3,少女との再会1

 僕の通う高校こうこうは、県内でも有数の知名度を誇る進学校しんがくこうだと僕自身思っている。それは何故か?ここ数年で新しく作られた人工島じんこうとうを丸ごと利用した学術都市、その中でもトップクラスの進学校の一つだからだ。

 学術都市、ニューオノゴロは学生の学生による学生のための都市開発としかいはつとして、一から開発された人工都市島だ。外側から見た外観がいかんは、まさしく機械仕掛けの要塞ようさい。あるいは最新技術でアップデートされた軍艦島ぐんかんじまという無骨極まりない見た目だった。

 人工島に入るためには、関係者をしめすパスポートが必須ひっすになるほど警備システムが厳重であり、人工島に入るための手段しゅだんは事実上、人工島と本島を繋ぐ直通電車しか無いという徹底てっていぶりだ。それ以外の手段で入る。たとえば、船に乗って島に侵入しんにゅうしようとするとかしようものなら、即座に警備システムに引っ掛かり、捕獲用ネットで捕縛ほばくされるだろう。

 では、空路くうろで侵入しようとするのはどうか?それも駄目だめだ。人工島の警備システムは陸海空全域に及び緻密ちみつに組まれており、その防壁(通称ファイアウォール)はもはや鉄壁てっぺきを超えて完璧かんぺきとすら言われていた。

 ちなみに、人工島のパスポートを紛失ふんしつした場合はかなり面倒な手続きが必須であり、しかもぬすまれた可能性も考慮こうりょされるため、以前保有していたパスポートの効力を消す手続きも必須となる。そのため、ゆうに一か月近くは時間がかかることになるだろう。この二つの理由から、学術都市にかよう生徒たちはパスポートの紛失を何よりもおそれているのである。

 まあ、授業日数の確保かくほという観点から、もし本当にパスポートを紛失した場合は仮パスポートがわたされることになるのだけど。

 ・・・ ・・・ ・・・

 僕の通う高校と舞の通う中学は、同じ人工島内にある。だから、人工島に入る電車はいつも一緒いっしょに乗ることになる。

 現在、僕は舞と一緒に人工島の直通電車に一緒いっしょに乗っている。うん、乗っているのだけど、どうしていつも、舞は僕の腕にき着いてくるのだろうか?いやまあ、理由りゆうはわかっている。理由はわかっているけど、納得は出来ない。

 なんでも、舞は僕を自分のものだと周囲しゅういにアピールするためにマーキングをしているつもりらしい。舞はいぬのつもりなのだろうか?わからないけど、ほんの少しだけ身の危険きけんを感じているのは確かだろう。

「なあ、そろそろはなしてくれないか?周囲の視線がものすごくいたいんだけど」

「や!」

「や、って。そんな子供こどもみたいなことを言われても……」

「や‼」

「…………」

 もう、何も言いかえせなくなる。何だろう、これは?正直、居心地が悪いなんてものではないんだけど。周囲にいる学生たちが勝手知ったる表情かおでにやにやと見ているのがものすごく居心地が悪いんだけど。本当に、もう。

 最近知った話だけど、どうやら僕たち義兄弟は学術都市内では一種の名物めいぶつになっているとのことだ。正直、見世物みせものじゃないんだからじろじろと見ないでほしい。

 じろじろと見ないでほしいけど、本気で嫌がってめさせたら変な奴が義妹に寄ってくるし。以前、舞がかなりしつこくナンパされていたのを思い出す。

 あの時は、僕が少しだけナンパ男を説得せっとくしてめてもらったけど。あの時以来、舞が余計に僕になついてきて、正直ものすごくこまっているのである。

 でも、だからといって、このまま僕が義妹のナンパ除けになるのも限界げんかいがあるだろうしな。それに、さすがの僕でも少しキツイ。主に、精神的せいしんてきな意味でだ。舞はとても可愛かわいいのである。小柄で小顔なのもそうだけど、容姿が比較的整っていて、トランジスタグラマーとでも言うんだろうか?胸もそこそこにているのである。全体的にミニマムなくせして、胸だけはそこそこあるのはどうなんだろうか。しかも、すごくやわらかい。まさしく包み込まれるような柔らかさだった。

