あの日を境に⑨




「トンネルか・・・! 確かにまたあのトンネルをくぐれば何か変わるのかもしれない!!」

「でもここからだと遠過ぎる! 移動手段を確保しないと」

「また地震が起きてやり直しになったら?」

「そしたら最初からあの場所へ向かえばいいわ」


周囲を見渡しているうちに美空がタクシーを発見した。


「・・・どうする?」

「長距離だから値段は高くなりそうだけどこの際仕方がないよな」

「とりあえず圭地を撒かなきゃ!!」


遠くからタクシーの運転手に声をかけ後ろのドアを開けてもらった。


「すぐに出発してください! 急いでいるんです!!」


運転手は困惑していたが何とか出発することができた。 後ろを確認すると徐々に圭地が遠ざかっていくのが見える。


―――一応俺たちが殺されることはなくなった・・・。


「目的地はどこですか?」


鏡越しでそう問われた。 トンネルの先まで行ってしまうと何が起きるのか分からないためトンネル前までお願いする。


「・・・圭地はアタシたちと同じ状況だったけど置いてきちゃってよかったのかな。 あの感じだとまた人を襲うかも・・・」


美空の指摘はもっともだと思ったがだからといってどうしようもない。


「あんな風になっても俺は圭地はこんな状況に一緒になった仲間だと思ってる。 ただあのまま説得するのは絶対に無理だ」

「それは、そうかもしれないけど」

「こんな状況から抜け出すことがまずは先決だ。 俺たちが死んでいるとかじゃない限り、何とかする方法があるはずだ」

「・・・うん、そうだね」


しばらく走っていると突然タクシーが変な方向へ曲がった。


―――近道か?


だが終いにはUターンしてしまい完全にトンネルとは逆方向へと進んでいく。


「ちょっとすみません! 道が違うんですが」


口を挟んだところ運転手と鏡越しで目が合った。


「・・・あ、お客さん!? いつの間に乗っていたんですか!?」

「はい?」

「目的地はどちらにしましょう?」

「・・・」

「って、もう大分走らせていますね。 すみません、うっかりしてしまいまして。 目的地はどこだったでしょうか?」


運転手は目を離した際に天汰たちのことを忘れ目的地も記憶から消えていたようだ。


「もうここまで来たらキリがないよ。 アタシたちここで降ります!」


美空が率先してタクシーから降りた。 お金を払おうとしたところ不審がられる。


「このお金もらっていいんですか?」

「え? タクシーの料金で・・・」

「私がお客さんたちをここまで運んできた、って言うんですか?」

「「・・・」」


その発言に二人は固まる。


「ねぇ、だんだん忘れるのが酷くなってない?」

「そうかもしれない。 とりあえずこのお金を受け取っておいてください」


タクシー運転手は首を傾げながらもお金を受け取るとすぐに車を走らせていった。


「圭地が追い付いてくる様子はないな。 タクシーが駄目なら俺たち自身で向かうしかない」

「どうやって? 近くに駅もないし車じゃなきゃ駄目なんだよ?」

「レンタカーでも借りるか・・・?」


そう考えながら歩いているとコンビニを発見した。


「あ、ちょっとコンビニへ寄ってもいい?」

「いいけどまたコスメとか買うなよ?」

「流石に今呑気にそんなことやっている場合じゃないでしょ」


今回は店員がいるためお金は払わなければならない。


「動きやすい靴に履き替えたいんだよねー。 売ってるかな? あとは武器!」

「圭地用にか」

「そう。 身を守るのが優先。 天汰は食糧とか適当に買ってきてくれる?」

「了解」


天汰は先に購入し外へと出た。 交通手段を考えているとあることを思い出す。


「・・・あ、そう言えば」

「お待たせー」


美空は靴だけでなく服もシンプルなものに着替えていた。


「元々着ていたものは?」

「勿体ないけど捨てることにしたよ。 だって今持っていくのは邪魔だもん。 それでどうするの?」

「あの車を使おうと思って」


そう言って向かいの通りに止まっている車を指差した。


「あれってエンジンがかかっているんじゃない? しかもすぐ近くに運転手もいるっぽいけど」

「あぁ。 だからこそだよ」

「もしかして盗むの!?」


持ち主は煙草を吸っているようでその隙に天汰は走って運転席へ入り込んだ。 戸惑いながらも付いてきた美空は助手席に座る。


「あ、おい何をするんだ!!」

「急ごう・・・ッ!」


当然のように気付いた持ち主が慌てて走り寄ってくる。 だが、エンジンがかかりっぱなしの車だったためすぐに動かすことができた。


「本当に勝手に使って大丈夫なの!?」

「持ち主の視線から外れさえすれば俺たちのことなんて忘れ去られる。 おそらくはどうして自分の車がないのかももう分かっていないはずだ」



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