第7話 一級フラグ建築士

 シャーロットとテオの一戦から、コヨリ達は(というよりテオは)引っ切り無しにやってくる腕自慢を片っ端からぼこしていた。


 ある時は上級生と。


「我こそは第2学年最強との呼び声高い、『剛腕』のゴルザベ――」

「隙だらけですよ」

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ある時は勇気ある一年生と。


「シャ、シャーロットさんの仇は僕が取る! それで、シャーロットさんと僕は結ば……結ばれて……えへへ」

「あ、うん。頑張ってね」

「ほげえええええええええええ!!!」


 ある時は教師と。


「わ、私のクラスから問題児を出すなんて……そんなこと認められません! すぐに無意味な決闘を中止しなさい!」

「……だって、コヨリちゃん。どうする?」

「これは学院の規則でも認められている立派な決闘――生徒同士の切磋琢磨じゃ。禁止される謂れはないのう。あぁ、ところで教師との決闘も規則ではアリらしいな? 人生の先達から得られることは多いぞ、テオ。胸を借りるつもりでやってみるのじゃ。ほれほれ、はよ行けぃ」

「…………はぁ。分かったよ。先生、手加減はしますので」

「ま、待て! まだ私は受けるとは一言も――ぎゃあああああああああ!!!」


 決闘は連日連夜続いた。

 ある者は貴族としての誇りをかけて、ある者は己の実力を証明するために、ある者はシャーロットの仇討ちという義憤にかられて。


 だが、その全てをテオは叩きのめす。

 殆どの者は、一度負けると二度とテオの前に現れることはなかった。それだけの力の差があった。


 テオの武勇伝は尾鰭がついて学院中に広まる。『最強の剣士』『岩より固い男』『ただのストーンゴーレム』『てか剣も魔法も効かないんだけどマジで人間?』などなど……。


 そんな噂が出回る頃には、すっかりテオに挑む者はいなくなっていた。


 ――ただ一人を除いて。


「今日こそはワタクシが勝ちますわ! 覚悟しなさい、テオ!」


 いつもの訓練場で指をずびしと突き立てるシャーロットにテオは苦笑した。


「シャーロットさんって、すっごい負けず嫌いだよね」

「当然ですわ。セレスディア家の一員として、その名に傷をつけたままでいられるものですか!」

「ふふ、いいね、そういうの。でも、僕も簡単には負けてあげないよ?」

「望むところですわ!」


 シャーロットは最初から全力で魔力を解放させる。それに対して、テオはネメシスの血を覚醒させることなく無難に対応していく。


「あの娘っこ、執念が凄いのう。これで何回目じゃ?」


 その戦いを、コヨリ達は観客席からのんびりと眺めていた。手元には湯呑みと練り切り。東方から来た甘味だ。学食はたまにこういった変わり種のおやつが出てくるので、コヨリの最近のブームは学食のおやつ制覇となっていた。