 今も、舞の胸が僕の腕に当たってかなり気持きもちが良い。

「なあ、義妹マイさんや。胸が当たっているんだけど?」

「当てているんだよ」

「わかっているよ。だから、し付けないでと言っているんだ」

「むぅ、気持ちいいくせに。義兄にいさんのエッチ」

「いや、人聞ひとぎきが悪いなおい」

 まったく。いや、本当にまったく。

 僕は深々ふかぶかとため息をついた。そんな僕たちにちかづいてくる一人の女子がいた。確か、僕のクラスメイトで風紀委員長だったはず。名前は確か、木場きば木之葉このはか。

 見た目は黒縁眼鏡の黒髪おさげ。高身長でグラマラスな十人中十人がうらやむかなりのルックスだった。なのに、なぜかいやらしい気持きもちにならないのはこの女子の内面を知っているからにほかならないだろう。

 この風紀委員長、実はかなりの変態へんたい変人へんじんなのである。

 風紀がみだれるとか、そう苦言をていする雰囲気ふんいきではない。どこか、にやにやといやらしいで見ている。いや、それが風紀委員長のする視線なのか?

「いやはや、見せつけてくれるね、お二人さん!」

「風紀委員長か、何かよう?」

「こんにちわ、風紀委員長」

「うむ、でも私のことは風紀委員長とか役職名やくしょくめいではなく、きちんと私の名前で呼んでくれるかな?私の名前は木場きば木之葉このはっていう立派な名前があるんだからさ」

「わかったよ、木場さん」

「はーい、木之葉先輩」

「うむ、よろしい。で、なんのようかだったね。今日きょうはビッグニュースを持ってきたんだよ。ビッグニュース、すごいね!ビッグニュースって!やっぱり人類の生活のかてはビッグニュースに限るよね?うん。さあ、今日も今日とてビッグニュース‼」

「うん、少しだけテンションをおさえてくれるかな?頼むよ」

 そうだった、木場木之葉は風紀委員長以外に新聞部も兼任けんにんしているんだった。その関係もあって、この学術都市内の情報じょうほうにはかなりあかるいのである。

 いや、正直に言えば学術都市内の情報は木場さんがにぎっていると言っても過言ではないだろうと思う。

 誰が言ったのか、木場さんのことを情報を食らう魔物まものと二つ名で呼ぶ人もいるくらいだった。本当に、いったい誰がそんな名前でんだのだろう?木場さん、かなり喜んでいるよ?本人がその気になって、自らその名を名乗なのっている始末だよ?

「すいません、でも情報を食らう魔物まものと呼ばれる私の名にけて、今日も高精度の情報をみんなにとどけるよ」

「は、はぁ。で、その情報を食らう魔物さんは今日、いったいどんな情報を仕入しいれてきたんだ?」

「うん、なんでも今日、私たちの高校の私たちのクラスに新しく転入生てんにゅうせいが来るらしいよ?しかも女子じょし!もう一度だけ言うね。しかも女子!とってもかわいい女子!良いねやっぱり、かわいいは正義せいぎだと思うな、私は!君たちもそう思わない?はい、思うということでそうまりました私が決めました!」

「へ、へぇ……」

「へぇ」

 何だろう?僕と舞の温度差おんどさが違う気がするような。僕は、木場さんのテンションに少しいているのに対し、舞は少しだけ声のトーンをとしている。

 どうしよう。舞のほうを見るのが少しだけこわい。なんでか知らないけど、舞がこっちのほうへ怖い視線しせんを向けているような気がする。

 何故なぜって?だって、舞が僕のほうに向かってぐぬぅって歯をきしませているから。言わなくても、それがわかるくらいに僕に視線圧力しせんあつりょくが来ている。

 でも、そんなことは絶対に言わない。本気ほんきでキレた舞がこわいから。いや、ガチで。

 そう思って、僕はだまり込むことにした。言わぬがはなだ。

 そして、そのままたかいテンションのまま興奮気味に話し込む木場さんと、転入生の話題に怖いオーラを放つ舞。そんな二人をよそに僕は空気くうきに徹することにした。

 きっと、ほかの生徒たちもおなじだったはずだ。だって、ほかの生徒たちが一切僕たちにかかわってこようとしないから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る