足音ふたつ

武藤勇城

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足音ふたつ

 日本の冬は、乾燥して気温が下がります。2024年12月21日に冬至を過ぎ、これから少しずつ日が伸びますが、1月から2月にかけてまだまだ寒い日が続くでしょう。これはそんな寒さが厳しくなる年末、ある朝に体験した実話です。


 年末年始はゴミの収集が休みになります。その前に捨てられる物は捨てておこう、とは誰もが考えるところでしょう。ゴミ収集カレンダーを眺めつつ、大掃除をした人も多いかも知れませんね。自分の住んでいる地域は、毎週月曜日が燃えるゴミの日。徒歩数分のところに設置されているゴミ集積所に持って行きます。週末の土曜・日曜日は海外サッカーの試合が多く、自分はよくネット観戦しますので、試合が終わって朝早い時間にゴミ出しをします。

 ゴミ出しのルールで、夜のうちに捨ててはいけません、というものがあります。前日の夜に出してしまうと、ネズミやカラスなど小動物が荒らす可能性がありますし、誰からも嫌われる黒い虫も発生しやすくなるからでしょう。その一方で、朝8時までに出しておくように、とも決められています。実際にはゴミ収集車が来る前であれば何時でも大丈夫ですが、一応早めに出しておく方が無難だと思います。この「夜」と「早朝」の境目というのは、「実際何時なのか?」と問われたら難しいのですが、日が昇る頃合いが「早朝」で、まだまだ日が昇らない丑三つ時だと「深夜」になるでしょうか。時間で言うなら、2時3時は「夜」にあたり、4時5時になれば「早朝」にあたるかな、というのが自分の考えです。

 その日も早朝、海外サッカー観戦をした後、時間にして4時から5時の間だったと思いますが、ゴミをまとめてゴミ出しに向かいました。夏ならば明るくなってくる頃合いですが、冬至付近の一番日が短い時期です。まだまだ外は真っ暗で、街灯の灯りが頼りです。寝巻の上からダウンジャケットを羽織り、帽子を被っていましたが、厳しい寒さに身体を縮こまらせ、手を擦りながら向かいました。集積所にゴミを置き、家まで戻っていた時です。違和感に気付きました。


――ぺちゃ、ぺちゃ。


 アスファルトを運動靴で歩いていました。自分の足音は、そこまで響いてはいません。コツコツとか、トコトコと表現するような、微かな音、自然な音がします。その足音に交じって。


――ぴちゃ、ぴちゃ。


 そんな音がするんです。何だろうと思って後ろを振り返っても、当たり前ですが何もありません。自分が止まると、その音も止まります。また歩き出すと、同じ音が聞こえます。自分の足音ではない、明らかに何か別の、しかし何かは分からない音です。それも、すぐ近くで聞こえるんです。まるで自分の真下から聞こえてくるような。ですが自分の足音ではないんです。


――ぺちゃ、ぴちゃ。


 一歩歩けば一歩分、二歩歩けば二回。その音は、自分の足元、すぐ傍で聞こえました。水に濡れた裸足の足音、という表現が一番近い気がしますが、必ずしもそうとは思えない、なんとも形容しがたい音です。乾燥した日本の冬ですので、雨や雪は降っておらず、路面が濡れていたという事実もなく、当然ながら水溜まり一つありません。


――ぱちん、かちん。


 固形物がアスファルトに当たるような、小石が転がるような、そんな音も混じっていました。アスファルトの道から家の目の前にある駐車場、石と砂利が敷き詰められた場所に戻って来ました。自分自身がそこを歩くジャリ、ジャリという音に変わった後は、その不思議な足音が消えました。家のドアの前で、もう一度後ろを振り返ってみましたが、不審なものは何もありませんでした。


 あの音は、一体何だったのでしょう。あの朝、ただ一度きりの不思議な体験談です。

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