「初めてテオと戦ったのが一週間前。今日で通算20回目です」

「ほぼ一日三戦ペースじゃな……ようやるわ。このペースで歓談していたら学食のおやつ制覇のが先に来てしまうかもしれん」

「この練り切り、というのは初めて食べましたが美味しいですね。いつか東方にも行ってみたいものです」


 そう言ってミズキはずずずと茶を飲んだ。


「……なんかお主が酒以外を飲んでいるの見ると違和感が凄いのう」

「な、何言ってるんですか。私だっていつもお酒を飲んでいる訳じゃないですよ」


 コヨリとルーナが、じとーっとミズキを見やる。


「ミズキ、それはちょっと……」

「うむ、それはないな」

「え、え……?」


 ガキィン。ぶわぁ。カンッ。カンッ。

 テオとシャーロットの戦闘音が、やけにはっきりと聞こえた。


「……それよりルーナ。学院側からなんらかのアクションはあったか?」

「いえ、特には。職員会議で取り上げられてはいますが、学院長からの連絡はまだのようです」


 現在ルーナには諜報員まがいのことをしてもらっている。ルーナはやたらと気配を殺す能力が高いので潜入調査には打って付けだ。


「ふむ……殆どの生徒は倒したが、やはりそれではまだぬるいか……」

「いっそのこと、教師全員を捕らえて学院に立て籠ります?」

「それは我も考えたがのう。あまり敵は増やしたくない」


 正直、手段を選ばなければ学院の関係者を全員拘束。からの学院長を出せ、というのが一番手っ取り早いが、流石にそんな乱暴な手は使えない。

 コヨリは正義の味方ではないが、悪の手先でもないのだ。ハッピーエンドを迎えるに当たって敵は少ない方がいい。


「副学院長のテスタをしばらく幽閉するという手も考えたが……」

「大事になると困りますし、難しいですね」

「そうなんじゃよなぁ」


 事態を学院の外まで波及させるくらい大事にしなければ、おそらく学院長の耳には入らない。かと言って悪事でそれを達成する訳にもいかない。

 だからこそ、貴族の生徒をぼこってその親に出てきてもらうくらいがいい塩梅だったのだが……どうにもそっちは上手く行ってない様子。


「まぁ多少時間がかかるのは仕方ない。ここは我慢の時じゃ」

「はい」

「なぁ、私はそんなにいつも酒ばっか飲んでいるか?」


 ミズキの呟きに、ルーナは深くため息をついた。


「……ずっと黙りこくっているかと思ったらあなたそんなこと考えてたの? 気にしちゃだめよ、ミズキ。あなたはあなたのままでいるのが一番なんだから」

「そ、そうか……? そうか……」


 その時、丁度テオとシャーロットの戦闘も終わったようだ。

 当然勝者はテオ。澄ました顔で剣を鞘に納めるテオに対して、シャーロットは汗まみれで激しく肩で息をしていた。


「また、勝てなかった……どうしてなの……どうしてこんなにも力の差が……」

「あー、シャーロットさん。ちょっと気負い過ぎというか、余裕がなくなってきてると思うよ。有効打になり得ない所で無理に狙いに行ってたり、焦ってる感じが伝わってきたからさ。ちょっとリラックスしよ?」

「くっ……あなたに慰められる筋合いなんて――」

「あ、そうだ。今度一緒にケーキでも食べに行こうよ。そしたら少しは気分転換になるかも」

「――ッ!?」


 シャーロットは目を見開いて固まった。

 そしてコヨリも、テオの言葉を聞いて固まった。


「なっ、んな……」


 口をパクパクとさせ、未だにパニックを起こしているシャーロット。

 しかしコヨリは、すぐさまに頭をフル回転させた。


(そうか! セレスディア家は4大名家と呼ばれるほど貴族の中でも力のある一族。あの娘っこに取り入れば、活路が開けるかもしれん! しかも、しかもじゃ!)


 コヨリは手を顔に当ててわなわなと震える。


(テオがシャーロットとくっつけば、それ即ちシナリオの破綻! つまり我がテオとくっつく未来ともおさらばすることができる! まさに一石二鳥!)


 完璧な作戦だ。

 むしろなぜ今の今まで気付かなかったのか。


「せっかくだし、よかったらみんなも一緒にどう――」

「いや我らは遠慮する! ちょっと用事があるのでな、これで失礼する!」


 コヨリはテオの言葉を遮り、しゅたっと片手を上げた。


「え、コヨリちゃん? 急にどうしたの?」

「ルーナ、ミズキ、さっさと退散するぞ。では後は若いお二人でごゆっくり!」


 ぴゅーっとコヨリ達は駆け足で訓練場を後にする。

 十分に離れた所で、コヨリはルーナとミズキに顔を寄せた。


「よいか二人とも。テオと娘っこがデートするのを、我らで援護する」


 ルーナとミズキの頭に疑問符が浮かんだ。


「どうしてそのようなことを?」

「セレスディア家の影響力を考えれば、学院長の耳に入る可能性が非常に高い。だからテオを使って取り入るのじゃ」


 二人はハッとした顔をして、神妙に頷いた。


「なるほど……流石はコヨリ様。そのご慧眼には敬服いたします」

「私達はテオのデートが上手く行くようにアシストする、という訳ですね」

「うむ。題して――」


 コヨリはぴっと人差し指を立てる。


「お貴族様に取り入ろう! ドキドキ恋のキューピット大作戦じゃ!」

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