第28話 エピローグ

「テオ、体の方はもうよいのか?」

「うん、ばっちりだよ。もう痛みもないし健康そのものって感じ」


 あの激闘から数日後。今日はテオの退院日だ。

 治癒院にて傷の治療を受けていたテオを、コヨリ達は迎えに来ていた。真っ白なベッドの上で伸びをするテオを見るにもう完全に治ったらしい。

 結構な深手を負ったにも関わらず、数日で完治させるその回復量には驚かされる。


「コヨリちゃん達はここ数日間なにしてたの?」

「街の見回りじゃな。またいつネメシスらが襲ってくるやも分からんし」

「確かにそうだね……。僕も一緒についてっていいかな?」

「もちろんじゃ。というか、お主はもう我の仲間なのだから一々確認しなくともよいぞ」


 仲間、と聞いてコヨリの後ろに控えていたルーナは「ふぎぎ……」と声を漏らした。どうやらまだ納得できていないらしい。


「テオ。治ったなら後で私と手合わせしよう。体が鈍っているだろう?」


 ミズキの隣にいたルーナは、思わずといった感じで鼻を摘まんだ。


「ミズキ……あなたお酒臭いわよ……」

「む、そうか? それは済まない」

「ミズキは連日連夜飲みっぱなしじゃからな」

「戦の後は宴。これは鉄則だ。赤龍討伐の金もあるし、飲まねば損だろう?」


 悪びれもなく胸を張るミズキに、ルーナは深いため息をついた。

 コヨリは知っている。毎夜酒場に繰り出そうとするミズキを、ルーナが「配下としての自覚を――」とか言って引き留めようと頑張っていることを。

 まぁ、当然その程度でこの酒カスが止まる訳もないのだが。


(ルーナとミズキのこういうやり取りは、原作まんまでニヤニヤしてしまうな)


 ルーナは聞いているのかいないのかよく分からないミズキに、それでも辛抱強く酒を控えるように窘めている。

 コヨリはそれを微笑ましく眺めていた。


 その時、くぅーっと誰かの腹の虫が鳴る。


「あ……あはは、ちょっと治癒院のご飯じゃ足りなくてさ」


 テオだった。恥ずかしそうに頬をかいている。


「どこかで飯でも食いに行くかの」

「確か今日は噴水広場で宴会があるそうですよ。復興頑張ろう会の第3弾です。昼からもう屋台が出ているはずなので丁度良いかと」

「王都の奴らは相変わらず祭りごとが大好きじゃな……」


 コヨリ達は治癒院を出て大通りを歩いて行く。

 辺りでは崩れた建物や道を修理するために色んな人があくせくと働いていた。

 それだけではない。まるで暗い雰囲気を払拭するかのように、飲食店や雑貨店で働く店員が通りで声を張り上げる。さながらお祭りのようだ。


 人間が、獣人が、魔族が、エルフが、色んな種族が復興に向けて一丸となっていた。


「あ、コヨリ様! この前は瓦礫の撤去、手伝ってくれてありがとうございました!」

「うむ、また何かあれば呼んでくれ」

「コヨリ様! ぜひうちのパンを持ってってください! 焼き立てで美味しいですよ!」

「おぉう、済まぬな。有難くいただこう」

「コヨリ殿。警備ご苦労様です!」

「お主もな。あまり無理をせず、しっかり休むのじゃぞ」

「コヨリ様。魔物から助けてくださり、本当にありがとうございました」

「それを聞くのはもう8回目じゃぞ。無事であったならそれで良い」


 王都の住人が、衛兵が、次々とコヨリに声をかけていく。

 時には握手を交わし、時には泣いて拝まれ、時にはお土産を貰い――


 気付けばその小さな手はパンとかお菓子とかお肉とかお花とかアクセサリーとか、色んな箱や袋で一杯になっていた。


「コヨリちゃん……凄い人気だね。何かあったの?」

「いや何、ミーナリアが放った魔物を我が退治してな。その後も復興の手伝いとか色々しておったらこんなことに」

「市井の民をも助けるコヨリ様の御心……流石でございます」

「誠に素晴らしい行いです。酒場の連中もみなコヨリ様に感謝してましたよ」


 コヨリにとってはただの罪滅ぼしというか、こうなった責任が自分にないとは言い切れないので手伝いをしたまでなのだが……想像以上に感謝されてしまっていることに困惑していた。


