第3話 夢なら覚めないで

 昨日に引き続き午前中は会社の医務室のベッドで休んでいる。

 ああ、なんだって二日連続で人がし……大変な目に遭う所を目撃しなきゃならないんだよ。

 それにあの夢、WCOに似てるからって喜んでたけど、何で予知夢みたいなことやってんだ。

 あ~いや違う、ただの偶然だ、きっと似たような状況が続いただけだ。

 だって事故なんて毎日どこかで起きてるんだし、高所作業員が落ちたら地面に叩きつけられるし、車に轢かれたらああなるのは同じなんだ。


「そう、よくある状況が偶然目の前で起きただけ。正夢とか予知夢とかそんな大層なモノのはずがないさ」


 そう言いながらも俺はシーツを顔までかぶった。

 そもそも俺はグロ耐性ないんだよ、血を見るのすら嫌なんだからな? ホラー映画なんてもっての外、人が死ぬシーンがあるだけで自分が死んだような気がしてサスペンスものですら見れないんだから。

 じゃあゲームはどうなんだって? ゲームはゲームだ、人が演じている訳でもないし敵を倒しても血が出ない。

 でも血がブシャー! って格闘ゲームは無理。

 最近のCGを駆使したリアルすぎるゲームもダメな奴が多い。


「WCOは背景もキャラもアニメ調CGだ、血も出ないから俺向けなんだよな」


 はぁ、落ち着かない、思い出すと気持ち悪い、何で俺ばっかりこんな目に。

 午後から仕事に戻ったけど、恭介きょうすけ御堂みどうさんがとても心配していた。

 人に迷惑ばっかりかけてるな俺。


碧山あおやま、課長がお呼びだぞ」


 昼の仕事を始めてしばらくすると同じ課の人から言われ、課長のデスクを見る。

 課長は指で俺を呼ぶと立ち上がり会議室へと入って行った。

 マジかぁ、なんだよ、二日間医務室に居たのは俺のせいじゃないぞ?


碧山あおやま、お前が悪いとは言わんがもう少し仕事に集中できないか」


「も、申し訳ありません」


「大体二日連続で事故を目撃したのだって本当なのかもわからないからな、誰かに事故があった事を聞いてその場にいたとか言って休んでると思ってる者もいるんだ」


「そ、そんな事は……本当に……その場に……」


「ほらそのオドオドした態度! お前はもう中堅社員なんだぞ? それがいつまで人との会話が苦手で済むと思っているんだ!」


「す、すみません」


 そう、俺は人との会話が苦手だ。

 恭介は同期で何年も一緒にいるし、御堂さんは仕事を教えた事もあって普通に話が出来る。

 でもそれ以外の人とはまだ苦手だ。

 まぁ、だから仕事を押し付けられて残業が増えるんだけど。

 その後も今回の事とは関係ない事ばかりを責め立てられて、事故を目撃した以上にダメージを負ってしまった。


「だ、大丈夫か守衛まもる


「先輩、ココアをどうぞ、少しは落ち着きますよ」


「ありがとう二人とも」


 机に戻って来た俺を二人は優しく迎えてくれた。

 俺、この二人がいなかったら絶対に会社を辞めてると思う。

 恭介はイケメンだし御堂さんは可愛いし、見てるだけで癒される。

 俺? 俺は小太りで目立たない男さ、はっはっはっは、はぁ。

 

 今日は昨日以上に落ち込んだ状態で仕事をしていたら、恭平きょうへいと御堂さん以外の人も気にかけてくれて、定時に上がれることになった。

 しかも珍しく俺の同期数名と御堂さんの同期数名で飲みに行く事になった。

 知ってるか? 御堂さんの同期は当たり年でみんな美人なんだぜ。

 

「しぇ~んぱいぃ~? 飲んでましゅか~?」


「う、うん飲んでるからそそがないでね」


 居酒屋の座敷でわいわい飲んでいると酔っ払った御堂さんが肩を組んで来た。

 うおっ、酔ってても可愛いな御堂さんは。


「ビール片手にオッサンと肩を組む美女か、面白いコンビだな」


恭平きょうへいは見てないで何とかしてくれ、ほら御堂さん、ああっ、徳利とっくりから直に飲まないの、おちょこに入れて、ね?」


 そういえば思い出した、御堂さんはお酒が大好きなんだった。

 新人歓迎会の時も飲んで俺に絡んできてたな。


「みどうさん~? 違うでしょ! うらら、うーらーらー」


「う、うららさん? まずはジョッキをテーブルに置いて、そうそう、ん? 徳利を持ってどうし……ああ、おちょこに入れて欲しいの? わかった」


 御堂さんから徳利を受け取って御堂さんがもつおちょこに日本酒を注ぐ。

 でも肩を組んだまま。

 ま、まずい、胸が腕に当たってる! い、意外と大きい……じゃない! 安心しろ俺、俺が女の人に好かれる事なんてないんだ、俺に好意があるなんて勘違いはしないぞ!


