タッチして。もっと、して。
エモリモエ
グニャグニャしている
「ねえ、サツキ。これってなんだろ?」
誰もいない放課後の教室。
夕日が薄く影を差して、窓際にいる
高校生なのに赤ちゃんみたいなほっぺたも夕日の色にさせながら、やけに深刻な口調で日菜が言う。
「なんか、変なの、出てきちゃった」
「変なの?」
「うん」
さっきからふてくされたみたいに押し黙って、ずっとスマホをいじってると思ったら。
こちらを見上げた日菜の顔は困った時の八の字眉。
幼馴染の日菜のことは、わたし、分かっているつもり。
翻訳すると、これ「こっちに来て助けてよ?」って顔だ。
今日はこのあと二人で映画に行くつもりだった。
日菜が観たいって言うのがあって、じゃあ、これから一緒に行こうか、って。
で、次の回の時間を日菜が調べてたんだけど。
どうやらスマホの調子が悪いみたい。
しょうがないなあ。
一人っ子で甘え上手な日菜に、わたしは昔っから弱い。
かじっていたクッキーを置いてから、
「どれどれ?」
わざと威張った調子で日菜のスマホを覗き込んでみる。
「うーん」
確かに画面に奇妙なモノが映っている。
なんだかよく分からないモノ。
グニャグニャしていて、ぐるぐるしてて。
ピントが合ってないみたいに不鮮明だから、何が映っているのかもよく分からない。やたらと暗い画像。
なのに、とにかく気持ち悪い。
じっと見てると、妙に不安になってくる。
そういう感じ。
「変だよね、これ。なんか、キモチ悪くない?」
日菜が聞くから、
「うん。なんかキモチ悪い」
素直に答えた。
「どっから入ったの、これ」
「わかんない。急になったんだもん」
自分は悪くないよ? と日菜の顔が言っている。
でも、なんの操作もしないで、変な画像に飛ぶわけがない。
映画の検索をしているうちに、他の、たぶんホラー映画かなにかのサイトに移っちゃったのかも。
たまにあるよね。分かりにくい宣伝用のバナーって。
気がつかないうちにウッカリ入っちゃって。思ってなかった画面が出てきて、チョーびっくりしちゃう、迷惑なやつ。
日菜もたまたまそういうのをタッチしちゃったんだろう。
「どうしよ」
と、八の字眉の日菜。
「いいから、はやく消しちゃいなよ」
と、わたし。
「だよね」
日菜はさっそくスマホの画面に指で触れた。
途端に、
「きゃっ」
悲鳴をあげてのけぞった。
「日菜?」
「いたい! いたい!」
日菜は手をかかえてうずくまる。
「だいじょぶ?」
たった今、スマホに触ったばっかりの右手。
日菜はおっかなびっくり自分の人さし指をつくづくと眺めてから、
「痛い」
と、甘えた調子でわたしにも見せた。
女の子らしい、きれいな人さし指。
細くて、白くて、清潔で。
日菜にふさわしい人さし指。
「どうにもなってないけど」
静電気とかかな?
大げさだなあ、と笑うと。
なみだ目の日菜。
「だって痛いよ」
「もう、なにやってんのよ」
「変な画面、消そうと思ってタッチしただけだよ」
ぐすん、と日菜が鼻を鳴らしてにらむから、思わずつられて、ふたりして
なんだかよく分からない、グニャグニャしていて、気持ちが悪い何かが映ってたスマホ。
今は
日菜はうらめしそうに、
「このスマホ、絶対に変」
決めつけた。
「ぜったい、ぜったい、ぜったいに変」
言いながら。
よせばいいのにスマホに触った。
しかも。
痛くした右の人さし指で。
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