第4話 見てない夢

 アラームで目を覚ました俺は相変わらず最悪の気分だった。

 今日また人が事故に遭う現場を目撃してしまうのかな、いやただの夢だ、偶然が重なっただけ、よくある事故がたまたま俺の近くで頻発しただけだ。

 引きずるように部屋を出て電車に乗る。


「……あれ?」


 なんだよ、この二日間は連続で事故を見たのに、今日は何も起こらず会社に着いた。

 いや事故が無いのは良い事だよ、わざわざ会社へのルートを変更したのに事故を目撃したら、俺は何やってんだって感じだし。

 今日は何事も無く会社に着いたので、課長に何も言われないだろうと思っていたけど、課長ではなく恭平きょうへいが獲物を見つけたような目で俺のデスクの横に座る。


「よっ色男。昨晩はお楽しみでしたか?」


「昨晩? ああそうだな、飲みに行くのは久しぶりだったけど、楽しかったよ」


「違うだろ、御堂さんと楽しそうにしてたじゃないか」


 あーそういう……俺は酒を飲んだ御堂さんを思い出し、確かに楽しかった。

 酒に酔った勢いでうららと呼ぶように言われたけど、流石に酒の席だけの冗談だろうし。

 と、噂をすれば御堂さんが入ってきた。


「あ、せ、先輩……その、おっ、おはようございます!!」


「おはよう御堂さん」


「おはよう御堂さん。おっと、邪魔者は消えるとするかな」


 そう言って恭平きょうへいは手を振って自分のデスクに戻った。

 なんだよ邪魔者って、一緒に飲んだ仲じゃないか。


「あの、せ、先輩? 名前……」


「名前? 碧山あおやま守衛まもるです」


「先輩のフルネームじゃなくって! その、うららって、呼んでくれないんですか?」


 コーヒー吹きそうになった。飲んでないけど。


「昨日の話? その、酒の席だと思ってたんだけど、名前で呼んだ方がいい?」


「はい! お願いします!」


「じゃあうららさん、俺の事も守衛まもるでいいよ」


「いえ、先輩は先輩なので」


「え? あ、そう?」


 こういうのってお互いに名前で呼び合うモノだと思ってたけど、どうやら漫画やアニメの世界だけだったようだ。

 って、なんだ? 何人かが俺を睨みつけているんだけど?

 昼の時間になった。

 よし、メシめし、お昼だー!


恭平きょうへい、メシ……あれ、どこいった」


「先輩、津々浦つつうら先輩なら用事があるって昼前に出て行きましたよ」


「そうなんだ。じゃあ昼はひとり――」


「先輩、お昼をご一緒してもいいですか?」


「うんいいよ。うららさんは食べたいものある?」


「ランチが美味しいっていうお店があるので、そこに行きませんか?」


「じゃあそこに行こうか」


 うららさんと一緒に入ったお店はOLが沢山いる店だった。

 うおっ、なんかオシャレな店だ、お、俺が入ってもいいのか?

 ドキドキしながら席に座ると、うららさんが手際よく注文をしてくれた。

 ランチメニューは日替わりだし何も決める事は無いから早い。


「ふー、美味しかったね」


「ご馳走様です先輩」


「いやいや、先輩としては後輩の昼くらいおごるよ」


「えへへ、じゃあ毎日ご馳走してもらおうかな~、なーんて」


 うおっ、上目遣いのうららさんの攻撃力高い!

 思わず二つ返事でOKしてしまいそうになったけど、その前にうららさんが口を開く。


「流石にずっとご馳走してもらうわけにはいきませんから、交代で払いませんか? 明日は私が払いますよ?」


「そう? じゃあ交代にしようか」


「やった」


 凄く喜んでる。

 あれ? 明日からは毎日うららさんとお昼を食べるのか? それは……嬉しいかも。

 そんな事を考えながらおしゃべりして会社に戻っている途中、ブレーキ音が鳴り響いた。


「きゃっ」


「うわっ、なんだ? 事故か?」


 音の方を見ると大きなトラックが蛇行運転しており、周囲の車にぶつかりながら暴走しているのが見えた。

 運転手は何やってんだ!? って眠ってる!! こっちに向かってくる!?

