光と闇(前編)
――俺は喧嘩が嫌いだ。
暴言を言うのも言われるのも嫌いだし、暴力なんてもってのほかだ。
だから、俺は魔物と戦うということも嫌いだった。
アカツキを守るという大義名分があり、こちらが何もしなければ魔物が人々を傷つけるとわかっていても、「戦う」という行為にどうしても良い印象を持つことができない。
わかってる、それは俺が臆病だからだ。
自分の身や気持ちを犠牲にしてまで誰かを守る覚悟がない。
魔法少女の皆が当たり前のように持っているそれを、俺は持っていなかった。
だが、マホと関わる中でそうは言っていられないことが多かった。
だから――
***
「さすがだな、お前ら」
俺はキワミの相棒のドラゴンー――ドグマムートの背に乗っていた。
そばにはキワミとタマネがいる。
二人の協力を得て、俺は戦場にたどり着いた。
もう夜という時間なのに、この場所だけ局所的に陽光がさしている。
――これはタマネの異能によるものだ。
彼女の能力――『口にした言葉に応じた現象を具現化または変化させる』異能は、その発動範囲や規模に限界があるが、それでも自由度は他の異能の中でも随一である。
また、キワミのドグマムートが放った一撃も強烈であった。
超大型モンスター――ラグナ・オーガに向かって放たれたブレスは、紫色の雲を真っ二つに裂き、大規模な爆発を引き起こしていた。
さらにラッキーなことに、ラグナ・オーガの近くにいたディーヴァを巻き込んでいた。一撃で死ぬとは思えないが、しばらくは動けないだろう。
「キワミ、タマネ。お前たちは小型モンスターの相手を頼む。その間に、俺は『リトルウィザード』と話してくる」
眼下には荒れ果てた街が広がっている。
そして、隊員たちがマホを中心に集まっていた。
二人が頷くのを確認し、俺はドグマムートから飛び降りる。
――身体が一瞬、無重力に包まれる。
空気が耳元で唸り、風圧が肌を裂くように叩きつける。
落下速度が増し、視界がブレる。
地面がどんどん近づく。
……うぉー、風やば。これは死ねる。
超高度からの落下。
そして、轟音とともに着地した。
地面が僅かに揺れ、足元に小さなクレーターができる。
砂煙が舞い上がり、視界が遮られる中、俺は膝をつくこともなく静かに立ち上がった。
「アオハル!?」
マホの声が聞こえる。
砂煙が晴れていくと、そこには懐かしい顔ぶれがあった。
「久しぶりだな、お前ら」
俺は立ち上がると彼女たちに手を振った。
「アオハル様!」
「来てくれたんですね……!」
「あぁ……っ」
皆それぞれ俺を迎えてくれる。
嬉しそうだったり、少し複雑そうな顔をしていたり、それから……え、なんで泣いてるやつもいるの?
