第16話 コヨリ、カレーを食べ……ない
翌日。コヨリはいつものように学校に登校し、無難に授業をこなし、今は食堂で昼食を取っていた。
学院長の当てが外れた――というより信条的に聞けなくなったので、不老長寿に関する調査は振り出しだ。
「ふぅん、どうしたものかのぅ」
かっぽ、かっぽ。口に咥えたスプーンがぷらぷらと揺れる。
なんとなしに学院に登校したはいいものの、学院長から情報を聞き出せないならば特にここにいる意味はない。授業は基本的に退屈なものばかりだし学院のレベルはコヨリには少々低すぎる。実力アップも見込めない。
(また地道に情報収集から始めるか? だがそんなことをしていたらどれだけ時間がかかるか分からん。人海戦術が使えるならまだしもこっちは我含めても4人。到底足りん)
かっぽ、かっぽ。
(ザンキに頼んで人を雇ってみるか? いや、そもそもあてもなく探すのは砂漠から一粒の金を見つけるようなもの。アプローチの仕方が間違っているな。やはり知ってそうな奴から情報を聞き出し、そこから手繰る様に情報を連鎖させるのが最良)
じゃあやっぱり学院長に聞くのが一番早いじゃん? そんな囁きがコヨリの脳内で繰り出される。
(配下の前であんなかっこいいこと言ったのに今更聞きに行くの……? やっぱり何か隠してるでしょ教えてって? ……そんなダサい真似できるか!! ……でも聞かなきゃ八方塞がりだし……)
「ああああああ! どうしたらいいんじゃあああああ!」
からん。咥えていたスプーンが空いた皿に滑り落ちるのも構わず、コヨリは頭を抱えた。
「コヨリ様、いかがされました? ……もしかしてカレー一皿じゃ足りませんでした?」
「いや違うぞルーナ。きっと0辛にしたけど思いの外辛かったんだ。コヨリ様は甘党だからな」
「はっ! も、申し訳ありませんコヨリ様! そこまで気が回らず……。すぐにシェフにかけあって-3辛を作らせます!」
「絶対違うと思うけどなぁ……」
見当違いなことを言う配下の言葉もコヨリの耳には届かない。「ぐぬぬ……」と顔を顰めているばかりだ。
「そういえば、今日はシャーロットは一緒じゃないのか」
ミズキは安酒を傾けながらナッツを口に放り投げる。ちなみにルーナはもういない。厨房に駆けて行った。
「誘ったんだけどね。修行するって一人で訓練場に行っちゃったよ」
「相変わらずストイックだな。私も見習わなければ」
「僕的には、ちょっとは休んでほしいんだけどねぇ……」
「お待たせしました!」
まだ1分も経っていないのに、ルーナはもう帰ってきた。手には皿。それをことりとコヨリの前に置く。
「コヨリ様、どうぞお召し上がりください」
「おい、ルーナ。これはなんじゃ……?」
目の前に出されたカレーに、コヨリは眉をひそめる。
なんか、色が薄い。白っぽい。あとすっごく甘い匂いがする。というかなんでカレー? 別に頼んでなくない? 普通にもうお腹いっぱいなんだけど。
「-3辛カレーです!」
「まいなす……?」
「甘党なコヨリ様のためのオリジナルカレーです! シェフがコヨリ様のためならばと作ってくださいました」
コヨリは食堂で売られている甘味をコンプリートするべくラインナップが変わる度に足を運んでいる。シェフに味の感想を言う時もあるし顔なじみだ。
だがこんな悪ノリみたいなものには乗ってほしくなかった。
「ちなみに材料は?」
「たっくさんの生クリームと砂糖。それにはちみつ。バニラエッセンスも入ってるそうです」
「うっ……」
味の想像をしてしまい、コヨリは軽く
食べ物を粗末にするなんて、なんて奴だ。後できっちり叱っておかねば。
とは言え、出された以上は食わねばならない。それはコヨリの信条だ。食べ物を粗末にしてはいけないとおばあちゃんに言われてきたのだ。
「コ、コヨリちゃん……別に無理して食べなくても」
「いや、配下の失態はボスである我の失態。責任は取らねばなるまい」
「え、失態……? 私、何かまずいことでも……」
