第4話 クラスの雰囲気は最悪です

 こうして盛大に宣戦布告をしでかしたコヨリは、入学式終了後に教室へと移動していた。

 クラスメイトには当然ルーナ、ミズキ、そしてテオもいる。こうも都合良く全員が同じクラスに配置されたのは、当然コヨリの策略のお陰である。


 魅了チャームによって教師を操作することなんて、コヨリにとってはお茶の子さいさいなのだ。


「コヨリ! ワタクシと勝負しなさい!」


 そしてまた、薄紫色の髪をした美少女――シャーロット=セレスディアも同じクラスだった。

 怒りを露わにした彼女はコヨリに決闘を持ちかける。

 コヨリは不敵な笑みを浮かべた。


「ほう。この我に戦いを挑むとは……余程の命知らずらしいのう」

「あのまま引き下がれるはずがありませんわ! ワタクシこそが名実ともにアラド学院のNo1であることを証明してみせます!」


 シャーロットの言葉に周りの生徒――主に貴族連中が沸き立った。


「そうだ! やっちまえ!」

「生意気なガキに貴族の力を分からせてやれ!」

「シャーロット様が負けるはずありません!」


(くっくっく。いいぞいいぞ。いい感じにヘイトが向いておる。これなら思いの外、早く学院長を引っ張り出せるかものう。ふはははは!)


 コヨリは内心でほくそ笑んだ。

 この学院を乗っ取る上で強さを示すことには大きな意味がある。アラド学院は実力至上主義の世界なので、貴族だろうが平民だろうが強い奴こそ正義なのだ。

 当然、貴族は基本的に幼い頃から英才教育を受けているので実力者が多い。つまり貴族を片っ端からボコしていけば、それはイコールこの学院で天下を取ることに等しい。


 向こうからかかってくるなら、手間も省けるというもの。これが笑わずにいられるだろうか。


「はっ、どうせならお主ら全員でかかって来てもよいぞ? その方が無駄な時間を使わずに済むからな」

「なっ――」


 コヨリの発言に、貴族連中の怒りのボルテージがみるみる上昇していく。コヨリの心中高笑いゲージも急上昇だ。プライドの高い連中はなんとも扱いやすいことか。


「このような木っ端共、コヨリ様が手を出すまでもありません」

「あぁ。この程度の連中、私とルーナだけで十分だ」


 ルーナとミズキも、コヨリに倣ってか馬鹿にした調子で相手を煽る。


 このタイミングでの援護。流石はコヨリの配下だ。コヨリの狙いを正しく理解し適切な対応をしている――訳では全くない。


(これは素じゃろうな……普通にキレてるし……)


 二人とも、普通にコヨリを馬鹿にされてキレ散らかしているだけだった。

 今にも相手の首を刎ね飛ばしそうでちょっと怖い。


「あ、あのぅ……先にホームルームを始めたいのですが……」


 その時、教壇に立っていた若い男の先生がぽつりと零した。

 いかにも新任という感じの、頼りなさそうな雰囲気だ。


 当然、怒りが頂点に達した貴族連中は全く聞く耳を持っていない。ガン無視されて先生はがっくりと肩を落としていた。ちょっと可哀想だなと思った。


「舐められたものですわね……」


 シャーロットはぷるぷると体を震わせる。


「あなた達如き、このシャーロット=セレスディア一人で十分ですわ! 格の違いというものを分からせてあげましょう!」


 長い髪をふぁさぁっとかき上げて、シャーロットは宣戦布告をする。

 そんなシャーロットを尻目に、テオがコヨリににじり寄って耳打ちをした。


「ちょ、ちょっとコヨリちゃん。本当に受けるの? 作戦内容は分かるけど、別にそんな煽るような真似しなくてもよかったんじゃ……」

「何を言っておる。その方が効率がいいからやっとるんじゃろうが。我は別に正義の味方でもなんでもないからの。手段は選ばん」

「……? コヨリちゃんは正義の味方だよ? 僕のこと助けてくれたでしょ」


 コヨリは、バッと勢いよくテオから離れた。突然耳元で気持ち悪いことを言わないでほしい。コヨリはぞわぞわを振り払うために自分の耳を高速でこすり上げた。


「そ、それは一応お主は知り合いだからじゃ! 正義の味方というのは誰彼構わず助ける奴のことじゃろう」

「じゃあどうしてルーナやミズキは助けたの? 初めて会った時の僕のことも」

「ぐっ……やけに突っかかってくるな、お主。ええい、そんなものどうでもよい! とにかく今は――」

「何をさっきからごちゃごちゃ言っていますの! ワタクシとの決闘を受けるんですの!? 受けないんですの!? はっきりしなさい!」


 怒声を上げるシャーロットにコヨリとテオは顔を見合わせる。


(そうじゃ……良いこと思いついたぞぉ)


 そしてコヨリは、にやりと笑みを浮かべた。

 コヨリは腕を伸ばして、テオの肩にぽんっと手を置く。


「よかろうシャーロットよ。相手をしてやろう。この我の弟子であるテオがな!」

「えっ!? 僕!?」


 テオは困惑し、シャーロットは更に怒りに震える。


「なるほど……あなたが直接相手をするまでもない、と……そう言いたいのね」

「ふっ、そうじゃ。お主なんぞ、我の弟子がちょちょいのちょいで余裕の勝利じゃ」

「コヨリちゃん! 僕はまだやるなんて――」


 コヨリはぐいっとテオを引っ張りしゃがませると、耳元に顔を寄せる。


「よいかテオ。我が実力を出せばあんな小娘瞬殺できるじゃろう。だがな、本気を出すと他の者がびびって我と戦ってくれなくなるやもしれん。だからまだ実力は隠しておきたいんじゃ。分かるじゃろ?」

「うーん……」


 コヨリの力なら本気を出さずに接戦を演出することも余裕でできるのだが、それは黙っておく。

 これはある種の意趣返しだ。耳元で気持ちの悪いことを言われたのをコヨリは若干根に持っていた。


 だからこれは、そう。子供のする悪戯のようなものなのだ。


「それに、あやつはこの学院の生徒の中では確かに実力がある方じゃ。修行相手には丁度良いと思わんか?」


 修行。その言葉に、テオの目の色が変わった。


「た、確かに……!」

「そうじゃろう? これも強くなるためじゃ。師匠からの試練だと思え」


 テオはコヨリを見つめると力強く頷いた。


「分かったよ、コヨリちゃん。いや師匠!」


 テオは立ち上がるとシャーロットと相対する。


「師匠と戦いたければ……まずはこの僕を倒していくんだな!」

「望むところですわ! 返り討ちにして差し上げます!」


 両者はバチバチと火花を散らす。


 コヨリはその様子を見て、ただこう思った。


(テオちょっろいなぁ……)

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