荘厳で壮美。だけどどこか人間らしい二人の神格が綴る、"愛"の物語。

 大好きです。
 と、心から叫びたい。

 フラッと流れてきて、とりあえず読んでみようと思いスマホをタプタプする手が止まりませんでした。本編は完結しており、現在は番外編が続いております。
 とある一つの世界『ラナス』の女神・ラナスオルと、力を渇望する感情のない死霊術師の男・シード。戦いの果てに二人がたどり着くのは"日本"。
 基本的にこの二人にフォーカスを当てた物語が続きます。

 作者様曰く処女作らしいですが、そんなバカなと言いたくなるような丁寧で繊細な描写。郷愁な雰囲気に綴られた世界観の中にある戦闘描写やクスッと笑みがこぼれてしまうような女神の人間らしい感情の起伏の表現。

 丁寧な描写なのに、実際に読んでみると見事と言わんばかりに綺麗に整理されている上に、一話約1000文字とバランスよく書かれているので読み疲れません。

 どこまでも"読者"へ与えるストレスを考慮する作者様の"気遣い"と"配慮"が張りめぐされており、ストーリー自体は鬱展開や敵キャラによる苛立ちは発生しますが、そんなものは後の展開への布石でしかありません。
 尚且つ、そういう展開であるあるなのが作者の感情が入り込みすぎて強烈な情景描写、心情描写などが羅列されまくるなどがあるのですが、今作にはありません。
 決して"飾りすぎない"描写こそが持ち味なのです。
 『見事』『天晴れ』の二言です。

 まず、日本編ですが、自分は一番好きと言えばこの章になります。
 「〜なのだな」「うむ」「ほう」などの神らしい偉そうな言い回しなのに、最新のゲームに興味を惹かれていたり、プリンやティラミスなどの人間の欲望で生み出されたものの虜になってしまうシーンなど、どこか"ポンコツ"らしさを出してくれるラナスオルに毎度微笑を引き出され、ついつい彼女を見守っていたくなってしまいます。

 ラナスオルは一度ならず、何度も、何度もシードへと極限とも言える感情を静かに、ただ静かに投げかけ、言葉だけでなく行動で彼のビグザム装甲とも言える堅い心を揺さぶり続け、最後にシードが"人"になる。
 何色にでもすぐに染まる真っ白な心のラナスオルと、じっくりと時間をかけてゆっくりと染まらないと思っていた真っ黒な心が静かに染められていくシードの対比が素晴らしいです。
 しかも、その心情がごくごく自然に練り込まれているので、気づけばシードはこんなにも……と、親のような目線で魅せられます。

 誰よりも人間臭い女神と、神の如き力を手に入れてしまった男が、取るに足りない出来事如きに喧嘩したり、喧嘩したり、喧嘩したり、愛し合う。
 ただ、それだけの物語。

 番外編こそが真の本編スタートな雰囲気を醸し出し始めておりますので、正直なところ未来永劫続いてほしいと思っておりますが、作者様への負担にならないように(もう遅い)。

 そして、本編完結まで書き切るといったことが何よりの素晴らしさです。
 
 唯一欲を言えば、SSで二人の甘々シーンを超無限大MAXで出し続けてほしいです。