「お主は後でお説教じゃ」
「え、え……!?」
慌てふためくルーナを無視して、コヨリは震える手でスプーンを取る。カレーを掬うと更に強烈に甘ったるい匂いが鼻孔をくすぐ――否、破壊してくる。
意を決して白いカレーを口に運ぼうとした、その時。
「ちょっといいかな?」
見知らぬ男子生徒らが声をかけてきた。
胸の校章を見るに二年生だ。
「なんじゃ、お主らは?」
彼らはコヨリの問いには答えず、唇を真一文字に結ぶ。その表情には焦りが見て取れた。
「ゴルザベータ、知ってるだろ? あいつが今どこにいるのか知らないか?」
「ゴル……? 誰じゃ?」
全く聞き覚えのない名前だ。頭の中の記憶に掠りもしない。
しかし疑問符を大量に浮かべているコヨリと違って、テオは「ああ」と思い出したような声を上げた。
「前に一度決闘しましたね。確か『剛腕』のゴルザベ……とか」
「そんなやついたか」
「二学年最強らしいよ」
言われても全くピンとこない。そんなに強い奴なら覚えていても良さそうなものだが。
「すまんが、そのゴルなんとかのことは良く知らんのでな。分からん」
「そうか……」
目の前の生徒はちらとテオにも目を向けるが、テオも居場所は知らないのか小さく首を振った。
「本当に、どこ行ったんだろうな……」
心配そうに呟くその姿に、コヨリは違和感を覚えた。
「今どこにいるかという話かと思ったが、違うのか?」
男子生徒は周りの友人と顔を見合わせると、思い詰めた表情で口を開いた。
「ここ一週間、学院に来てないんだ。あいつが休むなんて、今まで一度もなかったのに」
「ただ風邪で寝込んでいるだけでは?」
「欠席の連絡も来てないんだ。それどころか、心配になって家に行っても誰も出ない。この一週間、一度もだ」
「それは……」
確かに妙な話だ。なんらかの事件性を感じる。
「3年の生徒会長も最近学院に来てないらしいし」
「やっぱり、もう衛兵に連絡した方がいいんじゃないか?」
唐突に、コヨリの中の胸のざわめきが強く、大きく波打った。
思い出されるのは昨日の光景。漠然と感じた不安。
何事もなければいい。だが、もし本当に生徒が失踪しているのだとすれば。
それに学院長が関係している可能性が、ゼロと言い切れるか?
いやそもそもだ。学院長は善人だ。少なくとも原作ではそうだった。生徒のことを考え、生徒のために行動し、皆の模範であろうとする。そういう一面があった。
そんな学院長が、生徒の失踪に気付いてないはずがない。放置する訳もない。
可能性は二つ。
対処できないなんらかの事情があるか――
学院長自体が、この失踪に関わっているかだ。
実際にどうなのかは分からない。だが、昨日に続いて身を襲う嫌な予感。直感とも本能とも言うべきそれに、コヨリは従うことにした。
やはり学院長には、色々と聞かねばならないことがあるようだ。
「ゴルザベータのことは、我らの方でも探ってみよう」
「え、本当か……?」
「あぁ、同じ学び舎の学徒じゃからな」
コヨリの言葉に男子生徒らは感謝を述べる。余程友人が心配なのだろう。
「ちょいと野暮用が出来た。我らはこれで失礼する」
配下に目配せし、コヨリは立ち上がった。「あぁ、そうじゃそうじゃ」と、去り際で思い出したように口を開く。
「そこのカレー、食べ損ねたのでお主らにやろう。なに、まだ口はつけとらんから心配するな」
「え、カレー? ……なんかこのカレー白っぽいんだけど」
「限定メニューじゃ。この世に二つとない激レアカレーじゃぞ? ここで食べなかったら二度と食べれんかもしれん。だから食べるのじゃ。絶対食べるのじゃぞ? …………ではこれで失礼する! さらばじゃ!」
コヨリは逃げるようにその場を後にした。食堂を出てから少しして、「あっっっっま!!!!」という叫び声が聞こえてきたが、多分気のせいだろう。そういうことにした。
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