いつもとちがう
触った瞬間。
「あっ」
スマホに指をつけたまま。
びっくりしたみたいな。じゃなかったら、うったえるみたいな目をして日菜はわたしを見た。
「今度はなに?」
「痛くなくなった」
「え」
「なんだろ。なんか……」
日菜はわたしから目を離さないで、戸惑ったような顔を見せている。
くちびるの端がぷくっとして、その顔はなにか言いたさそうにも見える。
「どうかした?」
聞くと、日菜は口を開きかけて。
でも、考え直したって感じに口を閉じた。
「なに、なに。どうしたの、ほんと。具合でも悪い?」
ちょっと心配になって、重ねて聞いたけど、日菜は口をつぐんだまま。
いつものおしゃべりな日菜じゃないみたい。
普段だったら、ちょっとのことも黙ってられない日菜なのに。
少しうつむいて(だから少し上目遣いになって)黙ってわたしを見つめてる。
日菜って、基本、美少女なんだよね。
黙ってると、いっつも思う。
まあ、キャーキャーしてても美少女なんだけど。
こんな風に静かに、しかもジッと見つめられてたら、同性のわたしだってドキドキしちゃうくらいだよ。
あ。
あれ?
これって、もしかして。
わたし、からかわれてる?
そっか、日菜のやつ、ふざけてるんだな。
なんなの。
わたし相手に小悪魔っぷりを発揮してどうすんのよ?
「やだ、もう。おどかさないでよね」
わたしは笑いながら、日菜の腕を軽く叩いた。
それが不意打ちになったみたいで、ポンとやったはずみで、日菜の指がスマホから離れた。
そしたら。
「痛い!」
突然日菜が叫んだ。
驚いて、わたしが少し後ろにのけぞったくらいの悲鳴だった。
日菜は慌てて、またスマホに指をつけた。
「なにすんのよ。痛いでしょ!」
怒鳴られた。
でも、わたしは日菜がふざけているものだと思い込んでいて。
もう一回、日菜のほうに手を伸ばしたら。
「やめてよ!」
触れる前に、振り払われた。
「日菜?」
あんまり真剣な顔をしているから、さすがのわたしも、日菜が本当に触れられたくないんだって理解して。
ショックを受けた。
こんな風に日菜に拒絶されるなんて、これまで一度もなかったから。
子供のころからずっと一緒で。
子犬みたいにじゃれあいながら、ずっとずっと仲良しだった。
一番の親友の日菜に拒絶されるなんて。
びっくりちゃって。
悲しくて。
胸がギュ、ってなった。
日菜もそれに気づいたみたい。
気まずそうに、
「ごめん」
小さく謝ってくれた。
謝りながらも、日菜の右手はしっかりとスマホを握っている。
わたしはそのスマホを見て。
それからもう一度日菜の顔に視線を戻した。
その顔を見ているうちに、だんだん不安になってきて、
「どうしたのよ」
聞いたら、
「わかんない」
日菜も不安になってきたらしい。
「なんか知らないけど、さっきまでは痛かったの。スマホにタッチした指が、すごく。空気に触った途端、たくさんの針で刺され続けてるみたいになって、ほんとに痛かったのよ。でも、スマホに触ってると治るの。痛くないし、なんか、すごくいいの……」
憑りつかれたように一気にしゃべって、
「分かる?」
日菜が聞く。
分からなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます