トリプル・サン・イン・ザ・ヘヴン

百二十年前、全世界を巻き込んだ「大戦争」が終結した。
勝者たちは新たな秩序を築き、すべての国家に主権の一部放棄を求めた。

――ただ一国、それに応じなかった国がある。

列島の国「神国」は、参加を拒み、交渉を拒み、そして「拒否する」という意思すら示さなかった。

新秩序は経済制裁と貿易封鎖をもって圧力を加えたが、
神国は国門を閉ざし、技術交流を断ち、独自の文明を築く道を選んだ。
そこにあるのは、半導体も、内燃機関も、化石燃料も存在しない、
蒸気機関と真空管のみで再構築された「異構文明」。

そして何より異様なのは、
この国が古代神秘学を制度化し、「国家神秘学」を信仰の中枢とした、閉鎖的な社会を築き上げたことだった。

――それから百二十年、世界はこの国を「理解不能の異国」と呼ぶようになった。…続きを読む