33、終章1

 つぎの日、僕は商店街しょうてんがいの入り口門前で一人立っていた。それとうのも、栞と待ち合わせをしているのである。ようするに、デートという奴だ。

 デートの場所ばしょは近所の小高いやま。その頂上にある、自然しぜん公園こうえんだ。あんまりひとでにぎわっているわけでもないけど、それでも街の人にとってはコアな人気にんきのあるデートスポットである。

 今の僕は、普段は滅多めったにしないおしゃれに気を使った服装ふくそうをしている。グレーの長袖シャツにこんのジーンズ。そして、紺の半袖ジャケット姿だ。頭には、ブルーの帽子をあさくかぶっている。

 うん、まあかっている。肝心かんじんのデートだというのに、おしゃれのセンスがあんまり良いとは言えない。い訳をさせてもらうとするなら、僕自身今までおしゃれに気を使ったことが無い。服装は適当てきとうえらんで着ていたから、こういうデートを意識いしきすることが全く無かったのである。

 まあ、でもだ。それでもだよ?

 流石さすがに、これはマズイとはおもう。思うけど、それでも僕自身精一杯頑張ったつもりなのだ。あんまりめないで欲しい。けど、それでも。ううむ……

 まあ、今はもうその話題はわきらしておくことにしよう。

 それはそうと、現在げんざい時刻じこくは午前11:25。ち合わせの時間まであと5分というところだろうか。つまり、待ち合わせの時刻は午前11:30だ。

 ちなみに、僕が商店街しょうてんがいに着いたのは今からさらに5分前になるだろう。

 まあ、でも。

 僕は昨日きのうのことを思い出す。

 昨日きのう、栞は高橋家で一晩泊まった。その時、僕は栞とデートの約束やくそくをしたということになる。それはいのだけど、栞はどうしてかわざわざ待ち合わせを介してデートにこうと言い出した。すこしでも、デートらしくしたいとのこと。

 それに、どうせデートをするならとびっきりおしゃれをしたいというのが栞自身の本音らしい。いや、実際じっさいのところは花姉さんがそうすすめたらしいけど。

 なんでも、花姉さんいわく女の子にはいろいろとあるらしいのだと。まあ、花姉さんが言うのだからそうなのだろう。男の僕にはあんまりよく理解出来ない話題わだいではあるけれど。それでも、デートにおしゃれをしたいというのは理解出来る。

 やっぱり、きな相手にはおしゃれな姿すがたせたいのだろう。栞も、やっぱりそうなのだろうか?僕を相手あいてに、そういう感情をいだいてくれているのだろうか?

 ちなみに、花姉さん本人はかくしているけど。実は花姉さんは僕のあに織神おりがみそらに恋心をいだいていたのである。空兄さん本人も、仁兄さんも、その事実にはとっくのむかしから気付きづいていた。気付いていなかったのは花姉さんだけだ。

 いや、花姉さん一人が気付きづかれていないと思っていたの間違まちがいか。

 話題わだいれていた。軌道きどう修正しゅうせいをしよう。

 まあ、ともかく。僕は栞とデートのち合わせをしている最中さいちゅうだ。約束の時間まであと2分とったところか。

 そこで、栞の姿すがたが見えた。僕は栞に手を大きくる。

「ごめん、ったよね?思った以上に服装選びに時間じかんが掛かって」

「いや、別に其処そこまで待っていないよ。まだ予定よていの時間まで余裕よゆうがあるし、時間が掛かったという程でもないと思うよ、多分たぶん

「そう、かな?ところでその、あの……私の服装ふくそうはどう、かな?」

「うん、とっても可愛かわいいと思うよ。白を基調きちょうにしていて、清楚せいそという感じがしてとっても可愛いんじゃないかな。すくなくとも、僕は可愛いと思うよ」

「うん、ありがと。晴斗はるくんもかっこいいと思うよ?」

「うん、ありがとう。お世辞せじでもうれしいよ」

「……ふふっ、本音ほんねだよ?」

 そう言って、栞は薄く頬をめて微笑ほほえむ。そうだろうか、でも好きな相手にかっこいいと言われるとまんざらでもない。そんな気分きぶんになってくる。

 ちなみに、今の栞は白を基調きちょうとした清楚系せいそけいの服装をしていた。

 上下に白のツートップ。その上からうすい青のカーディガンを羽織はおっている。頭には同じく白いおしゃれな帽子ぼうしあさくかぶっており清楚系といった風情ふぜいだった。どこかのお嬢様だと言われても、誰もうたがわないだろう。

 少しだけ背伸せのびをしたのだろう、ヒールのたかい白いくつも総じてポイントが高いと僕は思った。

 元から非常に可愛い容姿ようしをしていた栞だったけど、衣服をととのえただけで此処まで綺麗に可愛くなるなんて。少し予想外よそうがいだと思ったのも事実だ。

 いけない。意識いしきをしたら僕まで頬があつくなってきた。

「ま、まあともかく。そろそろこうか。えっと、近くの山にある自然しぜん公園こうえんでピクニックだっけ?」

「う、うん。そうだね。そこでってるよ。そろそろこう、周囲の視線しせんが少し辛いし何よりずかしい」

 そう、今の僕たちは周囲の視線をあつめてしまっている。とくに、栞の方は男子の視線をかなりあつめてしまっているのである。

 うん、これは流石さすがにマズいかな?そうおもい、僕はそっと栞を自分自身でかくす。

 残念ざんねんそうにする男子たち。うん、やっぱり此処ここを早々にはなれた方が、他でもない栞のために良いだろう。流石さすがに僕もが気でない。

「行こう、栞」

「うん、行こう。晴斗はるくん」

 そう言って、僕と栞は近くの小高い山へとすすめた。僕も栞も、お互いに満面の笑みをその顔にかべて。

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