決意

病院へと着いた

遠いはずの病院が、何故か近く感じるほど移動時間を感じなかった


私は病院施設内をただゴールに向かって走るように一直線に歩みを進めた

辿り着いたのは悠人の病室

自然と息切れは感じなかった

それよりも緊張が強かったせいか心臓の鼓動がうるさ

「ふぅぅ……」

深呼吸をして病室の扉を開く

ガラガラガラ……



ゆっくりと病室内を進む

ベッドに横たわる悠人が見えた

手土産の一つでも持ってくればよかっただろうか

枕元にはたくさんのお見舞い品が置いてあった

花や果物の横ですやすやと眠る悠人は普段の活発な一面とは違い新鮮な気分だった

まるで冬眠している熊だと心の中で思った

しばらく棒立ちしていると、窓の外の風景に目が移った

今日は満月だからか夜がよく見える

遠い満月の近く、月光に負けないくらい光る星を見つけた



その光は手を伸ばせば届きそうなほどに



あと少し……あと少しで届きそうなほど



ガタ!!


突如鳴り響いたその音と共に視界が下に落ちるのを感じた


刹那、私が地面に向かっているのを理解した




数秒後に地面とぶつかる事を覚悟していたその時、体が後ろに引っ張られた

「うげぇ!?」

臓器を押しつぶされたせいか、変な声が出てきた

ドサッ!

私の体はを下敷きにして病院の床に打ち付けられた

そのの正体はすぐに分かった

「うぅ……」

聞き覚えのある声が唸っている

それは他でもない、先ほどまで寝ていた悠人であった

「え!?悠人!!!??!?」

その事実を理解するまでに少しの瞬きを要した

「あ、あの、ち…近い…です……」

私が驚き困惑していると、悠人は頬を赤らめ目をそらしていた

「あぁ!ごめん!」




二人とも落ち着き、向かい合って座った


しかし―――

「「……………」」

互いに沈黙を貫いている

「……助けてくれてありがとね」

先に静寂を破ったのは私の方だった

「い、いえ!そんな……むしろ力いっぱいに引き上げちゃってごめんなさい…」

「そ、それは私を助けるためでしょ!?」

「そうですけど……」


不思議な気分だ


目の前にいる人物が自分の全く知らない人物になっている


悠人のはずが、悠人じゃないみたい

「えっと……ところであなたは?」

「!!!」

忘れかけていた

否、思い出したくなかった

目の前にいる人物が幼馴染ではなく、全く新しい悠人であること

「私……は……」

言葉に詰まった

なんて言えばいいのかと惑っていると

「……僕、記憶が無いんです」

「ぇ……」

「自分の名前も、家族も、家も、何もかも思い出せません……ですが、あなたが窓から落ちる瞬間、頭の中で『助けなきゃ』って思ったんです」

悠人は困ったような顔を浮かべながらも、凛とした表情で続けた

「その時、ふと思ったんです。『この人は僕の、何よりも大切な人』って」

何気なく、いつもの事のように言い放ったその言葉が、今まで蝕んできた不安や苦しみが、晴天のように晴れた気がした

「そっか…私は君の大事な存在なんだね…」

必死に涙を押し殺して自分に言い聞かせ、噛み締めた

「私の名前はあい星川ほしかわ あいだよ!よろしくね!」

「僕は悠人ゆうと陽川ひかわ 悠人ゆうとです!よろしくお願いします!」

互いに笑顔でそう言い合った

「うん!よろしく悠人!!!」

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