詩の部屋 14


 ○ 40


詩の部屋にやって来て初めての夜

町は遠いのか車の音は全くしない

外から聞こえてくるのは虫の音と

詩がお互いにその名を呼び合う声

あるものは優しく、あるものはか細く

ロマンティックではなく完全にリアルで

誰かはずっと誰かの名を呼び続けていて


 ○ 41


猫はすっかりトランプに飽きたのか

部屋の中をグルグルと歩き回っている

私は起き上がってキッチンへ行き

紅茶を二人分入れる

猫はありがとうも言わずに

窓の向こうを見ながら飲んでいる

お互いに黙っていると鳩時計が返事をする


 ○ 42


テレビもSNSもなく、本すらない夜

私は無愛想な猫と黙って座っている

キッチンでおしゃべりをしているのは

昼間キュウリからこぼれ落ちた文字たち

思い思いのことを互いの言語で話すので

誰にも何も通じていない

虫の音とは別の音楽にぼんやりと耳を傾ける

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る