サタンルパンの一族とその娘

第1話 サタンルパン 〜トーマスの書記より〜

 今、世界を恐怖のどん底に陥れている怪盗サタンルパンを知らないものはいない。彼は古くから続く、アルセーヌ・ルパン一族のしきたりを守り続けている人間である。長年、世界中が忘れ、消えかけていたルパンの存在を復活させ、多くの怪盗やブラック企業を取り入れ、大きな一族を作り上げた。サタンルパンの手口はとても複雑で、現在わかっている手口は数えられるほど少ない。よく見られる一つの手口は善人の金持ちをブラック企業を使って金を大量に使わせ、財産を吸い取るという悪質な手口だ。これまでたくさんの人間がその罠に嵌められてきたが、ルパンの消息は全く掴めない。現場に証拠などは一切無く、手がかりは一つもないのだ。

 私は秘密警察を統制する仕事を担っている。今回の私の任務はその悪魔のルパンの一族を全員捕まえるというものだった。しかしことはうまく進まず、今だに悪魔のルパン一族の情報は一切手に入っておらず、住処も分かっていない。まるで透明人間のような怪盗なのだ。

 悪魔のルパンの一族の中には悪魔のルパン、張本人の娘もいる。彼女もおそらく幼少の時から盗みを叩き込まれ、今や、「パールルパン」という名前をつけられた。彼女も父の能力を受け継ぎ、見事な盗みを行う怪盗だ。分かっていることは彼女が娘のヴィクトリアと同じ年齢だということ、最初の獲物が真珠の耳飾りだったということ、最後に彼女は父の悪魔のルパンにそっくりだということだ。この少ない情報で何をすればいいというのか。

 私は長年秘密警察の任務を完了させてきたが、現在この任務で初めて苦戦している。妻や娘のヴィクトリアとアナスタシアにも頑張ってもらっているが未だ情報は少ない。身内に頼ってしまっては私の誇りが傷つく。私が頑張らなければならない。私はたくさんの国を渡り、情報を手に入れるために他の人間と交渉をし続けている。しかし、それでも情報を手に入れることは困難だった。

 私が久しぶりに娘達の元へ帰ってきたはつい先日のことだった。娘達は二人とも元気そうだったが、どこか静かになった気がした。大人になった、と言えば良いだろうか。アナスタシアは前にも増してずっと無口になってしまった。ヴィクトリアも一人でいることが多くなったようだ。娘達は母に似て美しく、上品な娘に育った。しかし将来スパイになり、私の職業を手伝ってもらうというのはずいぶん彼女達にとっては酷な事だろう。彼女達もそれなりにしたいことがあったろうに、父である私の都合で将来を決めてしまったのは申し訳なく思っている。そんな時、娘達と話す機会が訪れた。仲良く話そうと思っていたのだが、つい、(いや、やはりと言ったほうがいいだろうか)仕事の話になってしまった。彼女達ももうすっかりスパイの職業に染まってしまった。幼少からきつい訓練をたくさんさせ、スパイの仕事をさせているのはこの私なのだ。私は父親失格だ。

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