第3話 ヒルダとエリーゼ
エリーゼ・ランゲルハンス。175cmの長身に、シミ一つ無い純白の肌。ほっそりとした柔らかな
「久しぶり、ヒルダ。元気にしていたか?」
背の高いエリーゼ、150cmと25cm低いヒルダを見下ろす。15歳の頃には空軍
「エ、エリーゼ……。可愛い服着てるね」
彼女の胸を揉んで柔らかさを確かめたい
「私だって可愛い服くらい着たいよ」
「エリーゼって軍服のイメージが強いから、新鮮だなーって。でもいいな、1ヶ月も休暇を貰えるなんて」
「交渉に苦労したよ。1ヶ月丸々無給さ。たっぷり貯金しておいて良かった」
「それで旅行するんでしょ。羨ましい」
「ああ、東洋まで行く。国際列車で1週間かけてサイベリア鉄道を通り、
「やっぱりお寿司が良いな」
「無理だ、腐る」
「何でもって言ったじゃん。じゃあ和寧のキムチは? あれって美容に良いって聞いた事あるよ」
「食べ物以外にしてくれ。
「うーん。東洋の事そんなによく分かんないから、エリーゼに任せるよ」
「じゃ、私を信じろ。君が喜びそうな物を買ってきてあげよう。そうだ、出発の前にカフェでゆっくり話そう。まだ発車まで2時間あるからさ。私が全部奢ってあげるよ」
「ありがとう!」
フレスブルク中央駅近くの喫茶店に2人は入る。エリーゼはブラックコーヒー、ヒルダはホットココア。クロワッサンと共に頂く。こんなに美味しいものは久々に飲んだな、ヒルダはたちまち元気になった。
「エリーゼ、実は昨日、徴兵検査を受けたの」
「えっ?」
エリーゼは戸惑っていた。
「おかしい?」
「いや……君が兵役に行くなんて思わなかったから…結婚はしないのか?」
「相手がいないから。ヒルダだって予定ないでしょ?」
「予定無いと言えば無いが……この人と一緒になりたいと思える相手に出会えればするし、出会えなければしない。子供の頃からずっとこの考えだよ」
「やっぱり、年頃だから結婚しないと、って適当に結婚した人がみんな不幸になってる気がするし……」
「合わない相手と一緒にいるのは
「だよね。でさ、3種合格だったんだけど、その場合……」
「3種か? なら実戦部隊には入らないな。通常は『兵士』ではなく『職員』として支援の任務になる。それも立派な兵役だよ。その中には電話交換もある筈だ。経験を活かせるぞ」
「えー、嫌だ」
「嫌なのか?」
「もう電話交換なんて懲り懲りだよ。私もエリーゼみたいに
「
「あ、あれは……忘れて!」
「忘れられるものか。まあ、電話交換は嫌と一応言った方が良いぞ。多少は配慮してくれる筈だ」
「一応、電話交換の仕事で心を病んでいる事は伝えてある。もううんざりで、二度とやりたくない」
「というか電話交換の仕事で何で精神病んだんだ?」
「嫌な話をいっぱい聞かされるんだよ。浮気だの何だの……。聞きすぎて嫌になっちゃった」
「軍の電話交換じゃそういう話は聞かなくて済むぞ。必要なスキルは
「ああ、でも電話交換自体から離れたいなぁ。何か別の仕事無いかなぁ」
「武器の整備とか、後はタイピストとか。それくらいなら出来るだろ」
「実戦部隊に行かされちゃったりしないかな」
「何心配しているんだ。さっき魔箒に乗れたらとか言ってた癖に。君レベルじゃ末期戦にならない限り実戦に行く事は無い。それこそ首都が敵に落とされるような」
「有り得るかな、そんな事」
「おーい、君40年前にガリアと何があったか知らねえのか」
「あ、そういえば首都のルティアが
「それで
「うーん、難しい事よく分からないなぁ。そういう知識は中等学校に置いてきちゃった」
「おーい、困るぞそんなんじゃ。これからの時代生きていけないぞ」
列車の発車時刻が近付くと、2人はフレスブルク中央駅の改札前へ行った。発車時刻表には『国際特急 モスコフ』とある。ルテニア帝国最大の都市であり
「今更なんだけど、1人で旅行って楽しいの?」
「変な事聞くなぁ。これ程楽しい旅は無いよ。誰にも遠慮せずに行きたい所に行けるんだ。もしかして一緒に行きたかったか?」
「い、いや、そんな事は……。楽しんできて。写真欲しいな」
「ちゃんとカメラもあるぞ、ほら」
エリーゼが鞄から取り出したのはTOKOのロゴの書かれたカメラ、秋津の
「おっ、良いカメラ持ってるね」
「妬みか?」
「何でそういう事言うの? 素敵って思っただけなのに」
「悪かった。なぁ、折角だから試し撮りさせて貰って良いか? こいつ、買ったばかりで一度も撮った事が無いんだ」
「撮って、撮って! このままじゃ葬式の
「よし、じゃ私が撮ってあげよう。時計の前に立って……笑って。3、2、1……よし、撮れたぞ」
「ありがとう! 現像して欲しいな」
「ええ……それは困るな。そろそろ列車が来てしまう……仕方ないな、あげるよ。フィルムなんてどこでも売ってるから、旅の途中で買えば良いからね」
エリーゼはカメラからフィルムを取り出し、ヒルダに渡した。
「良いの?」
「そもそも入ってたのは試し撮り用のフィルムだったしな。どっちにしろ買い足さなきゃならなかったから。私はそろそろ行くから、じゃあな。元気で」
「うん。元気でね」
エリーゼは改札の中に入る。ああ、羨ましい。国外旅行できるなんて。同じ街で、近所同士で、1日違いで生まれたのに一体何故?
もやもやした気分を胸に抱きながら、駅近くにある写真屋にフィルムを持って行った。
「これ、現像をお願いします」
「1枚ですね。20ゴルト頂きます……」
意外と高いな。写真なんて別に無くても生きていけるが、それに20ゴルトは日給600ゴルトにとって結構な負担だ。だが仕方ない。最新の機械を導入しているからか、現像は意外と早かった。大きな時計の前に立つ、小さな独身成人女性。我ながら、可愛いな。多分、人生で一番可愛い時期。この時期の写真を撮っておいて、本当に良かった。
さて、兵役はいつから開始だろうか。元々
ヒルダと憂鬱な戦争 加藤ともか @tomokato
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