「うっわー、うららってお酒飲んだらこんなに素直になるんですね」


 御堂さんの同期の女子社員が俺と御堂さんを見てニヤけてる。

 そんなこと思ってるのは君だけだよ! と思ったら他の女子社員もニヤけている。

 それに比例するように集まる男子社員の嫉妬の目。

 ぐ、俺だって、俺だってこんなかわいい彼女がいたら嬉しいよ! 俺が頼りないから構ってくれてるだけなんだよ!


 内心ヒヤヒヤしながら飲んでいたけれど、それ以外は何も考えずに上司の悪口を言い合ってとても楽しめた。

 たまにはみんなで飲みに行くのも悪くない。

 終電に乗って家に着くと日を跨いでいた。

 ん……流石に今日はゲームは……ログインだけしとこ。


『なんだ、今日は遅いな。お前の葬式でもあったのか?』


「そうそう、お前の葬式があったからな、みんなでバカ騒ぎしてた」


『そうか、惜しいやつを無くしたな』


「うむ、いつか犯罪に手を染めると思っていたからな」


『なんだとう⁉』


「文句でもあんのかゴルァ」


 といういつもの罵倒から始まり、いつもなら狩りに行くところだが今日は俺の意識が限界だ。

 なので「カラバ宇宙戦艦ノーチラス号」といって落ちた。

 チャットの最後に『せめて「さらば」くらい残せ』と書いてあったが無視して寝た。


 朝日が眩しくて目を覚ますと、二度あることは三度ある、WCOの世界の宿が目に入ってきた。

 

「……勘弁してくれ……どうせ夢なんだから今日は何もしなくていいや」


 と言いながらも俺は自然と装備一式を装着していた。


「クッ……ゲーマー魂が俺の意志を上書きしていく!」


 さて昨日は森狼を狩ってスキルレベルを3まで上げたから、今日は装備を新調する必要がある。

 ブーストタイムの雫を飲みに行くのが前提だけど、森狼ではもうレベルは上がらない。

 次の獲物は今の装備では弱点をついても倒せないだろう。

 かねは昨日の森狼の依頼分で足りるはずだ。

 武器屋で鋼の剣と革鎧を新調し、沼地に生息するスライムの討伐依頼を受けた。

 本来ならウッド級の依頼ではなくアイアン級の依頼だが、WCOでは階級による依頼の制限がない。

 失敗したらそれは自分が未熟だから、で終わりだ。信頼と共に。

 なので上級者はを知っているので上の依頼を平気で受けている。


「さてっと、後は沼地に行ってスライムを狩るだけだな」


 俺は昨日と同じ山が無い方の出口から街を出ると、木の樹洞うろに入り木の根から垂れる雫を飲んでブースト経験値倍に入る。

 大急ぎで沼へ向かうと、どろどろの灰色の沼地が見えてきた。

 スライムといってもヘドロに近く匂いもキツイため、作業は手早く済ませたいところだ。

 まずは沼に石を投げ込むと、石に当たったスライムが沼から出て来るので、そいつにもう一度石を当てる。

 スライムは俺を敵と認定して追いかけて来るが足が遅いので、俺は沼から十歩ほど離れたところで剣を地面に突き刺して剣から離れて立っている。


 スライムは地面を焦がしながら移動し、剣に体が触れるとそのまま前進をしてコアごと真っ二つに切れてしまう。

 沼のスライムは特殊な液体で植物や動物を溶かして捕食するのだが、鋼は溶かすことが出来ないので容易に倒すことが出来る。

 とは言ってもランクが高い依頼なのには理由があり、スライムを挑発した後であまり遠くまで離れてしまうと、とても鋭利なトゲを何十メートルも伸ばして刺してくる。


 スライムの体は精々五十センチメートル程なのに、何故か何十メートルも体を鋭利化させて伸ばすことが出来るのだ。

 このトゲは異様に硬く鋼の鎧でさえ貫通してしまう威力がある。

 なのでランクが高く設定されているのだ。


「知ってればただの経験値なんだけど」


 何度か繰り返していると他の冒険者が現れた。

 俺はすでにニ十匹以上狩っており、剣士のスキルレベルも4になったので十分だろう、ブースト時間も切れるからこの場所を明け渡すとしよう。

 軽く会釈をして五人の冒険者に場所を譲り、俺は離れたところで休憩を取っていた。

 同じような狩り方をするのかと見ていると、石を大量に沼に投げ込んでいるのが見えた。


「え? そんなにたくさん出すの?」


 最初は接近戦で順番に沼スライムを倒していたが、なにせ大量に出てきたため手が回らなくなってきた。

 一人の足に沼スライムが上り始め素足に接触してしまった。


「ぐああああ!! 撤退だ、撤退しろ!」


 火傷した足に付いているスライムを払い落とし一目散にこちらに向けて走ってくる五人。

 え? ちょっと待て! それ以上離れると……!!


「危ない!」


 俺は腕を広げて五人をタックルで押し倒そうとするが一瞬間に合わなかった。

 スライムの長く伸びたトゲが何本も五人の体を貫き、体の力が抜けて腕や首がだらりと垂れ下がると、トゲが縮んで五人は地面に崩れ落ちた。

 スライムはすでに沼に戻ったのか見当たらない、目の前で五人の冒険者が死んだのを見て俺は。


「狩り方も知らないのに挑むからだ」


 それだけ言ってその場を立ち去った。

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