第5話 深夜の通話は共依存のもと
――その後、家に帰ってきた俺は、いつも通りに夕飯と風呂を済ませた。
それから、俺が自分の部屋でスマホを開いてみると、LINEの通知が来ていることに気付いた。
おそらく
『今日は楽しかったよ!ありがとね!』と桃香からそんなメッセージが送られてきていた。
可愛い女子とのLINE……思わず笑みが零れてしまう。いけないいけない、クールになれ
……とはいえ、こんなことは久しぶりだったので、俺はどこか懐かしさを感じていた。
さて……こっちからも返さないとだな。
俺は、桃香にどんな返信をしようかを考え始める。
みんなは分かるだろうか……女子にLINEを送るとき、ドキドキしながら内容を考える楽しさが。
――数分後、俺は考えた言葉を打ち込んで送信した。
俺の送った内容は『こちらこそ誘ってくれてありがとう!俺も楽しかったよ!また今度どこか行こうぜ』といった内容だ。
これといって面白味はないが、LINE交換したばかりだし、こんなものでいいだろう。初めからはっちゃけ過ぎても、ドン引きされるだけだろうしな。
それから、一分もしないうちに俺の送ったメッセージに既読が付いた。
桃香って結構マメにLINE確認するタイプなんだなと思っていると……。
『こんばんは、怜一くん!突然なんだけど、今時間ある?』と彼女からそんな返信が来た。
もうすぐ寝るつもりだったのだが、そう聞いてくるってことは、何かあるかもしれないと思ったので俺は連絡を返すことにした。
『ああ、大丈夫だけど。何かあった?』俺がそう送ると……。
『よければ、今からおしゃべりしない?』
桃香の返信を見て俺は思わず驚いた。そりゃいきなりこんなことを送ってくるとは思わなかったからな。
ま、俺は驚きつつも、それと同時に彼女と話したいという気持ちもあったんだけどさ。
そもそもとして今日話してて楽しかったし、それに……可愛い女子と話せる機会を無駄にしたくはない。
だから俺は桃香にこう返信する。
『いいぞ!俺も桃香とは話したいと思ってたところだからな』
それを送った後、俺はLINEの通話を開く。
俺が開くと彼女もすぐに入ってきた。
「あー、あー……もしもーし、聞こえてるか?」
「うん、聞こえてるよ。ごめんね、急だったのに」
「気にしなくていいさ。これでも俺はおしゃべりするのは好きなんだよ」
「なんだかいつもよりも元気だね」
「ま、俺は昼間より夜の方が好きだからね」
「そうなんだ。……さて、何の話しよっか?」
……なるほど、困ったな。正直この世で雑談の内容を考えることほど難しいことはないと言っても過言じゃない。
さて、どうしたらいいものかね……。
……少し考えたが何も思い浮かばなかった。よし、桃香に丸投げしよう。
「ダメだ、何も話題が思い浮かばない。悪いけど、桃香が何か話してくれないか?」
「うーん……そうだなー……」と彼女は少し考えこんだ後「恋バナでもする?」と提案してきた。
「いいねそれ!そうしよう」
恋バナか。夜に友達とする会話としては申し分なさすぎるチョイスだな。
「それじゃ、まず桃香の方から教えてくれ」
「えぇー、私から?」
「提案したのは桃香だ。だから桃香から話して」
「だって怜一くんが話題ないっていうから、私の方から提案したんだよ!」
「うぅ……それを言われるとだな……」
うん、何も反論できない。
「というわけで、怜一くんからどうぞ」
はぁ……やれやれ、将来嫁が出来たら俺は尻に敷かれるんだろうな。まあ、そもそも結婚できるのかすら怪しいんだけど。
「……仕方ないな、教えてやる」
「……ゴクリ」
「自分で言う人初めて見たよ。まあいい、いくぞ」
怜一くんが経験した恋愛……か。どんな感じなんだろう。
彼ほど変わっている人を私は今まで見たことがなかった。だから彼がどんな恋愛をしていたのかまったく想像がつかない。
「実はな……」
「……うん」
私は彼の次の言葉を待つ。それにしても、何だかすごい焦らされている気がした。
「……七股して刺されたんだ」
しばらく沈黙が続いた。
「嘘……でしょ……」
私は怜一くんの言葉に驚愕する。