「ほれ、テオ。我ではこんなに食べきれんからな。お主も食べてよいぞ」


 そう言ってコヨリはその手にあるお土産をテオに渡した。


「わ、ちょ……」

「噴水広場であれが食べたいのう。水飴」

「いいですね。私もお供します」

「つまみになるようなものが欲しいな」

「あ、ちょっと待ってみんな……」


 すたすたと歩いて行くコヨリ達に対して、テオはよろよろと後を追う。


「おぉ、あんたコヨリ様の荷物持ちか? これも渡しといてくれよ」

「え!? ちょ、ま……これ以上は……!」


 どんどんと積み上がる荷物。視界が塞がれ、テオはあっちにふらふらこっちにふらふら。


「何しとるんじゃ、テオ。置いていくぞ」

「わ、待って……前が全然見えなくて……!」

「それも修行じゃ。気合を入れぃ」

「修行……!? そうか……これも強くなるための修行なのか……よし!」


 テオは突如魔力を纏わせ、


「うおおおおおおおお!!」


 驚異的なバランス感覚で荷物を落とすことなく、物凄いスピードで走り去ってしまった。

 顔を見合わせるコヨリ達。


「……我らはゆっくり行くかの」

「ですね」

「そうしましょう」


 テオを気にすることもなく、コヨリ達もまた噴水広場に向けて歩き出した。



 ***



「ふぅむ……なんでこんなことになったんじゃ……?」


 コヨリは首を捻る。この状況に困惑していた。


 眼下には人、人、人。人の群れ。みながみな「コヨリ様ー!」と歓喜の声を上げている。

 今コヨリがいるのは噴水広場だ。そしてなぜか噴水の前に設置されたお立ち台の上に立たされている。


(いや、なぜかもかかしもあるまい)


 噴水広場についたらコヨリに人が殺到したのだ。そのままあれよあれよとその場にいた大工たちが急ごしらえでお立ち台を作って、そして今に至る。

 あの大工たちの爽やかな笑顔とサムズアップが脳裏によぎった。凄くいい笑顔だったので断れなかったのだ。


 コヨリは背後をちらりと見る。そこには大英雄――否、最狂のラスボス、ネメシス=ブルームの像があった。

 その像と目が合う。なんかバカにされてる気分がした。ちょっとむかついた。


(はぁ……どうするんじゃこの状況……)


 とりあえず曖昧に手でも振ってみると、凄い歓声が沸いた。

 ちょっと気分が良かった。コヨリはちょろかった。


「コヨリ様ー! この街を守ってくれてありがとうございます!」

「コヨリ様愛してますー!」

「コヨリ様ばんざーい!」

「コヨリ様かわいいー!」


 その住人達の歓声に、コヨリはどんどんと気分を良くしていく。

 九尾もおだてりゃお立ち台に登る、である。


「ふっふっふ……わーはっはっは! そう、我こそこの王都を救った英雄なり! 盛大に感謝するのじゃ! わーはっはっはっは!」

「「「コヨリ様ー!」」」

「お嬢素敵だぞー」


(ん? 今なんか見知った声が……)


 きょろきょろと見渡すも、人が多すぎて良く分からない。気のせいということにした。


 その時、最前列にいた小さな女の子と目が合った。きょとんとした顔で、女の子は隣にいた母親の手を引く。


「ねぇねぇ、あのお姉ちゃんだあれ?」

「この方はね、王都を魔物から救って下さったコ――」

「まぁ待て。その先は我から言おう。名乗りはきちんと上げねばならんからな」


 コヨリはばさりとマントを翻すと腰に手を当てて、ない胸を張り上げた。


「我が名はコヨリ! 最強無敵美少女にして、天衣無縫の九尾族の生き残り! 不老長寿の法を求めて旅をし、いずれは最狂のラスボスをも越える――ただの、のじゃロリ狐っ娘じゃ!」


 うおおおおおおおお、と一際大きな歓声が上がった。


 コヨリはお立ち台の側に控えていたルーナを、ミズキを、荷物に囲まれたテオを見る。

 そして、ふんわりと微笑んだ。


「待っていろ不老長寿! 待っていろラスボス! この我が、この世の不条理をことごとく破壊し、必ずやハッピーエンドを手に入れてみせるのじゃ!」


 両手を高らかに掲げ、コヨリは叫ぶ。

 ルーナの、ミズキの、そして困惑気味なテオの拍手の音が、どこまでもどこまでも空高く響き渡っていった。



――――――――――――――――――――――――

あとがき

というわけで一章完結です!

10万字も付き合ってくださった読者の方には頭が上がりません。本当にありがとうございます。


まだまだ物語は続きますので、ぜひ執筆エネルギー充填のためにも!

面白いと思った方はぜひ小説トップの『★で称える』にある+ボタンをぽちぽち押していただけると嬉しいです。

続きが気になると思った方は『フォロー』もよろしくお願いします。


皆様の応援が執筆の活力となってますので、本当に有難い限りです。

二章もどうぞよろしくお願いいたします!

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