まぁ、自分の力が封じられている中、あんな化け物と戦うことになったらそりゃビビるよな。俺もおしっこちびるわ。
「アンタ……あの高さから降りて大丈夫なの?」
「ああ、頑丈だからな」
「いや、頑丈で済むような高さじゃないでしょ」
無論、『無限防御』のおかげである。
普通の人間があの高度から落下したら、ぺちゃんこになるのは間違いなしだが、俺の場合は『無限防御』があるから無傷だ。
なお、自分でもこの能力がどういうものなのか理解していないので、説明できない。
《少しは理解を頑張ってくれませんか?》
直感的にはわかってるんだけど、言語化できないんだよね。
まぁ、どうせコッコさんがコントロールしてくれるし大丈夫でしょ。
そんなことを考えていると、不意に別の声が響いた。
「――アオハル様! 隊長!」
その声に振り向くと、黒髪の少女がこちらへ走ってくるのが見えた。
てか、セラじゃん。久しぶりだなぁ。
すると、その後ろから二つの影が俺にとびかかってきた。
「お兄様!」
「お兄ちゃんっ!」
俺は咄嗟に受け止める。
その正体はわが妹のマナとミアだった。
二人とも涙目で俺の顔を見上げる。
「お兄様、来てくれて本当にありがとうございますっ!」
「おにいちゃんおにいちゃんっ…………あっ! く、クソ兄貴! 来るのが遅いわよっ、このバカ!」
ミアが俺の顔面にパンチを入れてくる。
このクソ妹かわいくねえ。
「――ミアちゃん? お兄様に何をやってるの? 殺されたいの?」
「ひ、ひぃ!? ごめんなさい許してください! 助けてお兄ちゃん!」
睨みつけるマナと、逃げようとするミアが何やら元気に騒いでいる。
てか二人とも耳元でうるせえ。喧嘩ならよそでやってくれ。
セラに目線を送ると、彼女は困ったように笑ってマナとミアを引きはがしてくれた。
そうして気づけば、俺の周りには隊員たちが集まっていた。
俺は一人一人の顔を見回しながら、最後にマホへと視線を向けた。
「マホ。お前は大丈夫か、その傷」
マホは左腕をおさえていた。
制服越しでも分かるほどに血で染まり、制服そのものもボロボロになっている。
マホの服はおそらく、俺に送ってくれたものと同じ特殊素材のものだろう。
それがここまで傷ついているということは、相当な戦闘があったということなんだろう。
「ええ、心配いらないわ。それよりも……」
マホは俺の顔をじっと見つめる。
その視線には、驚きと戸惑い、そして――その奥に、言葉にできないほどの深い思いが込められていた。
「どうしてここに来たのよ? 私はアンタを……」
「『巻き込みたくない』だろ? そう、つれないことを言うなよ」
「……!」
ここに来たということは、もう後戻りはできない。
戦いの渦中に踏み込んだ以上、最後まで付き合うしかない。
――でも、それでいい。
「今まで散々一緒にやってきたじゃねえか。最後まで付き合うよ」
マホは眼を見開き、顔を俯かせる。
「……これがラストチャンスだったのに……これ以上深入りしたら絶対に逃げられないわよ」
「だとしたらここが俺のいる場所だ。手放すつもりは毛頭ないさ」
俺はそう言って周囲を見渡す。
隊員たちは皆涙を流していた。……あ、あれ? そんなに嫌だった? でも許してね。
ふと、マホの方に視線を戻す。
彼女はまだ俯いたまま、かすかに肩を震わせていた。
しばらくして、そっと顔を上げる。
――目端に小粒の涙を溜めながら、それでも微かに笑っていた。
溢れる感情を抑えきれないように、涙混じりの微笑みがふわりとこぼれる。
安堵と、温もりと、何かが解けたような静かな輝きが、その表情に宿っていた。
マホは手の甲でそっと涙を拭い、息を整えるように言った。
「……ふふ、バカね」
「それはお互い様だろう」
俺も笑い返す。
疑心暗鬼になりそうな状況の中、こんなバカな男を信頼してくれた奴が言えたことじゃねえよ……いやマジで。
もう少し信用する相手を選んだほうがいいね。
そんな俺たちのやり取りを見て、隊員たちの間にも少しだけ笑みが広がった。
誰もが、この一瞬の穏やかな空気を噛みしめていた。
――だが、それも束の間。
マホはふっと表情を引き締め、鋭い視線を俺に向ける。
その瞬間、周囲の空気が変わるのを感じた。彼女の眼差しには迷いがない。
「さて、どうしますか――」
そして、挑戦的な笑みを浮かべて言った。
「防衛省魔物災害対策本部国家特務機関セイクリッド魔法少女部隊――『特別参謀』現実アオハルさん?」
超現実アナザー・ワールド ~異世界でもぼっちはぼっちだった件~ 蛮野ゲリラ @banno_guerrilla
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