 急いでうららさんの腕を引いて建物側に避難するけど、トラックはそのまま大きな音を立てて電信柱に衝突し、荷台に乗せてあった鉄筋の束がほどけてしまう。トラックの衝突とほどけた勢いはすさまじく、弾いたようにあちこちに鉄筋が飛び散り俺の目の前にいた五人グループめがけて飛んできた。


「あ、危ない!」


 手を伸ばすが間に合うはずも無く五人の体には何本もの鉄筋が突き刺さってしまい、鉄筋の重みで崩れるように倒れ込む。

 一瞬の静寂の後、あちこちから悲鳴があがり周囲は野次馬で埋め尽くされた。

 俺ははっとしてうららさんを見るが、うららさんは真っ青な顔で震え立ちすくんでいる。

 慌てて現場を離れうららさんを座らせるも体調は戻らず、怪我人は続々と現れた救急車に乗って病院へと運ばれていった。


 事故を目撃したことを会社に報告し、うららさんは早退という扱いになった。

 これはひょっとしなくても俺のせいなのか……俺と一緒に居たからあんな事故が起きたのか?

 俺があんな夢を見たから事故が起きたのか?

 もんもんとしながら午後の仕事を終え、帰りにうららさんの様子を見に病院に行ったけど、すでに自宅に帰ったそうだ。

 トラウマとかにはなってない様だけど、しばらく経過観察するとか。


『んで、今日は随分と遅くまで狩りしてるんだな』


「ああ、明日は休みだからな、朝まで狩り続けるなりよ」


 WCOで悪友とチャットしているが今はすでに午前三時、普段ならとっくに寝ている時間だ。

 

『平日休みとは……怪しい仕事だな!』


「ふっふっふ、それを知ってどうするつもりかね?」


『悪党は俺が許さない!』


「はっはっはっは、君の手が届かぬ組織だ、深入りすると後悔する事になるであろう」

 

『おのれジャグラーめ!』


「なに⁉ 貴様どうしてその名を!」


 という具合に、大型の熊型モンスターを狩りながらチャットをしているが、もちろんただの遊びだ。

 なんだよジャグラーって、曲芸師か? スロットか?

 必死に眠気を我慢してゲームに没頭するが、流石に六時になるころには相棒が落ちてしまい、クランハウスに連れ帰ってゲームを終了した。


「さて、少し早いけど会社に行く準備をするか」


 悪友に休みと言ったのはウソだ。

 眠らなければ夢は見ないから事故に遭遇する事もない、とはいえ……眠い……エナジードリングとコーヒーをがぶ飲みし過ぎたせいかトイレが近いし、目が開いてるのに寝てるように意識がおぼろげだ。

 でもこれで事故は発生しないだろう。

 電車で眠りそうになるのを我慢して、ふら付きながら会社に到着した。

 今の所大丈夫だな、そういえばうららさんは来てるのかな? 流石に昨日の今日だし休みかもしれない。


「おはようさん、って、なんだお前、まさか今朝も事故を目撃したのか?」


恭平きょうへいか……いや今日は見てないよ」


「なんか今にも死にそうな顔してるぞ。事故に遭った日よりも酷い顔だ」


「んー? 大丈夫だよ。それよりうららさんは?」


御堂みどうさんなら休みだよ。流石に女の子に凄惨な事故現場はキツイだろう」


「だよな。いや俺も繊細な男の子だぞ?」


「三日連続で事故現場を見ても会社に来るやつが、何言ってるやら」


「はっはっは、それも今日で終わりさ。今日は何も起こらないはず」


「流石に四日連続は勘弁してくれ。同僚がどんどん倒れていくのを見る俺の身にもなれ」


 そういえばそうか、見た本人はもちろん周囲への影響もあるからな、これ以上続くのは何としても阻止しないと。

 昼が過ぎ、午後の仕事をこなし、何とか眠る事なく一日が終わろうとしている。

 やっぱり夢を見なければ事故は起きないのか? そう思いながら俺はコーヒーのお代わりを入れようと給湯室へ向かう。

 部屋を出て廊下を歩いていると、窓の外から何かが見えた。

 あれは? ああ、お向かいさんが窓を開けようとしてるけど、硬くて開きにくいのか、あ、開いた、って網戸!

 勢いよく開いた窓の衝撃で網戸が外れ落下していく。

 まさか!

 ここはビルの六階、おれは窓を開けて下を見ると掃除をしている数名の社員が目に入る。


「あぶな――」


 叫ぶ前に網戸は一人の頭に直撃し地面に倒れ込む。

 頭から大量の血を流しながら。



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