「……怜一くん……そんなことしたの……?」
「冗談だよ、するわけないじゃん」怜一くんはケロリとそう言った。
それから私はホッと胸を撫でおろす。
ああ、本当によかった。自分の友達が史上最悪のクズのような人じゃなくて……。
「まったく……本当にそういう冗談やめてよ。……洒落にならないくらいには怖いから」
イアに結構マジな感じでそう言われてしまった。……これからはちょっと気を付けないとだな。
「……それで、今度はちゃんと話してよ?もう冗談でごまかすのダメだからね」
「悪かったって、ただ……話すとなると、一つ問題がある」
「え、何かあるの?」
「いや……いたって単純な話なんだが、俺は今まで恋愛というものをしたことがなくてな」
「あぁ……そう、なんだね」
「だから、話せそうなことは何もないんだ。もし聞きたかったてんなら悪いな」
「いや、こっちこそ何かごめんね。怜一くんならきっといい人見つかるよ」
「……そうだといいんだけどな」
「あ、でも、誰かを好きになったことはあるよね?」
……さて、何と答えるべきか。
俺が今一番望んでいることは、俺についての恋愛の話をさっさと終わらせることだ。
……ここらへんについての話は、あまり人には話したくないからな。
だからひとまず……こう言っておくとしよう。
「……いや、生憎とそれもないかもな」
「えっ、そうなの!?本当に誰も好きになったことがない?」桃香は驚いたような声で聞いてくる。
「……本当にないかもな」俺は短くそう答えた。
俺が今まで話していたことはほとんどが嘘である。
誰かを好きになったことはもちろんあるし、恋愛をしたことだってある。ただ……あまりいい思い出ではないということは間違いないけどな。
少なくとも、他人に話せるようなものではないというのは断言できる。
だから……すまないな桃香、俺は過去の恋愛について話したくはねぇんだ。そう心の中で謝っておいた。
*
――気づけば時刻は夜の零時を回っていた。
もう寝ないといけない時間だな……。
「なあ桃香、そろそろ寝ないか?桃香の恋愛の話も聞きたいと思うが、明日も学校あるしさ」
「えぇー、もうそんな時間?」
「残念だがそうだな、また今度話そうぜ。じゃ、おやすみ」
俺が通話を抜けようとすると「……待って」と次の瞬間桃香に呼び止められた。
「どうしたんだ?」何かと思い、俺は尋ねてみた。
「……私、もっと怜一くんとおしゃべりしたい……」
「えっと……また今度じゃダメか?」
もう深夜だ。良い子も悪い子も関係なく寝る時間である。
「お願い……もうちょっとだけ……」
そこまで言われると、断り辛くなってしまうな……。
ま、実を言うと俺は夜更かしには結構耐えられるから良いんだけどさ。
「俺は大丈夫だが、桃香は夜更かしするの平気なのか?俺も話すのは好きだが、流石に桃香に体調を崩して欲しくはないからな」
夜更かしというのは本当に良くない。……経験者は語るってヤツだ。
「やった!ありがとね、怜一くん!」桃香は嬉しそうな声でそう言う。
「それじゃ、さっきの恋バナの続きをしよう。今度は桃香が話してくれ」
それにしても……俺は桃香に呼び止められてからの彼女の声を聞いて、とある光景が頭に浮かんでいた。
それはあの時の……夕方に桃香が他の男子からフラれている場面、あの修羅場に近い状況を連想させた。
まあ確かに……普通の人ならこんな深夜になっても通話を続けようなんて言われたら、コイツ束縛激しいだとか思うんだろうな。
それでも俺は……彼女の行動をどうしようもなく可愛いと思ってしまうんだよ……。それどころか、どこかシンパシーを感じる、とまで思っちまう。……仕方ないと言えば、仕方ないんだけどさ。
……さて、桃香との通話を続けるとしますか。
ともかくこれで……明日は寝不足コース確定だな。……でも、別にそれでもいいか。
俺はそんなことを思うのだった。
メンヘラだけど幸せになってもいいですか? 桜観七春 @Candy11511
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