彼のコト
桜 奈美
第1話 風が吹いたから
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私の彼は、知れば知る程よく分からない人。
だけど…ずっと傍にいたい人。
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いつも優しく微笑んで、口調はハッキリしていて尖っているけど、何故か柔らかな空気を放つ周りから見れば誰からも好かれる人に感じただろう。
あの店で、偶然すれ違った時から、私の心は彼に染まってしまった。
会社の同期に誘われて新しいレストランにランチに行った店で、彼も同僚らしき人達と来ていた。私はトイレに向かう曲がり角で彼と偶然出くわした。
すれ違っただけなのに、時が止まったように感じ、あの瞬間恋に落ちてしまった。
それから何度かその店に行くようになり、彼に会わないかとソワソワしていた。
まるで学生の頃の様なトキメキを感じていた。
だからといって、この時は彼と付き合いたいとかは思ってはいなかった。
ただ、彼に会いたかった。
ある日、レストランに出掛けると珍しく彼は一人で来ていた。
私の同僚が少し席を外した時、ゆっくり彼は私の所に来て無言でコースターを置いて去って行った。
私は突然の出来事で動揺しながら、隠すようにコースターを鞄に慌ててしまった。疾しい事なんて無いのに何故かこの時はそうしていた。
会社帰りの電車の中、鞄の奥に忍ばせているコースターを見たい様な見たくない様なもどかしい気持ちでソワソワしていた。
いつものコンビニにも寄らず、早足で帰宅して着替えもせずに座り込み呼吸を整えながら、そっと鞄に手を滑らせた。
私は彼から貰ったコースターを見て?が頭を駆け巡った。
そこには謎の絵が描いてあり、何故私に渡したのか分からなかった。
あの店で私が勝手にチラ見していただけで、目を合わせた事なんてない。
彼が私に謎のコースターを渡すなんて、どう考えても理由がわからない。ふと、ほんのわすがでも期待していた自分が急に恥ずかしくなっていた。
しかし、それから彼は店で会うたびに、こっそり私にコースターを差出してきた。
からかっているんだと思っていても、何処かで心がときめいてドキドキが止まらなかった。
相変わらず謎の絵だけの物で言葉の一つも無いコースターに私には意味を解読する事は出来なかった。
しかし、暫くすると彼は店で出会ってもコースターをくれなくなった。
{やはり、からかってたんだ…}
と思ってしょんぼりしながら歩いていると、通りの反対側で彼が私を手招いて立っていた。
その時、私と彼の間には優しい風が吹いて緑葉が舞い散っていた。
彼のコト 桜 奈美 @namishi
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