船から太鼓判を押してあげましょう」

「まあ、この気持ちをどうにかするのは匿名ねぎさんだから、僕達からは恋と言える証明をあげるくらいですけど」


その背信あって刈谷は自覚した今の自分の持っているものが、というものだと。そして、これが刈谷にとっての初恋だった。



(へー好きな人にはグイグイ行くのが普通…)


そこから刈谷は思いを抱えたまま、恋という超難問を勉強した。間違っていたのは、恋の教科書代わりとして、兄の持っていた夜這いが含まれるR18系の漫画で勉強したとこだろう。

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