わがまま女神×冷酷死霊術師 ~殺し合いから始まる神話~

えびふぉねら(鬱)

第一章 日本編

第1話 神話のはじまり

 『ラナス終焉録 第十三節より』



 一柱の女神と、一人の人間が、世界を引き裂く定めを負った時、ラナスの精霊は落ち、大地は裂け、光は消えるだろう。


 されどこれは終わりにあらず。

 罪深き魂が「無」に堕ちる時、再び始まりの扉が開かれる。


  ――すべては、女神に殺された男から始まる。



   * * *



 精霊が舞い、魔法が満ちる美しき世界――ラナス。


 大地は緑に溢れ、空は澄み渡り、海は七色に輝く。

 そのすべてが、女神の加護により保たれていた。


 だが、平和は永遠ではなかった。


 ラナスの崩壊は、たった二人――

 一柱の女神と、一人の死霊術師の戦いによって引き起こされたのだ。



 女神の名は、ラナスオル。

 白き髪、紫の瞳、年若き姿をしたラナスの創造主。

 その右手には破壊を、左手には創造を宿す、三位一体の神。


 世界を守るため、彼女は拳を振るった。

 ――神としての義務のために。己の信ずる使命のために。


 

 対するは、死霊術師シード。

 銀の短髪を揺らし、黒衣を纏った若き男。

 冷徹な銀灰の眼差しは、感情を欠片も映さない。


 彼は、禁忌の術「死霊術」を使い、数多の死者を従えていた。

 生も死も等しく踏み越え、ただ力の果てを追い求めた。


 

 その日、二人は相対した。

 戦いの余波で、世界の均衡が崩れ始める。


 

「私は君を殺さねばならない……!」


 それはラナスオルの神としての決断。


 破壊の右手セヴァストに魔力が収束する。

 すべてを打ち砕く、絶対的神の権能。


 

「……なら、殺せばいい」


 シードはその粛清を受け入れた。

 これは人間の力がどこまで届きうるかの、神への「挑戦」。

 

 背後に無数の魂の残滓が漂う。

 彼の手で命を絶たれた者たちが武器であり、盾なのだ。


 

 ラナスオルは彼を止めねばならなかった。

 世界のため、人々のため――たとえその命を賭してでも。


 

 大地が裂け、海が干上がっていく。

 神術と魔術がぶつかるたび、ラナスの命脈が削られていった。


 

 そして、戦いの果て――。


 

 女神は、最後の力を振り絞った。

 破壊でも創造でもない。存在そのものを否定する力。

 


 「無」――それは、神ですら抗えない永遠の静寂。


 

「『無』……あなたが、そこまでの力を使うとは」


 シードは、どこか嬉しそうに目を細めた。

 死への恐れすらない、満ち足りた表情で。



「光栄ですね。僕は……神であるあなたを本気にさせたのですから」


 

 抗うことなく、彼は無の闇へと身を委ねた。

 まばたきすらする間もなく――溶けるようにその姿は掻き消えた。


 

 こうして、戦いは終わった。

 


 だが、勝者はいなかった。

 女神は力尽きて地に伏し、世界は荒廃した。

 精霊、人々――数えきれないほどの命が消えた。


 

 女神の魂は、再誕の循環へと還る。

 永い眠りの果てに、いつか再び目覚めるだろう。

 


 この日、すべてが終わったはずだった。

 


 ――これは「女神に殺された男」の罪と再生、そして「愛」をめぐる、果てなき神話の幕開けである。

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